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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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666 ラストガーデン37

「ちぃ、このビーストどもめよぉ!」

 ポニーテールの少年がキョロキョロと周囲を見回し、料理が並んでいるテーブルへと走る。そして、その上からいくつかのナイフとフォークをつかみ取り、こちらを取り囲もうとしている犬型のビーストたちへと投げ放つ。


 ナイフの方はビーストにはね返されたが、フォークは運良く刺さる。


 ……。


 だが、それだけだ。


 刺さったのは一匹だけだ。それでこちらを取り囲もうとしているビーストたちが何とかなった訳では無い。フォークが刺さった一匹も何事も無いかのように元気に走り回っている。


 犬型のビーストの数は十体。そう、たったの十体だ。


 言うことを聞く個体をそれだけしか用意が出来なかったのか、それとも俺を舐めているのか。十という、とてもキリの良い数――これは俺を舐めている方だろう。


「銃が使えれば、こんな奴らに!」

 ポニーテールの少年は親指を噛みながら考え込んでいる。この状況を打破するために脳をフル回転させているのだろう。


 俺は小さくため息を吐き、白銀の刃の先端を司会の男へ向ける。

「それで? これでどうにかなると思っているのか?」

「そんな風に強がったところで駄目ですよ。刃物を隠していたのは驚きですが、そんなもの一つでこの状況を変えられるとでも? 皆さん、見てください! 刃物一つでビーストに立ち向かう勇者の戦いです! 彼らは何秒生き残ることが出来るでしょうか! まずは十秒からです! 皆さんのベットが終わってから、ビーストは攻撃を仕掛けます。良かったな、お前たち、それまで生きてられるぞ!」

 眼帯をした司会の男は面白いことを言っている。


 俺は白銀の刃を構えたまま待つ。


「ふふ、では十秒に十ゴールドを賭けようか」

「おっと、それでは私は一分に六十ゴールドを賭けよう」

「おやおや、またずいぶんと冒険をなさる。一分とは大きく出ましたね」

「おっと、お気付きでない? 彼らは二人組ですよ? そう、一人を犠牲にすれば一分くらいは時間が稼げるはずです」

「おー、それは確かに。素晴らしい、慧眼だ。では私は一分三十秒に十ゴールドを賭けておきましょうか」

 奥で観戦をしている馬鹿たちは面白いことを言っている。


 まだ足りないらしい。


 まだ分かっていないらしい。


「それで? 俺はいつ動いたら良い?」

 俺は肩を竦め、眼帯をした司会の男に聞く。

「おやおや、小さな勇者はずいぶんと勇ましい! 好きな時に攻撃したらどうですか? それくらいは挑戦者にチャンスを与えましょう。ただし、攻撃を仕掛けた瞬間、ビーストはお前たちに襲いかかります。死に急ぐ必要はないでしょう。貴重な時間を満喫したらどうですか?」

 眼帯をした司会の男はニヤニヤと笑いながらそんなことを言っている。

「そうか。だが、それならさっき攻撃したはずだろう? あの程度は攻撃のうちに入らないのか?」

 俺は親指でポニーテールの少年を指差す。


 俺の言葉を聞いた司会の男が腕を組み、考え込むポーズをとる。

「確かにそうですね。ベットも充分、そろそろ良いでしょう。かかれ! 食い殺せ」

 そして、犬型のビーストへ命令する。


 こちらを取り囲んでいた犬型のビーストたちが動き出す。輪を縮め、うーうーと低い声で唸り始める。


 そして、その十体の群れの中から二体がこちらへと飛びかかってくる。俺は普段通りに殴り飛ばそうかと思い、拳を握りかけ――それを止める。


 今後のことを考え、今回は白銀の刃を振るうことにしよう。


「うわああああ! 死んだ! だから、こんなところ来たくなかったんだよぉ!」

 飛びかかってくる二体の犬型のビースト――ポニーテールの少年が頭を抱えしゃがみ込む。


 そして、その二体が飛びかかってきた姿のままバラバラになる。


「それで? 十秒は経ったか? 分かりやすく俺が数えようか?」

 俺は大きくため息を吐き、肩を竦め、眼帯をした司会の男を見る。

「は? そ、そんなもので……。くっ、距離をとって攻撃をしなさい!」

 眼帯をした司会の男が顎が外れそうなほど大口を開けた間抜け顔を晒す。だが、すぐにその顔を引き締め直し、次の命令をする。


 犬型のビーストたちが大きく飛び退き、俺たちから距離をとる。その犬型のビーストの背中が盛り上がり、弾け、そこから機銃のようなものが現れる。いや、ようなものではなく、機銃だろう。


 その機銃がこちらを向く。


 距離をとって銃火器で攻撃か。


「死にたくなければ、そのまましゃがんでいろ」

 俺はポニーテールの少年に告げる。


 犬型のビーストたちの機銃が火を吹く。俺は円を描くように白銀の刃をきらめかせ、飛んできた銃弾を斬る。


 そのまま右手を犬型のビーストたちへと突き出す。

「斬鋼拳――」

 俺の右の拳が消える。正面の犬型のビーストが消し飛ぶ。

「――波」

 その衝撃が周囲へと広がる。


 波のように広がり、犬型のビーストたちを飲み込み、消し飛ばす。


 犬型のビーストたちは消えた。


 俺は戻ってきた右腕を軽くぶらぶらと振る。

「それで? ビーストたちは全て消えたようだが次はどうする? 追加があるなら速く出した方が良いぞ」

「ば、馬鹿な。お、お前は何者だ。何をした! どんな兵器を隠し持っている!」

 眼帯をした司会の男は間抜けなことを喚いている。


 俺は小さくため息を吐き、肩を竦める。どうやら、これ以上、ビーストは現れないようだ。そのまま司会の男の方へと歩いて行く。


「く、クソがっ! ゲームを無茶苦茶にしやがって! だ、だが、そこまでだ!」

 眼帯をした司会の男は勝ち誇った顔で俺を見ている。まだ何か奥の手があるのだろう。

「くくくく、お前はそれ以上進めない。分かるか?」

 俺の足が止まる。


 これ以上進めない。


 目の前に透明な壁がある。


「気付いたか! そうだ! お前はこれ以上進めない! その壁は! クルマの砲撃すらはね返す壁だ! ノアの奥地にあった遺跡から持って来た特殊な壁だ! どうだ! 何も出来ないだろ!」

 司会の男は楽しそうにそんなことを言っている。


 これが奥の手?


 俺は透明な壁を叩く。確かに硬い。殴ってすぐに壊せるような硬さでは無い。殴って壊すなら数百年程度は時間が必要かもしれない。それくらい異常な硬さをしている。


 だが。


 俺は白銀の刃を振るう。


 透明な壁がバラバラになる。


 この刃に斬れないものは殆ど無い。


 オウカの想いをこの程度で妨げられるものか。


「な、なんだとぉッ!」

 眼帯をした司会の男は間抜け顔で叫んでいる。


 お前たちは終わりだ。


 俺と敵対した時点でお前たちは終わっている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ようこそ狩り場へ! [一言] 今までのゲームメイキングで詰めが甘いのは分かってたけど、ここまで無能なのかー。 脱落したはずのガム君がここに立ってる意味も分析できないとは。 え、まさか腕の…
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