641 ラストガーデン12
少年少女たちが並べられた武器を取っていく。
狙撃銃のような砲身の長い銃、手頃なサイズのハンドガン、使い勝手の良さそうな突撃銃などなど色々な銃火器が並んでいる。その中にいかにもハズレと言わんばかりにナイフやマチェーテなどの刃物も並んでいる。
……マチェーテがあるのはイイダの趣味だろうか。
俺はナイフを手に取る。
「それにするんだな?」
教員が確認してくる。
「へへ、そんな武器でどうするつもりだよ」
猿顔の少年が馴れ馴れしく話しかけてくる。俺は肩を竦め、ナイフを確認する。思ったよりも良いナイフだ。刃渡り二十センチほど、持ちやすいように指の形になった滑り止め付きの握りがついている。刃部分を軽く指で弾いてみる。硬い。これなら簡単に折れることはないだろう。本当に思ったよりも良いナイフだ。返却するのが惜しくなる。このまま持ち帰りたいくらいだ。これなら充分、使えるだろう。
「俺にはこれで充分だ」
「それは困るな。僕たちはチームを組んでいるんだよ。君一人で戦っているつもりでは困るよ」
狙撃銃を手に取った眼鏡の少年がそんなことを言っている。眼鏡の少年は狙撃銃を選んだようだ。
……なるほど。素晴らしいアドバイスだ。
俺は小さくため息を吐き、肩を竦める。
「分かった。俺が突っ込む。それなら良いだろう?」
ナイフで戦うなら突っ込むしか無い。先行し、敵を引きつける役をやると暗に伝える。
「あー、俺たちだけに戦わせるつもりなんだな」
突撃銃を手に取ったのっぽな少年はぬぼっとした様子でそんなことを言っている。俺の言いたかったことは伝わらなかったようだ。こいつらを前に出し、後ろで震えて戦わないつもりだから、銃火器を選ばなかった――とでも思ったのだろう。
俺は小さくため息を吐く。
「自前の武器を持っている。だから、これで大丈夫だ」
「嘘じゃないでしょうね?」
眼鏡の少年が眼鏡をクイッと持ち上げる。
「へへ、そうだぜ。嘘じゃ無いなら俺に見せてくれよ」
「そうだぞー、見せてくれよー」
俺は小さく肩を竦める。
「嘘か。後ろ盾もない僕たちが自前の武器なんて持てるはずが無いのに……もしかして、この課外授業を捨てるつもりですか? 僕はこんなところで止まる訳にはいかないのに」
眼鏡の少年はブツブツと呟いている。
「ま、まぁ、師匠なら大丈夫だよ。きっと大丈夫だよ。師匠なら、こ……」
小柄な少年が俺のフォローをしてくれる。だが、眼鏡の少年、のっぽな少年、猿顔の少年に睨まれ、口を閉ざす。怯えて――というよりも揉めたくないのだろう。
さて、どうする?
今更、ここに並んでいるような銃火器なんて俺にはただ荷物になるだけでしかない。だが、俺が銃火器を取るだけでこの面倒が終わるなら、それも有りだ。それくらい、こいつらの相手をするのが面倒になってきている。
俺は大きくため息を吐き、ハンドガンを取ろうとする。
「貸し出せる武器は一人一つまでだ。一度選んだ武器を選び直すことは出来ない。どれが使える武器か見極めるのも重要なことだ。これも教えだ」
そんな俺をニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた教員が止める。
「そういうことらしい」
俺は手を引っ込め、肩を竦める。
「待ってください。彼はまだ武器を持っただけです。それにするとは言っていない」
眼鏡の少年がニヤニヤと笑っている教員に、そう話しかける。
「下民が」
その教員が吐き捨てるようにそう呟き、そのままこちらを威圧しながら愉快なことを喋り続ける。
「そいつは武器を選んだ。そう判断したこちらが間違っていると言いたいのか? 武器を貸して貰えるだけでもありがたいと感謝するべきなのに、学ばせて貰ってるだけの奴らが指示するのか? いつからお前たちはそんなに偉くなった? こちらの権限でお前たちだけ武器無しにしても良いんだぞ? 分かってるのか? お前たちは立場を分かっているのか!」
「あ、いえ、申し訳ありません。ぼ、僕は、そんなつもりでは……」
眼鏡の少年は怯えた様子で慌てて否定する。
なるほど。ここの教員の質はずいぶんと高いらしい。平等を謳っている学園で、ものを教えている側が、生徒を下民と呼び威圧する。こんなのが教師に交ざっている時点で、それをどうにかしようとしていない時点で、この学園の今がどうなっているのか良く分かる。
終わっている。
「はぁ、なんてことだ」
眼鏡の少年がうなだれるように下を向き、大きなため息を吐いている。そして、グッと力強く拳を握りしめ、顔を上げる。
「僕がなんとかします。今後は僕の指示に従ってください」
眼鏡の少年の顔には決意が満ちていた。
「五分ごとだ。チームと次のチーム、五分のインターバルを持って突入して貰う。順番になったら、そこで食料を受け取り、遺跡に入れ」
教員が課外授業を進めている。
先行が有利か、後の方が有利か。
先行すれば他とかち合う前に自由に動ける。順番が後になればなるほど、遺跡で生存しなければならない――耐える時間は短くなる。生存が目的なのだから、時間が短くなるのは有利だろう。五分の差でも六組あれば30分だ。
30分?
……いや、誤差か。
それなら早く遺跡に突入した方が良いかもしれない。
「師匠、本当に大丈夫なんですか?」
小柄な少年が俺に聞いてくる。
「大丈夫だ、問題無い。それと今は授業中だろう? 普通に名前で呼んでくれたら良い」
「分かったよ、ガム君」
小柄な少年が力強く頷く。
問題は無い、問題は。
「よし、次だ。食料を受け取って待て。時間になったら遺跡に入れ」
そして、俺たちが呼ばれる。
俺たちは一番最後の組だった。
早い方が有利だと思った俺の考えを読んでいたかのように、俺たちのチームは一番最後に回されていた。




