644 ラストガーデン15
「今後は上にも気を付けてくれ」
眼鏡の少年が命令するような言い方で話しかけてくる。
「へへ、任せてくれよ」
今後は上にも気を付けながら探索を続けるようだ。
「あー、何処に向かうんだー?」
歩き疲れてきたのかのっぽな少年がのんきに眼鏡の少年に話しかけている。
「この遺跡はまず間違いなく僕の知っている遺跡だね。この遺跡は四層に分かれている。まずは甲板と呼ばれるエリア。甲板エリアは、いつ何処からマシーンたちが襲いかかってくるか分からない。ここに向かうのは論外だ」
「へー。そうなんか。へへ、さすがだぜ」
「あー、で、何処に向かうんだー?」
のっぽな少年の言葉に眼鏡の少年が眼鏡をクイッと持ち上げる。
「結論を急がないで欲しいね。次が上層、多分、今、僕たちが居る場所のことだ。ここはあまり危険なマシーンやビーストが出ないと言われている。出来れば、ここで休める場所を探したいんだ。次は中層、ここは……」
「あ! 上から来るぞ」
猿顔の少年が叫び、天井に弾丸をばらまく。
ポトリポトリと蜘蛛型の機械が落ちてくる。
「さっきはこれで倒せたのに、効いてないんか?」
落ちてきた蜘蛛型の機械は二体。そのどちらも無傷のように見える。猿顔の少年を訂正するなら、効かなかったのでは無く、当たらなかった、だろう。
蜘蛛型の機械が頭部分をくるりと回転させ、ゆっくりとこちらへ迫る。
「撃て、撃て、良いから撃つんだ」
「へへ、そうだぜ」
「あー」
横並びになった三人が手に持った武器を乱射する。次々と撃ち出される銃弾が蜘蛛型の機械を削り、穿つ。
「はぁはぁ、終わったか?」
「へへ、楽勝だぜ。マシーンもたいしたことが無いな。こんなんでクロウズどもは高い報酬を取ろうとしてたんかよ」
蜘蛛型の機械はボロボロの穴だらけになっている。戦闘は終わったようだ。
再び、探索に戻る。
「中層は部屋が多いと聞いている。安全な部屋も多いと思うが、上層よりも危険なマシーンやビーストが出ると聞いてるからね、やはり上層が一番だよ。最後は下層。かなり危険なマシーンやビーストが巡回しているらしい。僕たちでは死にに行くようなものだね」
「へー、これだけの武器があってもなんか? 少しは苦労するかもしんないが大丈夫だろ」
「いや、過信しない方が良い。無理をする必要は……」
「あー、どうでも良いからー、早く休みたいよ。もー疲れた」
三人は仲良く話をしている。
俺はその会話を聞き流しながら別のことを考えていた。
この機械は何処からやって来た? 地上を徘徊していた機械の残党がたまたまここに集まった? 集まった機械がここに巣を作って繁殖しているのか? いや、機械は生き物じゃあない。何処かで生産されなければ増えることは無いだろう。
この機械の目的はなんだ? 機械なら目的があるはずだろう? 人類の抹殺であったり、施設の防衛、施設の保守管理などなどだ。目的も無く、徘徊しているのか? 近寄ってきた人を殺すだけの機械だとでも言うのか?
これはどういうことだ?
獄炎のスルトに何体かの機械が破壊されずに残っていた? こいつらはそれなのか?
いや、あり得ないだろう。
俺が――俺たちが獄炎のスルトを攻略してからどれだけの年数が経ったと思っている。その時の機械が残っているはずが無い。だが、それでも、だ。もし、もしだが、残っていたなら――こんな学生のお遊びに使うはずが無いだろう。
それに、だ。上層中層下層で敵の強さが違う? なんて都合が良い話だろう。普通は層なぞ考えず、守るべき場所のレベルに合わせるべきだろう? こいつらは機械だろう? 流れてきて住み着いた獣とは違う。
コストを考えなくても良いなら全ての場所に強力な機械を配備するはずだ。進入口なんて、もっとも塞ぐべき場所だ。強力な機械が居てもおかしくない。なのに、入り口が弱い? 弱い、強いで場所がしっかりと分かれている?
……学園側で排除した後、という可能性もあるにはあるか。
にしても、だ。
あまりに都合が良すぎるだろう。まるで、こうなるようにコントロールされているかのような……。
「部屋だ!」
「へへ、誰も居ないぞ」
「あー、やっと休めるよ」
それにこいつらもだ。
なんで部屋で休むことにこだわっている? 何処だろうと休めば良いだろう? まるで遺跡にある部屋は安全、通路は危険だと信じ込んでいるような――なるほど。
そう教えられている、か。
のっぽな少年、猿顔の少年は気を抜いたように座り込んでいる。眼鏡の少年は腕を組み、考え込んでいる。
……。
さて、どうするか。
俺は部屋を見回す。そこそこの広さの部屋だ。学校の教室くらいはあるだろう。そこにコンテナのようなものが積み上がっている。すでに漁られた後なのだろう、中身はもちろん空だ。
扉や通路らしきものは見えない。入り口は俺たちが通ってきた通路だけのようだ。
「ここまで俺らが苦労したんだから、へへ、お前ら見張り」
「あー、楽した分、それくらいやるべきだよー」
猿顔の少年とのっぽな少年はそんなことを言っている。
「確かに、誰かが来るかもしれない。二人は入り口を見張って欲しい。それくらいは出来るだろう?」
眼鏡の少年は俺たちに命令をする。
「わかったよ」
小柄な少年は素直に頷いている。俺は肩を竦める。
三人は、ずいぶんと気を抜いている。警戒するべき場所は入り口だけ? しかも、どうやら他の生徒たちと遭遇することの方を警戒しているようだ。
「食事にしようぜ。へへ、何が入っているかな」
「賛成だー。もうお腹ぺこぺこだよ」
「確かに。戦闘が出来るのは僕たちだけだ。ここで食事をして、しっかりと休憩をするべきだ」
俺は小さくため息を吐く。
「ヴァレー、ここは俺が見張るから、お前も食事をして休憩しておけ」
「ガム君は?」
「俺は不要だ」
「でも」
「本当に不要だから、気にするな。ここまで警戒しながら歩いて疲れただろう? お前だって慣れてないことのはずだ。無理はするな。連中が気になるなら、そこのコンテナの影にでも隠れれば良いだろう」
「わかったよ」
小柄な少年は素直に俺の言葉に従うようだ。俺の言葉の意味を分かっているのだろう。
さて、と。
俺はため息を吐き、肩を竦めながら一つしか無い通路を見る。
何事も無いと良いのだが。




