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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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648 ラストガーデン19

「おい!」

 俺は眼鏡に呼びかけ、手を伸ばす。


 だが、何の反応も返ってこない。どうやら、落とし穴に落ちた衝撃で気を失っているようだ。


 俺は穴の壁を蹴る。その勢いのまま眼鏡を捕まえ、確保する。


 ……。


 落ちる。


 俺は穴の壁を蹴り、落下する勢いを殺しながら落ちる。


 そして、着地する。両足が砕けそうなほどの衝撃が走る。折れたか? 折れたな。だが、問題無い。この程度なら人狼化するまでもなく再生する。


 俺は天井を見る。


 ずいぶんと長く落ちていた。多分、ここは船の最下層だろう。確か、この眼鏡が、かなり危険なマシーンやビーストが巡回(・・)していると言っていたか?


 巡回、か。


 何か重要な秘密でも隠されていそうな雰囲気だが、どうだろうか。もし、そうだとしたら、そんな場所にこの眼鏡を落とす理由は何だ? 落下死させるためだろうか? 俺は天井の穴を見る。十メートル以上は落ちただろう。確かに普通の人間なら死んでもおかしくない高さだ。だが、機械(サイバー)化などの特殊な処置がされていれば生き残ってもおかしくない。

 もし、本当に殺すつもりなら落とし穴の底に針の山でも並べておくか、何処にも行けないように四方を閉じておくか、それくらいやっても良いだろう。


 俺は周囲を見回す。


 そこそこの広さの部屋だ。左右に通路も見える。ただ普通に、最下層へ落ちただけに見える。


 ……。


 どうにも殺意が足りない。


 多分、眼鏡が生きていても死んでいてもどちらでも良かったのだろう。今回の罠、これは、リーダーシップを発揮し、俺たちを先導していた眼鏡が消え、どうしたら良いか分からず慌てる俺たちの姿を見ようと思って、ではないだろうか?


 俺たちの中心が眼鏡で、俺たちを引っ張っているのも眼鏡――今までの俺たちの行動を観察し、そういう風に見えたのだろう。


「う、ううう、は? ここは?」

 抱えていた眼鏡が目を覚ましたようだ。俺は手を離し、眼鏡を放り投げる。

「怪我はないはずだ。もう自分で歩けるだろう?」

「僕は、穴に落ちて……は! 君も落ちたのか」

 眼鏡が慌てた様子で天井を見、そこに何処までも――先が見えないほどの穴が開いているのを見つけ、そして明らかに困惑した様子で俺を見る。


 俺は肩を竦める。


「ここは遺跡の最下層だろう。それで、どうする?」

「どうする? どうするだって? どうにか出来るのか! こ、こんな状況で! 最下層? 下層エリアだなんて、どうにもできない! 進むのは自殺行為だ。死ぬしかない。そんな……僕は、僕は結果を残さないと駄目なのに……ありえない! こんなことってあり得るか! 僕は……」

 眼鏡が爪を噛みブツブツと呟いている。命が助かっただけでも儲けものだと思うのだが、そこには考えが至らないようだ。


「それで?」

「それでだって! あー、ふぅ。落ち着け、落ち着け。まだ何か手はあるはずだ。僕はまだ大丈夫だ。ふぅ、事故。そうだ、今回のことは事故だ。先生に通信で事情を話してみるよ」

 眼鏡がハッとした様子で最初に装着させられた腕輪を操作する。そして、その顔がみるみるうちに曇っていく。


「……なん、だって。通信が出来ない。エリア外になってしまう!」

 そして、眼鏡が絶望の声を上げる。


 なるほど。


 エリア外、か。


 俺は小さくため息を吐き、右のこめかみを軽く叩く。


 エリア外になる訳がないだろう。ここを課外授業に選んだのは学園だ。学園は事前に何も調べていないのか? 俺たちは通信も出来ないシークレットエリアに落ちてしまったのか?


 ……無いな。


 こんな面白い事態を見逃すだろうか。


 見逃すはずがない。


 エリア外?


 そんな都合良くエリア外になるものか。


 ヴァレーには保険をかけている。俺が鍛えたのだから、まず問題は無いと思うが、それでも万が一がある。そのための保険――だから、向こうは心配していない。


 問題はこちらか。


 ここからは俺と眼鏡を殺す気で来るだろう。


 そろそろ、このゲームを盛り上げるための、刺激と脱落者が欲しいところだろう。


「どうする、どうするんだ。どうすれば、ここで待っていれば異常を感知した先生が助けに来てくれるだろうか? ベニシオとシープが救助を依頼してくれるかもしれない。そうだ、ここで待っていれば……」


 俺は天井の穴を見る。


 あそこから戻るのは無理だ。俺一人なら駆け上がれるかもしれないが、落とし穴の蓋が閉じている可能性だってある。そうなると少々厄介だ。それなら眼鏡と一緒にここから上に進むルートを探すべきだろう。


「上へと進む道を探そう」

 俺は眼鏡に提案する。


「何を言っているんだ! 遭難した時の基本を知らないのか? ここは皆を信じて待つべきだ。君は仲間を信じることも出来ないのか!」

 眼鏡はそんなことを言っている。


 眼鏡が言っていることも間違いでは無い。通常の状況なら、それも有りだ。だが、今は違う。


 これは眼鏡が無能だという話ではない。眼鏡は知らないだけだ。気付いていないだけだ。その状況で分かれ、と言う方が無理があるだろう。


 このままここに眼鏡を放置することも出来る。


 この眼鏡がどうなっても良いなら、面倒事を避けるなら、自己責任だと切り捨てて放置するべきだろう。だが、俺は全員生かしたまま、このくだらないゲームを終わらせるつもりだ。このゲームをひっくり返してやるつもりだ。


 今回は全員、助ける。


「わかった」

「そうだ。分かってくれたか。君もそこまで馬鹿じゃなかったか」

「ああ、分かった。殴ってでも、無理矢理引き摺ってでもお前を連れて行く」


 さあ、攻略開始だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 盤面をちゃぶ台返しだ! [一言] 仕込みなんて台無しにしてやれだぜー。 それにしても二手に分かれさせてピンチを演出して一方を脱落させる? この演出家、オリジナリティが足りてないな。
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