065 賞金稼ぎ02――『お前かよ!』
オフィスのエントランスで一人、案内のものがやって来るのを待つ。
……視線を感じる。
深夜だというのにオフィスは盛況なようだ。
「今回は三人も残ったのか」
「うひひい、賭けは勝ちじゃん」
「一人は餓鬼だぞ。さっきの二人が優秀だったのか、それとも今回は難易度が低かったのか。優秀なヤツなら歓迎だがな」
「あの服装を見ろ。ズタボロだぞ。おとりにでも使われて生き延びたのかもしれないな」
俺の服装のことは無視して欲しいところだ。好きでこうなった訳じゃない。大きなため息が出そうになる。
……。
……ところで、俺はいつまで見世物にされていれば良いのだろう。
「お待たせしました」
しばらく見世物になった後、地味そうな眼鏡の女性がやって来る。
「そろそろ見物料を取らないと駄目かと思っていたところだ。何かあったのか?」
「お呼びしていながら申し訳ありません。マスターに急な来客があり、外せなかったのです」
地味そうな眼鏡の女性が、その眼鏡をクイッと持ち上げ謝る。
『ふふふん』
『セラフ、何か言いたそうだな』
セラフは随分と楽しそうだ。何か良からぬことを考えているのかもしれない。
「なんであの餓鬼に姐さんが……」
「今回の試験、何か問題でもあったのか?」
「ボロ儲けじゃん」
たむろしていたクロウズの連中を横目に案内されるまま建物の奥へと進む。
「この時間にも人がいたことを気にしていますか? パンドラの関係上、狩りは日中が基本になるからなんですよ」
眼鏡さんは聞いてもいないことを聞いても分からない説明で教えてくれる。この眼鏡さん、あまり性能はよろしくないようだ。
『この女性も人造人間なんだよな』
『ふふん。何を今更』
『あそこでたむろっていたクロウズの連中は人だよな?』
『お前は馬鹿なの? それとも人とは何かっていう概念的な話?』
『お前に聞いた俺が馬鹿だったよ』
『今頃気付いたのぉ?』
とにかく、あそこでたむろっていたクロウズの連中は人で間違いないようだ。そして、あの連中は、この受付嬢が人造人間だということに気付いていない。
機械が人を支配しているのか?
『はぁ、今更?』
セラフの言葉を無視して歩く。
そして部屋に辿り着く。
「こちらです。中でマスターがあなたを待っています」
眼鏡さんが一歩下がり小さくお辞儀をする。
俺は促されるまま部屋に入る。
そこに居たのは二人の女性だった。一人は先ほどの女性と同じ黒を基調としたシンプルなスーツ姿の女性。もう一人は人形のような少女だった。
その人形のような少女がスカートの裾を持ち綺麗なカーテシーを行う。
「ガムさん、お初にお目にかかります。私がこのレイクタウンのマスターをしているオーツーです」
金の髪に碧眼、アンティークドールを思わせる容姿の少女だ。こちらの少女の方がオーツーか。
まるで人形のような……いや、本当にそうなのかもしれない。この少女の姿も本体ではなく、端末か何かなのかもしれない。そう思っていた方が良さそうだ。
「ああ、ガムだ」
とりあえず名乗っておく。
「それでそっちは?」
俺は顎でもう一人の女をしゃくる。来客があって遅れたと言っていた。この女が、その来客か。にしてはオフィスの受付嬢にしか見えない。
オーツーがこちらへと笑いかける。
「彼女はセラフさんです」
……。
『私じゃない!』
『お前かよ!』
俺は顔を引きつらせながら口を開く。
「そ、そのセラフさんが何の用で、そこにいるんだ?」
「ガムさんはいずれ最前線に出てもおかしくない優秀なクロウズに育つと思いました。そして、そのためには私たちも支援が必要だとも思ったのです。セラフさんは、あなたの、そのサポート役です」
オーツーは良い笑顔のままだ。
『何を企んでいる?』
『何も?』
セラフの何処か得意気な様子が分かる。
「ガムさん、誤解しないでください。セラフさんは君の監視役ではありません」
俺が何も言わなかったので、オーツーは俺が誤解していると思ったようだ。
『なんのつもりだ?』
『ふふん。お前と行動してもおかしくないようにしただけ。ここの管理者はその立場が不満だったようだから、ちょっとしたご提案で取り引きしたの』
ご提案、ね。ろくなことじゃなさそうだ。
「ガムさん、セラフさんは役に立ちますよ」
俺は大きなため息を吐き出す。
「いや、分かった」
「そうですか。助かります」
オーツーは微笑んでいる。どいつもこいつも笑顔だ。笑顔には相手を安心させる効果があると聞いたことがある。人形どもはそれを利用しているのだろう。
「セラフ、ガムだ。よろしく頼む」
『お前のお遊びに付き合ってやるよ』
俺はセラフの方へと手を伸ばす。
「ええ、よろしくお願いします、ガムさん」
『ふふん。感謝しなさい』
セラフが俺の手を握る。
笑顔で握手だ。ああ、俺の笑顔はとても良い笑顔だろうな。セラフの笑顔もとても良い笑顔だ。
「クロウズになってからのことは……後の詳しいことは彼女から聞いてください」
オーツーの言葉に合わせたように先ほど俺を案内した眼鏡さんが部屋に入ってくる。
「ガム君、どうぞこちらに」
後はこの眼鏡さんが対応してくれるのか。
俺はオーツーの方を見る。
「話は終わりで良いのか? 何か俺に話があったんじゃないのか? 聞きたいことがあったんじゃないのか?」
オーツーは微笑んだ顔のまま首を横に振る。
「ガムさんの顔が見たかっただけです。では、頑張ってください」
話は本当に終わりのようだ。
『セラフ、お前が何かをしたのか?』
『ふふん』
何かしたのか。
まあ良いさ。
俺は小さく肩を竦める。
そして、そのまま眼鏡さんとともに部屋を出る。
「あなたはセラフさんですよね?」
眼鏡さんがセラフに話しかける。
「そんなことも聞いていないとか、使えない」
セラフが小馬鹿にしたような顔で眼鏡さんを見る。
「申し訳ありません。私程度では使える領域にも限界が……」
「いいから、私とガムさんを案内して」
偉そうなセラフも一緒に来るようだ。
『さん付けとは気持ち悪いな』
『ふふん。これからもガムさんと呼んであげるから』
セラフは上機嫌だ。
ほんと、こいつはどうしようもない。




