638 ラストガーデン09
「今回、君たちには五人一組となって遺跡に挑んで貰う」
体育が得意そうな見た目の教師が課外授業の説明をしている。
「それは必ず五人一組でないと駄目なのか? 一人では駄目なのか? 五人一組だと数が合わない。人数的にあぶれることもあるのではないか?」
眼鏡をクイッと持ち上げてそうな少年がそんなことを言っている。
「規定より少ない人数は認められない。人数が少ない、足りない、あぶれる時はこちらで配慮する。だから気にする必要は無い。他に質問は?」
その後も生徒たちから色々な質問が出る。聞かなくても分かるようなこと、すでに教師側が説明していることなども質問している。それが許されるのだから、甘やかされて育った学生らしいぬるさだ。
「課外授業は一週間後を予定している。それまでにメンバーを見つけ、作戦を立てなさい」
体育が得意そうな見た目の教師がそう告げ、その場は解散となった。
今回の課外授業をまとめるとこうだ。
・場所は学園が用意した遺跡。
・機械やビーストが徘徊するその遺跡で二日生存するのが目的。
・倒した機械やビーストに応じて追加ポイントが貰える。
・追加ポイントは成績に反映される。
・武器は自分で用意したものを使っても良い。
・武器を持っていないものには学園が用意したものを貸し出す。
・基本的に他のグループと争うことは認められていない。
・命が危ない時は助けを呼べば教師が駆けつける。
・その場合、グループ全員が失格となり、成績は最低となる。
簡単にはこんなところだろうか。何処か俺が初めて受けたクロウズ試験を思わせるものだ。
俺は集まっていた生徒たちの様子をうかがう。
頑張って五人組のグループを作ろうとしているのが下民と蔑まれていた後ろ盾が無いものばかりだった。偉そうにしていた連中の殆どがグループを作っていない。取り巻きがいるような奴らもバラバラになっている。
……どういうことだ?
「師匠のグループに混ぜて貰っても良いですか?」
考え込んでいる俺のところに小柄な少年がやって来る。
「ああ、好きにしてくれ」
小柄な少年は俺のグループと言っているが、俺は一人だ。これまでこの少年以外と関わろうとしていなかった俺がグループを作るのは難しいかもしれない。教師はあぶれたものには配慮すると言っていたが、どんな配慮か分かったものでは無い。ろくなことにならない気がする。
にしても、だ。何故、偉そうにしていた連中はグループを作らない? いくら学生向けの課外授業だとはいえ、遺跡で機械やビーストと戦うのは間違いない。命の危険がある場所だ。連携や作戦を考えなくても良いのだろうか? 少し甘く見ていないか? それとも何か裏があるのか?
……。
裏、か。その可能性は高い。連中にだけ、何か裏で話が来ているのかもしれない。
「僕も混ぜて貰っても良いだろうか?」
先ほど質問をしていた眼鏡をクイッと持ち上げそうな少年が俺たちのところにやって来る。
「是非! ありがとう! でも、どうして?」
小柄な少年は喜んでいる。自分たちと一緒に行動してくれそうな人が居ないと思っていたからだろう。
「ヴァレー君、君の状況は知っている。知っていた。僕も自分の名前のことで似たような目に遭っているから。これ以上酷い目に遭わないように見て見ぬ振りをしていた。ですが、今回のこの課外授業を機会に、一歩進もうと、その間違いを正そうと思ったのです」
眼鏡の少年は照れたように顔を逸らし、眼鏡をクイッと持ち上げている。
……とりあえずこれで三人か。
「あー、俺も混ぜてくれよ」
「へへ、俺もあぶれたんだ、良いだろ?」
そこに二人やって来る。
のっぽな少年と猿顔の少年だ。
思ったよりもあっさりと五人が揃う。
「せっかく五人揃ったんだから、自己紹介をしないか?」
眼鏡をクイッと持ち上げてそうな少年がそんなことを言い出す。
「どちらでも」
俺は肩を竦める。
「ではまずは僕から。知っていると思うがビッグスだ。よく似た名前だが、ビッグエス商会とは何の関係も無い。目利きを中心に習っている。機械やビーストに関する知識ならそれなりにあるつもりだ」
眼鏡の少年が自己紹介をする。これから行なわれるのは遺跡での戦闘だ。お互いが、出来ること出来ないことを詰めていくのは大事だろう。
「あー、俺はシープだよ」
のっぽな少年がシープと名乗る。
「俺はベニシオだぜ」
猿顔の少年がキシシと歯を鳴らすように笑いながら名乗る。
「僕はヴァレー。主に整備を習っているよ。武器の調子が悪くならないように整備とかなら……」
小柄な少年が自己紹介する。最後に俺の番になる。
「……俺はガムでいい。この学園で習っている訳では無いが、少しなら戦える」
俺は簡単に自己紹介をする。
その見た目通り知識が売りの眼鏡の少年――ビッグス。
のっぽな少年――シープ。
猿顔の少年――ベニシオ。
この二人は何が得意なのか、何が出来るのか分からない。自己紹介の意味が分かっていなかったのだろう。それともすでに学園で何日も一緒に学んでいるから、それくらいは知っていて当然だと思ったのだろうか。
小柄な少年――ヴァレー。
そして、俺――ガム。
この五人で課外授業に挑むことになる。
課外授業は一週間後だ。それまでにお互いのことを知っていけば良い。そういうことだろう。




