642 ラストガーデン13
近づけば端が見えなくなるほどの超弩級の大きさを誇る戦艦――その残骸へと俺たちは乗り込む。
「獄炎のスルト、か」
「ガム君、何か言った?」
「いや、なんでも無い」
獄炎のスルト――絶対防衛都市ノアの防壁に突っ込み、動きを止めた戦艦だ。それが今は遺跡となり、学園が課外授業の場として活用している。なんとも面白いことだ。
俺は小さくため息を吐き、戦艦の残骸の中を進む。
「誰も居ないね」
「どうやら、他のチームには、かなり先行されてしまったようだね」
小柄な少年の言葉に眼鏡の少年が反応する。
「へへ、ずいぶんと静かだ」
「あー、ほとんど倒されているんだな」
猿顔の少年とのっぽな少年も会話に加わる。
「油断しないでくれよ。これだけ広い遺跡だからね。必ず何処かで敵と遭遇する。まず、僕が遠距離から攻撃して敵の足を止める。二人はそこに攻撃を集中して欲しい」
眼鏡の少年が猿顔の少年とのっぽな少年に命令をしている。
「僕も戦うよ」
そこに小柄な少年も加わろうとする。
「いや、ヴァレー、君のハンドガンではかなり敵に近寄らないと駄目だから、それは僕たちが敵に接近された時のためにとっておいて欲しい。他の連中に邪魔されてろくな武器が取れなかった僕たちだからね、成績を残すためにも、しっかりと協力する必要がある。僕たちが守るから、そこの君! 君は下手に動かないで欲しい。戦うことに自信があるようだけど、突っ込んで乱戦になったら守れなくなるし、最悪、チーム全体が危険になる場合もある。分かったね?」
眼鏡の少年は眼鏡をクイッと持ち上げながら言っている。どうやら俺に忠告をしてくれているようだ。俺はありがたい忠告に肩を竦めて返答の代わりにする。
俺は歩きながら、落ちている手頃なサイズの瓦礫を拾う。
「へへ、そんなの集めてどうするつもりだよ」
「あー、きっと高く売れると思ったんだな。遺跡の残骸は加工が出来ないから売れないって聞いたんだなー」
俺が瓦礫を拾っている理由を勘違いしたのか猿顔の少年とのっぽな少年が親切にそんなことを教えてくれる。
俺は小石サイズの瓦礫を宙へと指で弾き、それを掴む。なかなか良いサイズだ。後、何個が拾っておこう。
「ああ、それか。それなら僕も聞いたことがある。遺跡の壁は特殊な金属で造られていて破壊が難しいそうだね。そう聞くと残骸にも需要がありそうだけど、加工が出来ないから小さいサイズはゴミ扱いされているとか、だよね? 人くらいのサイズなら売れるだろうけど、そんなサイズはもう残ってないだろうし、あったとしても持ち運びが出来ない。まぁ、君が今回の記念にお土産として持ち帰りたいなら止めないけど、集めたところで荷物になるだけだね」
眼鏡の少年も親切に教えてくれる。俺は肩を竦め、返答の代わりにする。
「忠告はしたよ。そんなゴミで重くなって動けないとか言わないでくれよ」
俺たちは遺跡を進む。
「待って!」
と、そこで小柄な少年が皆を止める。
「ヴァレー、どうしたんだ?」
「へへ、怖じ気づいたんじゃないか?」
そう言いながら猿顔の少年は、ビクビクとしながらキョロキョロと頭を動かしている。
小柄な少年が首を横に振り、通路の奥を指差す。
「あれ! あれって、機械じゃないかな?」
「ん? アレは! よくやったヴァレー君」
眼鏡の少年がこちらへと振り返り、皆の顔を見る。
「アレはドールベビィ。この遺跡に多く見かける作業用の機械だ。危険度は低いと聞いているが……さっき言ったようにまずは僕が攻撃する。二人は後に続いてくれよ」
小柄な少年が指差した先には1メートルサイズの棒人間が居た。銅線が紡がれ人型になったマシーンだ。
「へへ、腕が鳴る」
「あー、任せてくれよー」
眼鏡の少年の言葉に猿顔の少年とのっぽな少年が頷き、手に持った突撃銃を構える。だが、その手は震えていた。初陣から来る緊張だろう。
眼鏡の少年が狙撃銃を構え、引き金を引く。
……。
放たれた弾丸は――棒人間のすぐ横の壁に当たる。攻撃を受けたことに気付いた棒人間がゆらゆらと揺れながら動く。
「く、来るぞ!」
眼鏡の少年が叫ぶ。
「あ、うわあああ」
「あー、うー」
眼鏡の少年が狙撃銃を撃ち続ける。狙いもせず撃ち続けた弾丸は全て外れる。そして、棒人間が近寄ってきたことに恐怖したのか、猿顔の少年とのっぽな少年も射程外から突撃銃を乱射する。
……弾丸の無駄だ。だが、それも仕方ないだろう。どんなことでも初めから上手く出来る人間は――稀だ。
棒人間がゆらりゆらりと動き、突撃銃の射程へと入る。そして、そのまま無数の弾丸を浴び、動かなくなる。
「はぁはぁはぁ、へへ、やったぜ」
「や、やったんだよー」
「ふぅ、やりましたね」
眼鏡の少年、猿顔の少年、のっぽな少年の三人が喜んでいる。
これが初めての実戦だろうから、こんなものだろう。これから慣れれば良い。
「思っていたよりも楽勝でしたね」
「へへ、これならやれるってばよー」
「つ、次はもっと上手くやる」
喜んでいる三人を小柄な少年は暖かい目で見ていた。まぁ、そうだろうな。
俺たちは遺跡を進む。




