643 ラストガーデン14
「へへ、余裕、余裕」
「ふぅ、これなら余裕ですよ」
「あー、余裕だー」
三人が新しく現れた棒人間を撃ち壊す。これで四体目だ。この程度の機械を壊すだけなら、落ち着いて対処出来るようになった今なら、武器の性能を考えればもう余裕だろう。
問題はこの三人が弾薬に限りがあるということに気付いているか、だ。雑魚を相手に必要以上の弾をばらまいているのだから、余裕で勝てて当たり前だ。初戦は仕方ない。実践に慣れていなかっただろうし、使い慣れている武器を使った訳でも無い。だが、落ち着きを取り戻した後も変わらないのはどうだろうか。
彼らはこの課外授業の目的を覚えているのだろうか? 今回の目的は、あくまで二日間の生存が目的だ。機械やビーストを倒すことで追加のポイントが貰えるといっても、それはオマケでしかない。
こういったことを注意し、指導することこそ必要なのではないだろうか。このままでは彼らは失敗するだろう。もしかすると、この課外授業は彼らに失敗を学ばせるためのものなのだろうか?
……。
無いな。
俺は肩を竦める。
もし、そうなら、一部の者に自前の兵隊や武装を許可するようなことはしないだろう。
教員の連中は彼らに教えるつもりなんて無いのだろう。這い上がってくる者が居ればラッキーくらいの感覚なのではないだろうか。
「それで、当てはあるのか?」
俺は先頭に立って遺跡を進む眼鏡の少年に話しかける。
「忠告のつもりかい? まったくこういう口だけは……はぁ、僕があてもなく彷徨っていると思っているのかい? 君はこの課外授業の目的を覚えているかな? 生存だよ。そのために休める場所を探しているんだ。探索に集中したいんだから、余計な口は挟まないで欲しい」
眼鏡の少年はため息を吐きながらそんなことを言っている。俺は肩を竦める。
一応、分かってはいるようだ。本当に分かっているか心配になるが、十二歳程度の少年ならこんなものなのかもしれない。仕方ない。何かあれば俺がフォローすれば良いだろう。
しばらく歩き続け、そして通路の先に扉を見つける。
「ここに入ります」
眼鏡の少年がホッとした様子で扉を開ける。休める場所が見つかったと思ったのだろう。
そして、扉が開いた瞬間、俺たちは八つの銃口にお出迎えされる。
武装した八人の兵隊と、その奥で優雅に食事をしている学園の生徒二人だ。
「何の用だ」
武装した兵隊たちのリーダーらしき人物がこちらに話しかけてくる。
「僕たちは休める場所を探しています」
眼鏡の少年がリーダーらしき人物に話しかける。
「駄目だ。ここは坊っちゃんたちが使う。お前たちは回れ右をして出て行け」
リーダーらしき人物が突撃銃を構えたまま出口の方へと顎をしゃくる。
「待ってください。あなたたちの邪魔はしません。この部屋の片隅で良いので居させて貰えませんか?」
眼鏡の少年はリーダーらしき人物に交渉を持ちかけている。銃を向けられているのになかなかの胆力だ。
リーダーらしき人物が大きなため息を吐く。
「坊っちゃんどうしますか?」
「追い出せ」
奥でのんきに食事をしていた少年が命令をする。
「そういうことだ」
「分かりました。僕たちの食料の一部を渡します。それで、どうでしょうか?」
眼鏡の少年はそれでもリーダーらしき人物に喰らいつく。自分たちの生命線である食料までベットして、交渉する。なかなかの根性だ、と言いたいところだが……、
「不要だね。そんな下民が食べるような配給食を僕たちが欲しがると思ったのかい? 僕たちはしっかりと準備している。準備不足の下民が僕たちの情けに縋ろうと? 不快な奴らだ。早く追い出せ」
俺たちは武装した兵隊たちによって部屋から追い出される。まぁ、そうなるだろう。彼らの言うことはもっともだ。お金が無い、後ろ盾が無い、色々な理由があるだろう。だが、どんな理由があろうと準備を怠っている方が悪い。それだけだ。
「はー、ムカつくぜ。親が金持ちなだけなのに偉そうにしてよ。俺たちだって戦えるのに、一緒に居た方が得だって分かんないとかさー。俺たちが倒したマシーンの数を知ったら、あいつら後悔するぜ。へへ、ビッグス、お前は悪くないぜ。良く交渉してくれたぜ」
「あー、だなー。戦えるのに、あいつらも協力した方が良いのに馬鹿だなー」
猿顔の少年とのっぽな少年が眼鏡の少年の横でそんなことを言っている。
「ああ、その通り。協力、今回の課外授業は協力した方が良いんだ。それが分からないのだから……仕方ない。気を取り直して他の場所を探そう」
眼鏡の少年が力強く拳を握りしめ、前を向き歩き出す。その後を猿顔の少年とのっぽな少年が追いかける。小柄な少年は何も言わない。
休める場所を求めて遺跡の探索を続ける。
眼鏡の少年は前方を注意深く警戒しながら、率先して先頭を進む。そして、その後を猿顔の少年とのっぽな少年が続く。俺と小柄な少年は殿だ。
……。
俺は小さくため息を吐く。
どうやら気付いてないようだ。
拾っておいた瓦礫を天井へと指で弾く。
不安そうな顔でキョロキョロと警戒していた猿顔の少年の前に1メートルはある蜘蛛型の機械が落ちてくる。
「へ? ひっ!」
慌てた猿顔の少年が突撃銃の引き金を引く。放たれた弾丸は先頭を警戒して歩いていた眼鏡の少年を巻き込む。
「うわっ!」
眼鏡の少年の前にシールドが生まれ、その銃弾を防いでいた。どうやら受け取った腕輪にシールドの発生装置が組み込まれていたようだ。それが無ければ眼鏡の少年は仲間の銃弾で怪我をしていただろう。
「あ、悪ぃ。へへ、でも俺が倒したぜ」
「気を付けてくれよ。こいつはクロースパイダーか。天井に張り付いて襲いかかってくる機械だね。運が悪ければ頭を持って行かれていたはず……気付かず襲われていたら、そう言う意味では運が良かったのか?」
眼鏡の少年は腕を組み、考え込みながら安堵の息を吐いている。
小柄な少年がその動かなくなった蜘蛛型の機械に近寄りかがみ込む。
「穴? 中に石? これがコアを潰したから? これが致命傷?」
そして、何かに気付いたのか俺の方を見る。
俺はただ、肩を竦めた。




