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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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064 賞金稼ぎ01――「どういうことだ?」

「起きろ。試験は終わりだ」

 声に起こされ、目を開ける。暗い。周囲は未だ夜の闇に閉ざされている。目の前の男を見る。試験官、か。どうやら、日付が変わったところで迎えに来たようだ。


 試験が終わったか。


 迎えに来た試験官に連れられ工場跡に横付けされたトラックに乗り込む。全員が乗り込むとすぐにトラックは動き始めた。


「おい、何処に連れて行くつもりだ」

「ふーん、これで試験終わりかよ」


 ただの農民だったガタイの良いおっさん、ネシベ。

 実は科学の使徒だったドレッドへアーの女、アノン。


 冴えない男に扮し潜入していたナイフ使いのクロウズ、フールー。

 救世主になろうとしていた詐欺師、メシヤ。

 最初から死体だった、賞金首の新人(ニュービー)殺し。


 最初に来た時は俺を含めた六人だった。そして、試験が終わった時には三人になっていた。


 半分か。


「試験開始前に貸し出しした武器を返して貰おうか」

 試験官の言葉を聞いたおっさんとドレッドへアーの女が顔を見合わせる。


「お、おい、どういうことだ?」

「言葉通りの意味だ」

 試験官の表情は硬く冷たい。


「おい、武器ならないぞ。あの工場跡に落ちているはずだから、そちらで回収してくれ」

 おっさんの言葉を聞いた試験官が頷く。それを見たおっさんがホッとしたように胸をなで下ろす。


 だが、試験官の次の言葉は……。


「回収費用はお前たち持ちだ」

 試験官のその言葉を聞いたおっさんが固まる。

「お、おい!」

「おい、どういうことだよ」

 おっさんとドレッドへアーの女が試験官に詰め寄る。


「三日間のレンタル料もいただく」

 おっさんとドレッドへアーの女を無視して試験官は言葉を続ける。

「武器二つ、それが三日で24,000コイルだ。それに武器の回収費用が12,000コイル。しめて36,000コイルの経費だな」

 おっさんとドレッドへアーの女が魚のように口をパクパクと動かしている。


 なるほどな。


 話がウマすぎると思ったよ。雑魚が一匹で千コイル? 簡単に数万コイルが手に入る? こういう裏があったからか。いや、それでも、もっとあくどく回収することも出来るのに、差し引きゼロにする程度で納めているのだから良心的と言えるかもしれない。


「お、おい! 聞いてねえぞ」

「ああ、言っていない。聞かれていないからな」

 おっさんは試験官を押し倒すほどの勢いで詰め寄っているが、試験官はそれをものともしない。強さのレベルが違う。おっさんのような連中を普段からあしらっているだろうから……オフィスの職員としては慣れたものか。


 言ってない、聞かれていない、か。


 なるほど。


 こうやって契約の大切さを教えるのか。実体験として痛い目を見れば、馬鹿でも考えるようになるだろう。なかなか上手い方法だ。


 ……俺には関係ないが。


「開発のための費用が……」

「農園の復興資金が……」

 おっさんとドレッドへアーの女が頭を抱えている。


「クロウズになってランクが上がれば、この程度はすぐに稼げるようになるだろう」

「おい、本当か! 信じるぞ」

 おっさんは必死だ。そんなおっさんの様子を見て試験官が小さく笑っている。そして、声を出さないように口の中で呟く。


 俺はその言葉を聞き、理解し、肩を竦める。


 ……『生き延びられたら、な』か。


 賞金首を苦労して倒しても一万コイルにしかなっていない。クロウズで稼げるようになるには随分と生き延び続けないと駄目なようだ。


『ふふん。私が居ればすぐでしょ』

 セラフの声が頭の中に響く。


 どういう心境の変化があったのかセラフは随分と協力的になっている。これも自由に動かせる体を手に入れ、あの通路の奥を見たからだろうか。


『セラフ、体は着いてきているのか』

『ふん。誰に言っているの? 身を隠したまま追いかけるなんて余裕だから』


 あの通路の先。


 オフィスの受付嬢と同じ姿をした人造人間(アンドロイド)が守っていた場所。


 守っていた、か。


 結論から言うと『何も』なかった。


 そう、何もなかったのだ。何も無いはずがない。何もないなら、何故、守っていた?


 おかしすぎる。


 だが、セラフはそのことをある程度予想していたようだった。セラフはそのことがあってから、少しだけ協力的になった。もしかするとセラフには何もない空間に何かが見えていたのかもしれない。だが、こいつが素直にそれを教えてくれるとは思えない。


 無言になったおっさんとドレッドへアーの女を乗せてトラックが走る。行きの時と同じ道順、速度、か。そのトラックがしばらく走り続け、止まる。

「降りろ」

 試験官の言葉に促され、幽鬼のような足取りで二人が降りる。俺も後に続く。


 そこはレイクタウンにあるクロウズのオフィス前だった。

「着いてこい。新人クロウズとしての説明を行う……と言いたいが、お前たちも眠いだろう。まずは食事と休憩だ」

「お、おい、それは無料なのか」

 おっさんの言葉を聞いて試験官が笑う。

「無料だ。奥に食堂と仮眠室がある。案内しよう。朝までゆっくりと休め」

 おっさん、学習したな。ちゃんと聞けたじゃないか。


 試験官がオフィスに入る。おっさんとドレッドへアーの女がそれに続く。俺も行こう。


「と、そこの君はそこで待ちなさい」

 ん?

「どういうことだ?」

「君だけは特別にマスターがお呼びだ。すぐに案内のものが来るだろう」

 なるほど。


 オーツーか。


 声だけではなく、実際に会えるという訳か。


 さてさて、俺を呼んでいるとはどんな愉快な話が待っているのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 別に呼ばれてるけど、そのあとで無料でごはんはもらえるのかっ!?
[良い点] お高い授業料! [一言] そらクロウズも慈善事業じゃないんだから、いろいろ画策するでしょうなー。 てか、おっさんの目的が農園再興って、なごませてくれるw 素直なセラフもそれはそれで、ちと…
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