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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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663 ラストガーデン34

 見るべきところは見た。必要な分は見たということだ。これ以上は必要ない。


 俺は甲板を目指し走る。この遺跡は獄炎のスルトが元になっている。構造は獄炎のスルトだったころと似たようなものになっているはずだ。


 実験施設のあった最下層。そして、下層中層上層――甲板。


 俺が目指しているのは甲板だ。眼鏡は何故か頑なに甲板に行こうとしなかった。開けた場所では四方八方からビーストや機械(マシーン)に襲われ、危険度が高いという理由を口にしていたが、どうにもどこか無意識に甲板に行くことを避けていたのでは、と今は思っている。


 無意識に避けてしまうほど、教育され、すり込まれていたのではないだろうか。


 走る。


 ビーストはまだしも機械が勝手に増えることは無い。この遺跡で現れるビーストや機械(マシーン)たちは――ここで生産されたものなのだろう。そして、どうやらある程度は操れるようになっているらしい。完全に指示通り動かすことには、未だ成功していないようだが、簡単な命令程度なら可能なのだろう。


 だから、ここを課外授業で扱うことにしたのか。

 だから、ここで愉快なショーをやっているのか。


 俺は甲板を目指し走る。


 この遺跡で現れるビーストや機械(マシーン)たちは下層に行けば行くほど強くなっていく。上が弱く、下が強い。そんな探索する側に都合の良い棲み分けが出来ている。たまたまそうなっている訳ではない。そういう遺跡を見つけて課外授業に活用している訳でもない。


 ……。


 学園は知っていたということだ。一部の馬鹿どもを楽しませるために学園の生徒を生け贄に捧げている時点で分かりきっていたが、学園はここに深く関わっている。


 敵意が無いと勘違いしそうになるほど間抜けに徘徊している機械(マシーン)たちを排除し、上へ上へと急ぐ。上に行くほど機械(マシーン)たちは間抜けになり、楽になっていく。俺の進むスピードも上がる。


 そして、甲板に辿り着く。一、二時間ほどだろうか。二時間は経っていないだろう。


 俺が甲板に出ると――そこには無数の機械(マシーン)がひしめいていた。殆どが棒人間のような姿のたいしたこと無い機械(マシーン)たちだが、とにかく数が多い。この状況を見れば、甲板に行くのは止めよう、と思うかもしれない。


 俺は周囲を見回す。そして、それはすぐに見つかった。


 開けた甲板に艦橋が見える。


 あそこで間違い無いだろう。


 俺は艦橋を目指し走る。邪魔な棒人間を蹴り飛ばし、ナイフで押しのけ、走る。こちらに気付いた棒人間たちがわらわらと集まってくる。


 邪魔だ。


 こちらに絡みつこうとしている棒人間を投げ飛ばし、無理矢理、道を作り、進む。


 ……。


 そして、艦橋へと辿り着く。そこは不自然なほど機械(マシーン)たちが近寄らない場所になっていた。


 なるほど。


 俺は艦橋への入り口を探す。そして、見つける。


 だが、そこには屈強な二人の男が入り口を守るように立っていた。スーツ姿にサングラス――旧時代のボディーガードのような装いだ。


「止まれ」

「動くな」

 艦橋への入り口に近寄ろうとした俺に二人の男が制止の声をかけてくる。俺は肩を竦め、足を止める。


「何者だ?」

「この遺跡は現在立ち入り禁止になっている。通達したはずだ」

 屈強な男二人がそんなことを言っている。


 何者?


 見て分からないのか。


 俺も一応学園の生徒だ。


 と、そこで自分の姿に気付く。着ていた学園の制服がボロボロになっている。これでは学園の生徒だと分からないかもしれない。


 だが、だ。


 それだけでは弱い。


 何故、学園の生徒である可能性を考えない? 考えていない?


 学園の生徒がここに来ることはないと決めつけているのか?


 その理由は?


 ……。


 ん?


 銃声が聞こえた。


 だが、銃声はその一発だけで後に続かない。


 俺は音が聞こえた方を見る。そちらでは、機械(マシーン)の波に飲み込まれようとしている生徒の姿があった。生徒の中にも甲板に行こうと考えた者が居たらしい。俺がここに着たタイミングで現れるとは、なんともまぁ、運が良かったのか悪かったのか。


 その生徒は、手に持った銃を機械(マシーン)たちに向けて何度も引き金を引いている。だが、肝心の銃弾が出ていない。どうやら、このタイミングで故障したらしい。


 このタイミングで?


 こんな狙ったタイミングで?


 あり得ないだろう。


 あれは俺たちよりも先行していた学園の生徒で間違い無いだろう。そして、学園からの貸し出しの武器を選んでいた奴だ。


 つまり、そうなっているのか。


 この甲板では学園から貸し出しした銃火器は謎の故障をするようになっているのだろう。


 なんとも愉快なことだ。


 この屈強な男二人が俺を学園の生徒だと思わなかった理由。


 学園の生徒が甲板に来る理由が無い。来ないように教育している。そして、もし何らかのエラーで来たとしても武器が使えなくなり、そんな状況でここまで来ることは出来ないと考えている。


 そういうことなのだろうか。


 俺は機械(マシーン)の波に飲み込まれようとしている生徒を見る。そして、気付く。


 俺は小さくため息を吐く。


 もっと簡単な理由か。


 俺は自分の腕を見る。今の俺に端末はない。


 腕の端末で学園の生徒の動きを全て把握しているから、か。


 俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。


 あの学園の生徒を見殺しにすることも出来る。だが、同じ学園で学ぶ学友(・・)だ。このまま見捨てるのは寝覚めが悪い。


 一応、助けておくか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何とかと煙は高いところに登る! [一言] 運がいいのか悪いのか? 悪運は強そう。 甲板に来たってことは少なくとも他の生徒みたくゲーム洗脳に染まりきってはいないんだろうし。 それにしてもマ…
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