660 ラストガーデン31
俺は偵察に行くような形を装い、軽い調子で安全地帯と呼んでいる部屋から離れる。そのまま一人で遺跡の下層を探索する。
ぶらりと歩く。
そして、すぐにこちらの進路を塞ぐような形で機械が現れた。無限軌道の上に人型の上半身が乗っかった形をした機械だ。今回は片腕が機関銃、もう片方の腕がドリルになったタイプのようだ。このタイプの機械をよく見かけるが、よくある量産型だからなのだろう。
機関銃になった腕がこちらを向く。俺はその射線から逃れるように走る。だが、銃弾の方が早い。銃弾が俺を穿つ。俺の右足に銃弾が撃ち込まれ、足がもつれる。そのまま倒れ込む。
このままでは逃げ切れない。
無限軌道が唸りを上げ、こちらへと迫る。俺は慌てて立ち上がり、動かなくなった右足を引き摺り、なんとかその場から離れようと足掻く。そんな俺の背中に機械のシャシーによるぶちかましを受ける。強い衝撃に俺の体が逆くの字に曲がる。そのまま機械のドリルのようになった腕で、俺の体が貫かれる。
俺の腹からドリルの先端が生えている。それが唸り上げて回転する。俺の体を中からねじり引き千切っていく。
口から血がこぼれ落ちる。
俺は助けを求めるように手を伸ばす。だが、そんな俺を助けてくれる存在は――無い。
「あが、あが、が……」
体からドリルを引き抜くようにあがく。だが、回転するドリルを引き抜くことは出来ない。手がボロボロになっていく。俺の腕に巻き付けていた端末もボロボロになり、壊れ、するりと落ちる。
助けを呼ぶための端末が……、
……。
そうやって俺は絶命した。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
目覚める。
俺はどれくらい死んでいた?
時間は?
ここは?
……。
俺は右のこめかみを軽く叩き、周囲の状況を確認する。
大丈夫なはずだ。
場所は遺跡の下層で間違い無い。だが、死んだ場所とは違う。どうやら、俺を殺した機械はドリルで俺を貫いたまま、下層のクルージングを楽しんでいたようだ。
……。
俺は周囲を見回す。
ここは下層にある部屋らしい。ここも彼らに言わせれば安全地帯なのだろう。そう考え、思わず口角が上がる。これが安全地帯なものか。機械が入り込み、死体を捨てていった場所の何処か安全地帯か。
……。
部屋に機械の姿は無い。どうやらご機嫌な機械は俺の死体をここに投げ捨て、また下層のクルージングに出掛けたようだ。俺の復讐、叶わず……らしい。
さて。
俺が目印を付けておいた青い光点は残っている。ヴァレーも、眼鏡も、猿顔も、のっぽも無事なようだ。キザったらしい少年の無事までは分からないが、まぁ、大丈夫だろう。
俺はそのまま時間を確認する。俺が死んでから約六時間ほどが経過しているようだ。
「ふぅ」
あまり時間をかけず回復したことに思わず安堵のため息が出る。そこまで体がバラバラにならなかったのが良かったのだろう。死に方を工夫した甲斐があったようだ。
……。
危険だと判断し、教員を呼んだ場合はグループ全員が失格となる。では、生徒が運悪く死んでしまった場合は? 生き残ったものたちだけで続行になるだろう。
これで俺は死亡した。腕輪の端末も無事、破壊することが出来た。これでゲームメーカーは確実に俺が死んだと判定してくれるだろう。
もしかするとその情報がヴァレーたちに伝わっているかもしれない。俺の死を伝えにゲームメーカーの手の者が――誰かがヴァレーたちのところへ行ったかもしれない。だが、大丈夫なはずだ。俺はヴァレーに伝えている。
誰が来ても中に入れるな、と。
眼鏡や猿顔など他の連中がヴァレーの邪魔をした場合だけが問題だったが、青い光点の位置を見る限り、今のところは大丈夫のようだ。
この間に――この自由時間の間に終わらせてしまおう。
まったく……最初からこうするべきだった。いや、それは結果論か。
そう、俺には、こうすることをためらう、ただ一つの不安があった。俺が死に、生き返るまでの時間に何かあった場合、何も出来ないということだ。それを考えれば茶番に付き合う方がマシだと思っていたのだが……。
いや、これ以上、考えるのは無駄か。どちらにせよ、俺は選択し、その賭けに勝ったのだから。
だから、この手に入れた時間で終わらせる。
まずは――何からすべきか。
この下層には秘密がある。それを探るべきか?
それともゲームメーカーを探すべきか?
この遺跡にゲームメーカーが居るのは間違いないだろう。でなければ、機械やビーストたちの誘導、遺跡の罠の発動などがタイミングよく行えるはずがない。
下層の探索か、ゲームメーカーの捕獲か。
どちらも行なうべきだが、問題はどちらを優先するか、だな。
……。
せっかく下層に居るのだから、下層を探るか。そこまで時間はかからないはずだ。
その後、ゲームメーカー、か。
ゲームメーカーを捕獲した後は、この愉快なゲームを楽しんでいる視聴者の皆さんにも舞台に上がって貰うべきだろう。
それでは愉快なゲームの幕開けだ。




