654 ラストガーデン25
このキザったらしい少年の目的は分かった。分かったからといって、こいつの行動を理解出来る訳がない。理解したくもない。
俺は向けられた銃口を無視し、キザったらしい少年の元へと走る。周囲の完全武装をした兵隊たちが遅れて反応する。どうやらあまり質はよろしくないようだ。
本当に質が悪い。
「当たるぞ」
俺はこちらに銃口を向けている馬鹿な兵隊たちに助言する。馬鹿みたいに俺の動きを追いかけ、こちらに銃口を向けているが、そのまま引き金を引けば、このキザったらしい少年に当たってしまうだろう。
……はぁ。
思わずため息が出る。
兵隊たちから放たれた銃弾を――軌道を読み、キザったらしい少年に当たる物だけナイフで弾く。
「あ?」
キザったらしい少年は状況が分かっていないのか間抜け面をさらしている。もしかするとこいつもある意味では被害者なのかもしれない。だとしてもやり方を考えれば同情は出来ない。
とりあえずキザったらしい少年の手からリモコンのような機械を叩き落としておく。
さて。
俺はこちらに銃口を向けている兵隊たちを見回す。なかなか面白い状況じゃあないか。ゲームメーカーの軌道修正としては上手くやった方だろう。
これは――先輩が乱入して、その兵隊が襲いかかってくる。彼らは上手く逃げられるでしょうか? と言った展開というところだろうか。その乱闘騒ぎの中で乱入してきた先輩も死ねば、この事件がそいつのせいになるだろう?
このキザったらしい少年の後ろ盾は、実家――七人の武器屋のショーヘーが起こした武器屋で間違い無いだろう。だが、そこまで重要視されていないようだ。七人の武器屋の威光が落ちているのか、この少年自体が替えの効く存在程度にしか思われていないのか、まぁ、そんなところだろう。
「ヴァレー! お前を縛るものはない。お前自身が考えるんだ」
俺は小柄な少年に告げる。
小柄な少年は涙を流し、震えながら、こちらを見る。俺は頷きを返す。
「ぼ、僕は……」
小柄な少年は腕の装置へと伸ばしていた手を止める。
「おい、おいおい! 邪魔するな! このクソがッ! そいつはここでリタイアだ。邪魔するんじゃねえよ!」
キザったらしい少年が喚いている。小柄な少年をリタイアさせることに夢中で周囲の状況を分かっていないようだ。
「お前は知っていたんだろう? 今回のことを、事情を知っていたんだろう?」
「こ、今回のこと? な、な、なんのことだ?」
キザったらしい少年は分かりやすいくらい狼狽している。
俺は小さくため息を吐く。
「少し眠っていろ」
俺はキザったらしい少年の腹部を思いっきり殴る。
「ぐぽあぁ」
キザったらしい少年が白目を剥き、泡を吹いて倒れる。殺してはいない。邪魔になるから気絶させただけだ。
俺は兵隊たちを見る。完全武装の兵隊たちだ。プロテクター付きの防護服に、表情が見えないバケツのようなヘルメット。武器は突撃銃。そんな兵隊が十人ほど。キザったらしい少年を入れれば十一人居ることになる。なんともまぁ、大げさな数を注ぎ込んだものだろうか。
次に狙うのは俺か、それとも小柄な少年たちか。
この兵隊たち全員がゲームメーカーの手によるものなのか、それとも一部だけなのか。
……どちらにせよ、全員倒せば同じか。
基本的に他のグループと争うことは認められていないらしいが、こいつらは課外授業に参加しているグループではない。俺が自由にやってしまっても問題無いだろう。
兵隊たちの銃口がこちらに向けられ、火を吹く。
俺は小さくため息を吐く。
俺を狙ってきたか。良いことだ。小柄な少年たちが狙われるよりも対処しやすい。
俺は銃弾をナイフで弾きながら兵隊たちへ踏み込む。
「遅い」
一人の兵隊の懐へと入り込み、そのまま下から上に掌底を放つ。顎を打ち、脳を揺らす。完全武装の兵隊が崩れ落ちる。
「まずは一人」
俺に対する警戒のレベルを上げたのか、兵隊たちが大きく飛び退き、分かりやすいほど距離をとる。
遠距離攻撃の手段を持ってないと思われる俺を近寄らせないためだろう。なかなかプロフェッショナルな動きだ。
だが、甘い。
俺は集めていた礫を指で弾く。
狙うのは連中の持っている銃だ。
砲身に礫を受け、射線が逸れる。俺はそのまま距離を詰め、兵隊の一人の膝を払い、地面に転がす。一瞬だけ足を獣化させ、その力で兵隊の頭を踏み潰す。
これで二人。
「まさか、ミュータントだと」
兵隊の一人が呟く。
「ほう、喋れたのか。だが、間違っている。俺はミュータントではない」
「化け物が!」
兵隊たちが銃口を俺に向ける。
俺は礫を放つ。
「同じ手を!」
兵隊の一人が突撃銃を庇い、その身で俺の礫を受ける。
……。
礫がはじかれた。
俺の礫では兵隊たちの防護服を貫くことは出来なかったようだ。完全に防がれている。そのタイミングを狙い、他の兵隊がこちらに銃弾を放つ。俺はナイフで弾丸を弾く。その俺の死角を狙うように兵隊が動いている。
兵隊たちの全員が連携し、俺を倒すために動いている。兵隊に偽装し、潜伏していたゲームメーカーの手駒は一人か二人くらいだろうと思っていたのだが、予想外に全員だったようだ。キザったらしい少年は残念ながら、とても人望がなかったようだ。
なるほど、なるほど。
「これを見ている連中に逃げられると厄介だから、ここまで見せるつもりはなかったが、良いだろう。俺の力の一部、見ていくが良い。そして、怯え、震えろ」
俺は小さくため息を吐き、右腕だけを獣化させる。その右腕を肩をほぐすように回す。
さあ、狩りの時間だ。




