662 ラストガーデン33
「しかし、これ形になるんですかねぇ」
「ああ、エラーが出たんだったか?」
「ええ、そうですよ。所詮、ビーストってことですよ」
「まぁ、それを含めて、スポンサー様は形にすることを求められているんだろうがな」
白衣を着たガスマスクの男たちは、うんざりといった様子で不平不満をぼやき続けている。
「繁殖元に使ったビーストが悪かったのか」
「例の犬型ですか。命令に忠実という触れ込みでしたが……それよりも制御用のチップに問題があったのでは?」
「こちらの制御から外れ、命令を無視して例のショーに乱入して暴れ回ったのはなぁ。あんなもの予想できるか。それをこちらのせいにされても困る」
「やはり、制御チップですよ。制御チップ。どうせ、マシーン担当の奴らがちゃんと確認せずに渡してきたんでしょうよ」
「そもそも、この実験施設でショーをやろうなんてどうかしてるとは思わないかね」
「自由に使えるからでしょうね。スポンサー様の意向には逆らえませんよ」
「まぁ、お気楽に遊んでいるような連中がここまで来ることはないだろうが、それでも余所でやってほしいものだ」
「まったくです」
誰かの指示でビーストを繁殖させ、操ろうとしているのだろう。それは分かった。だが、それ以上のことは――ここに居てもあまり有益な情報は得られそうに無い。
奥に進んでみよう。
ビーストのなり損ないが浮かぶ水槽の影に隠れ、奥へと進む。
ここには監視カメラのようなものが無いことは事前に右目で見て確認している。何故、ここには監視カメラが無いのか。誰も侵入する者が居ないと思われているのか、見る必要が――見守る必要が無いと思われているのか? とにかく、ここにはカメラが無い。この場を監視している何者かに見つからないように、と心配をする必要は無い。ここで作業をしているぼんくら科学者にだけ気を付ければ大丈夫だろう。
安心して大胆に移動が出来る。
水槽が置いてある部屋もそれなりに機械機械したゴチャゴチャとした部屋だったが、奥はさらに異質な状態になっていた。良く分からない配管や配線、計器類が並び、無数の機械が積み上がっている。俺には、とりあえずあるものを適当につなぎ合わせ、積み上げただけに見える。意味が分かる者には大事な並びなのかもしれないが、ただゴミが積み上がっているようにしか見えない。
そんな部屋の奥に、炉のようなものがあった。かまどと言った方が良いのだろうか? かなり大きい。半径十メートル、高さも同じくらいだろうか。見上げるような大きさだ。
謎の装置だ。
中で何かが燃えているのだろうか? 周囲の景色が歪むほどの――かなりの熱さがある。
俺は熱さにうんざりとしながらかまどのような装置に近づく。
これはなんだ?
先ほどのエリアに居た、白衣を着たガスマスクの科学者らしき連中の姿は見えない。ここに近寄らないようにしているのだろうか? 熱くて近寄れないのだろうか? それとも近寄りたくない、か。
ここは――先ほどのビーストのなり損ないが浮かんでいる水槽では無く、この装置を隠していたのか?
これがここの秘密か?
よく見ると、そのかまどのような巨大な装置の横に、円形になった舞台のようなものがあった。それがかまどのような装置と繋がっている。かまどのような装置で作られたエネルギーで何かしているのか?
……。
あー、なるほど。
俺はこの装置がなんなのか思い当たることがあった。
俺は装置が起動するのを待つ。多分、それほど待つことなく、この装置は起動することだろう。
そして、装置が動き出した。
円形の舞台にくっついていた外枠らしきものが上昇し、その中に光りが走る。そして、それは一つの形になっていく。
機械だ。
機械が生まれている。
生まれたのはマッチ棒を組み合わせたような人型の機械だった。俺はこの機械に見覚えがある。獄炎のスルトに乗り込んだ時に戦ったことがある。そして、ここは獄炎のスルトを元にした遺跡だ。
これは3Dプリンターのような装置なのだろう。部品では無く、いきなり完成品を造り出すのはなかなか凄い性能だと思うが、元の獄炎のスルトは同じことをやっていたのだから驚きは無い。
獄炎のスルトに残っていた装置を何とか起動させることに成功したのだろう。そして、機械の生産を開始した。
……。
隠していたのはこれか。
生産装置。
機械やビーストを生産して何をするつもりなんだ?
どうせ、とても馬鹿げたことだろう。
俺は小さく――いや、大きくため息を吐き、肩を竦める。
このままには出来ない、か。
これは――獄炎のスルトをあのまま放置してた俺の責任でもある。絶対防衛都市ノアを再利用できないほど叩き潰さなかったのも不味かった。
俺は水槽の影に隠れながら来た道を戻り、このエリアと最下層を隔てる扉の前へと進む。外から入るのは難しそうな扉だったが、中からは違うだろう。あのガスマスクの科学者連中もここに籠りきりではないはずだ。生み出した機械やビーストのこともある。
俺は扉を調べる。そして、開閉装置らしきものを見つける。やはり、中からは簡単に開け閉め出来るようだ。
なるほど。
俺は開閉装置を確認し、適当な通気口に戻る。見るべきものは見た。
ここはもう充分だ。
次はゲームメーカーとゲームマスターにご挨拶が必要だろう。誰に喧嘩を売ったのか、分からせる時が来た。
さあ、行こうか。




