640 ラストガーデン11
夜になり、再び古びた校舎に潜入する。
変わらず監視カメラや警備装置のようなものは見当たらない。ここをそれほど重要視していないのか、それとも隠し通路が見つかる訳がないと楽観視しているのだろうか。
俺は隠し通路を開け、その先の部屋へと進む。
「こんな時間に何の用ですわ」
声だ。
寝ていた彼女がこちらの存在に気付き、上体を起こす。
「少し話をしようと思った」
「はぁ、何の話ですの」
こちらに気付いたイイダが大きなため息を吐いている。
「何でもだ。ただ話をしたいと思った。それだけだ」
「ふふ、それなら昔話をしますわ」
「ああ、そうしてくれ」
俺はイイダとただ会話を楽しむ。
俺が死んだ後、何があったのか。
イイダがクロウズとして活躍した話。
学園に通うことになった話。
イイダが学園の教師となった話。
色々なことを話をした。
「ごほっ、ごほっ、それからこういうこともありましたわ」
イイダが咳き込む。体を悪くしているのかもしれない。
……。
「今日はこれくらいにしよう。また来る」
「ふふ、楽しみにしてますわ」
俺は部屋を出る。
そのまま古びた校舎を後にする。
そんな日々が続き、課外授業の日がやって来る。
多くの少年少女たちが広場に集まっている。俺たちのクラスだけではなく、同学年の全員が集まっているようだ。百五十人近い集まり、か。結構な数だ。
……?
学園の生徒たちだけでは無く、見覚えの無い武装した兵隊のような連中の姿も見える。課外授業の舞台となる遺跡までの護衛だろうか。
用意されていた五台のバスにクラスごとに分かれ、乗り込む。どうやらクラスごとに目的地が異なるようだ。
バスに乗り込み、適当な席に座る。
「ここに居たんですか」
そんな俺のところに眼鏡の少年がやって来る。
「隣に座っても良いですか?」
そして、そのまま俺のとなりに座る。
「あー、すまんかった」
「へへ、なんとかなるよな?」
のっぽな少年と猿顔の少年もやって来る。この二人は一度も放課後の集まりに顔を出さなかった。用事とやらが忙しかったのだろう。
二人は俺の前の席に座る。
「ヴァレー君の姿が見えない。彼はどうしたんでしょうか?」
眼鏡の少年がそんなことを言っている。
「なんだ、ヴァレーもおらんのかよ」
のっぽな少年の言葉に俺は違和感を覚える。
も?
「同じ寮じゃないんか?」
二人は俺に聞いてくるが、俺は肩を竦めることしか出来ない。俺は小柄な少年の力になろうとしているが、その考えを、行動を縛ることはしない。俺がやることはあくまで教えることだけ。その後、どうするかは彼自身の問題だ。
……だが、大丈夫だろう。
「ま、待ってください」
そして、遅れて小柄な少年がやって来る。
荒い息を吐き出し、小柄な少年がバスに乗り込む。
「これで全員だ。出発してくれ」
教員の指示に従いバスが動き出す。
バスが走り、そして到着する。
「皆、この腕輪をつけるように。この腕輪を介して君たちをモニターしている。危険な状況だと思ったら助けに入る。だが、間に合わない場合もある。助けがあると過信して危険なことをしないように。それと助けが必要な時は横のスイッチを押しなさい。すぐに救助に向かう。だが話したようにグループとしては失格になる。分かったね」
教員がそんな説明をしながら、腕時計のような形の腕輪を配っていく。
腕輪を身につけた俺たちはバスを降りる。そんな俺たちの前には巨大な戦艦の残骸があった。この戦艦が課外授業の舞台となる遺跡なのだろう。
「では、申請した通りのグループに分かれなさい」
教員の指示に従い、生徒たちがグループに分かれていく。
……どういうことだ?
五人一組のグループという話だったが、偉そうにしていた連中の殆どが一人だけだ。グループを作っていない。
そして、そんな連中に武装した兵士のような奴らが集まる。
五人。
そう五人だ。
そういうことか。
教員は五人一組のグループを作れと言っていた。だが、生徒たちだけでグループを組めとは言っていない。
偉そうにしていた奴一人に武装した兵士のような奴らが四人。確かに五人だ。だから、連中はグループを作ろうとしなかったのか。だから、生徒たちで集まらなかったのか。熟練の兵士と組めるなら素人同然のクラスメイトとグループを組むメリットは無い。
生徒たちだけでグループを作っているのは、下民と呼ばれているような後ろ盾が無い連中ばかりだ。武装した熟練の兵隊を雇うことも、その伝手も無いのだろう。
なるほど、なるほど。
なかなか面白い。
「貸し出しの武器はこちらにある。壊したら減点だ。課外授業が終わったら必ず返却するように。これはお前たちの命よりも重い武器だ。持ち逃げするようなら地獄の底まで追い詰めるからそのつもりで扱え」
教員がそう言って銃火器を並べる。そこに生徒たちが、わっと集まる。もちろん集まっているのは下民と呼ばれている生徒たちだけだ。
後ろ盾があるような連中は自前の優れた武器を使うのだろう。
「僕たちも武器を、早く行かないと良いのが取られるよ」
小柄な少年が俺を引っ張る。
俺は小さくため息を吐き、肩を竦める。




