637 ラストガーテン08
俺はほとぼりが冷めた頃を見計らい、再び古びた校舎に忍び込む。
変わらず監視カメラや警備装置のようなものは見当たらない。気を付けるべきは人だけだろう。
俺は気配を隠し、静かに通路を歩く。
誰も居ない。
俺はゆっくりと通路を調べながら古びた校舎を歩く。
ここか。
ここはノアにあった施設を利用して作られているようだが……。
壁を叩く。
音が軽い。
隠し通路があるのだろう。
どうやったら開く?
何度か叩く。
ここか、ここか?
何処だ?
ここだな。
そこだけ誰かが何度も触れているかのように色が変わっている。
調べる。
壁の中にボタンがあるようだ。少しでも探索に慣れた者ならば気付きそうな違和感。俺はカモフラージュされていたボタンを見つける。
そして、そのボタンを押す。
静かに壁が開き、新しい通路が現れる。
俺は新しく現れた通路を進む。
……。
声が聞こえてくる。
「伯母さん、もう良いだろう? 鍵を、学園長の座を渡してくれ」
「何を言うんだい。あんたのやり方じゃあ駄目だって言ってるだろう?」
「ですが、こうでもしなければ学園の経営なんて出来ません! 伯母さん、このままここに居るつもりですか」
「ふふふ、私は好んでここに居るんだよ」
誰かが会話をしている。
男と女の声だ。
男の方は……学園長を名乗っていた孫の方のウルフだろう。となると……もう一人は?
「わかりました。今回はこれで帰ります。はぁ、また来ます」
「ああ、また来なさい」
どうやら会話が終わったようだ。
俺は急ぎ来た道を戻る。まだ見つかる訳にはいかない。
俺は自分が居た痕跡を消し、通路を元あった形に戻し、校舎へと戻る。
ここで間違いなかったようだ。
夜になり、俺は再び学園の古びた校舎に忍び込む。
相変わらず監視カメラや警備装置のようなものは見当たらない。気を付けるべきは人だけだろう。
俺は静かに気配を隠し、通路を歩く。
誰も居ない。
夜にも人は配置していないようだ。
俺は腕を組み、少し考える。
もう少し、厳重に管理されているかと思っていたが、どうにも、適当というかこだわっていないように見える。
俺はゆっくりと調べながら古びた校舎を歩く。
ここか。
壁にボタンがある。昼に見た時と変わらない。
俺はボタンを押す。
静かに壁が開き、新しい通路が現れる。
俺は新しく現れた通路を進む。
奥へと――昼に声が聞こえてきた場所へと進む。
……。
俺は部屋に入る。
「こんな時間に何の用だい?」
声だ。
寝ていた彼女がこちらの存在に気付いたようだ。
そして、彼女はこちらへと振り返り、驚いた顔を作る。
年相応の顔で驚き、こちらを見ている彼女に俺は手を振る。
「久しぶりだ」
「師匠……」
年老いたイイダとかつてのイイダの姿が重なる。
「言っておくが幽霊では無い」
「そ、そんな……はぁ、なんということですの」
彼女――イイダは大きなため息を吐き、悩ましげに小さく頭を振る。
「アイダに頼まれて来た」
そんな俺の言葉にイイダは再び大きなため息を吐く。
「私は好きでここに居るのですわ。アイダには元気でやっていると伝えて欲しいですわ」
俺は肩を竦め、部屋を見る。そこそこの広さを持った部屋だ。家具なども揃っており、ある程度は快適に過ごせるようになっているようだ。
イイダの言葉通り、監禁されている訳では無く、自分で望んでここに居るのだろう。
俺は頷く。
「わかった」
俺はそう言い、その部屋を出ようとする。
「師匠、あの子を殺すつもりですの?」
その俺にイイダがそんなことを言ってくる。
あの子?
きっと、あの学園長を名乗ったあいつのことだろう。
殺す?
殺す、か。
俺は首を横に振る。
「いいや。それはお前たちの問題だろう? 俺は暗殺者でも無ければ殺人鬼でも無い。俺に絡んでくることが無ければ……俺は何もしない」
「わかりました。その言葉を信じますわ」
俺は手を振り、その場を去る。
俺がアイダから受けたのはイイダを助けて欲しいという依頼だった。
助ける。
助ける、か。
だが、イイダは助けを求めていない。イイダが望んでいるのはアイダに元気でやっていると伝えて欲しいということだけだった。
これ以上は余計なお節介になるだろう。
それから何事も無い日々が過ぎていった。
「これより課外授業の説明を行なう」
学園の教師が課外授業の説明を始める。
それは遺跡に巣くう機械やビーストの駆除だった。
「そんなのは下民の……クロウズどもの仕事でしょう? 僕たちがやることだとは思えません」
生徒の一人がそんなことを言っている。
「何を言っている。かの偉大な英雄もクロウズだったんだ。これは君たちにもそんな英雄の軌跡を感じて貰うためにだな……」
「必要ありませーん」
「はぁ、僕の家がどれだけこの学園に援助していると思っているんだい」
生徒の一人は偉そうにそんなことを言っている。親が言っているのを聞き、それを真似して言っているのだろう。
「悪いが、これは決定事項なのだ。安全には配慮する」
教師はそんなことを言っている。
配慮、か。
どういう配慮なのだろうか。
俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。
なかなか愉快な課外授業になりそうだ。
テ?




