639 ラストガーデン10
この学園という施設は旧時代の学校というものを知っている俺からすると非常に歪だ。形だけ無理矢理真似ていると言えば良いのだろうか……。
学園という容れ物自体はノアにあった施設を流用して作られている。校舎の一部はそのままなのではないだろうか。
この学園はサンライスにある多くの商会が出資し、設立され、運営されている。だから、そういった商会をバックにもったガキたちが偉そうにしているのだろう。
この学園に集められているのは9~12歳程度の少年少女たちだ。先ほども言ったサンライスの商会に関わっている子どもたちと、才能があると見込まれた子どもたちが集まっている。
学園は『生徒は全て平等』だとしているが、実際は、後ろ盾がある者たちを上民とし、才能のみで入学してきた者たちを下民と呼んで区別している。この学園が設立した当初は確かに平等だったのだろう。だが、今は、上に立つ側と、そいつらに使われる側を叩き込む(学園の)外の世界の縮図みたいになっている。出資した商会があり、それによって運営されている以上、こうなってしまうのは必然だったのだろう。
この学園では様々なことを教えている。
幼年からではなく、9歳~12歳程度から入学出来るようにしているため、読み書きなどの基本的な授業は簡単なものしかやっていない。すでに家で学び終えているという判断なのだろう。学園は広く才能がある者たちを受け入れていると言っているが、その時点で足切りされている。
教えているのは教養、(商会が出資しているだけあって)それらしい目利き、会話、礼儀、色々な商会の知識や情報、格闘技術や射撃技術などの戦闘一般、銃火器の取り扱いからメンテナンスまで、クルマやヨロイの知識や運転方法、そしてその整備技術など、本当に様々だ。
学院の生徒たちはそれらを好きなように学ぶことが出来る。大きく分ければ教養、戦闘、整備の三つになり、一応、それらに必修科目がある。最低限必要な知識を学ぶようになっている。だが、俺が見た感じ、それらは本当に最低限だ。
授業は、基礎的なことを学ぶ授業と専門知識を学ぶ授業に分かれている。上民と自称している奴らは基礎だけを学び、下民と蔑まれている才能を見込まれて入った者たちが専門知識を学ぶ。後ろ盾のある上民は顔つなぎのために入学し、下民は卒業後の生活のために学ぶ。
一クラスが三十人ほど、それが五クラスある。つまり一学年が150人だ。下民も上民も分けず、同じクラスに突っ込んでいるのは、学園が平等を謳っていた頃の名残だろう。
この学園では三年間学ぶことが出来、卒業資格を得ると卒業することが出来る。さらに学びたい者たちは追加で二年間学ぶことが出来る。五年でも学び足りない者たちはその才能を生かし、研究所勤めに移るようだ。
生徒たちの殆どが学園の用意した寮に住んでおり、そこから通っている。もちろん、寮にも種類がある。年単位でコイルを支払う必要があるお得意様用の寮と学園が善意でやっている無料の寮だ。無料の寮が掃き溜めよりはマシ程度なのは経費削減の恩恵なのだろう。
学園の生徒たちの一日は、寮で寝起きし、朝、校舎へと向かう。そこで昼までは基礎科目を学び、昼には昼食を食べる。午後からは自由に選べる選択科目を学ぶ。夕方からは自由時間になり、夜には寮に戻る。最初の一年はそんな感じらしい。
二年目からは授業が選択科目のみになり、年三回ある期末には試験が行なわれ、そこであまりにも酷い成績だったものは退学となる。
三年目はそれに加え、卒業試験が追加されるようだ。
この学園はだいたいそんな感じになっている。
……。
色々と調査した結果を――長々とこの学園がどうなっているかを再確認してみたが、これらは俺にはどうでも良いことだ。今の俺は学園の生徒として潜入しているが、目的は卒業では無い。学園というものが懐かしくはあるが、それだけだ。
……。
とりあえずは課外授業か。
俺たちは眼鏡の提案で放課後に集まる。
……。
集まったのは俺と眼鏡、小柄な少年だけだ。のっぽな少年と猿顔の少年の姿がない。逃げたのだろうか。
「二人は?」
「ああ、二人は外せない用があるということで来られないそうだ」
眼鏡の少年がわざとらしく眼鏡をクイッと持ち上げている。逃げた訳では無いようだ。
「そうか。それで、どうする?」
小柄な少年はどうしたら良いのか分からないのか、もじもじとしながら手をグーパーと開け閉めしている。
……。
さて、どうしようか。
課外授業は一週間後だ。そう、たった一週間しか無い。
俺はどの程度まで踏み込む?
踏み込めば良いだろうか。




