636 ラストガーデン07
学園長を名乗る男。
四、五十歳くらいだろうか。髪にうっすらと白いものが交ざり始めた初老の男だ。
ウルフ――
俺がもっとも馴染みがあるのは奴の若い時の姿だ。だが、一番、関わることになったのは英雄と呼ばれた時、そう今の学園長と名乗る男と同じ年齢くらいの時だろう。一番、避けていた時期でもある。
奴の孫が俺の知った奴と同じ年齢になっている。同じ姿になっている。
……。
この学園長を名乗る男――その親の年齢を考えれば当然か。
俺はこの学園に少年と学園長、その二人に会うため潜入している。
学園長とは――学園長の身内から依頼を受けて、少年とは――少年は俺の個人的な用事で。
この学園の学園長は俺の良く知っている人物がなっていた――はずだった。今現在、その学園長と連絡が取れなくなっている。俺は学園長の安否を確認して欲しいという依頼を受け、この学園にやって来た。
……。
それは俺があのオリジナルとの戦いを終えた後の話だった。俺は依頼の報酬を受け取るためにサンライスへと向かった。だが、俺に依頼をした二人が亡くなっていたため、俺は門前払いを受け、報酬を受け取ることが出来なかった。
ルリリとトーマス。二人は亡くなっていた。事故に遭ったとか、殺されたとかではない、寿命だ。人は老いて――死ぬ。その当たり前のことが起きた。それだけだった。
ルリリとトーマス、あの二人が依頼と報酬を忘れ、放置しているとは思えない。根っからの商人だった二人がそんな不義理を――約束を違えるようなことをするはずがない。俺は二人を信じている。二人は亡くなる前に必ず引き継ぎをしていたはずだ。だが、二人の息子は――それを無視したのだろう。
俺のような存在が――死なない存在が、現れるとは思わなかったのだろう。
報酬、オーキベースでの探し物。その捜索も止まっていた。来るかどうかもわからない者のために費用をかけて捜索するようなことは出来なかったのだろう。
次にやったことは二人の孫、アイダとイイダに会いに行くことだった。死んだと思われていた俺が顔を出すのも、と思い会わないようにしていたのだが、そういう訳にもいかなくなってしまった。
そして、俺は二人のうち一人――アイダと会うことは出来た。
「師匠……生きていたんですね」
目の前の老人が泣きながら俺を見ている。
「これは夢ですか。また師匠に会えるなんて、あの時のままの師匠に会えるなんて……ついにお迎えが来たんですか」
老人――アイダはそんなことを言っている。
俺は肩を竦める。
二人とは会わないつもりだった。
老いた二人の姿を見たくなかった。死に向かっていく二人を見たくなかった。だから、会わないつもりだった。
「アイダ、ずいぶんと昔のことになるが、お前たち二人が捕まっていた時のことを、俺とお前たちが出会った時のことを憶えているか?」
「ええ、憶えていますとも。師匠が助けてくれなければ、あそこでどうなっていたか、憶えていますとも」
「では、俺がお前たちの祖母から依頼を受けていたことも知っているだろう?」
俺の言葉に老いたアイダが頷く。
「憶えていますとも。もちろんですよ」
年老いたアイダが――いや、話しているうちに俺はあの頃のアイダの姿を……、
「師匠、依頼の品、探し出してあります。祖母から預かっています」
「そうか」
ルリリとトーマスは仕事を終えていた。
「そうか」
俺はそれしか言えなかった。
「師匠にお願いがあります。姉を助けていただけないでしょうか?」
アイダのお願いに俺は頷きを返す。
「報酬は?」
依頼には報酬を。依頼を受けるなら必ず報酬を求める。俺がアイダに教えたクロウズの基本だ。アイダは楽しそうに笑う。
「クルマを用意します。祖母が使っていたものです。師匠が使ってくれたら祖母も喜ぶと思います」
「わかった。受けよう」
アイダからの依頼、それがノアに創設された学園――その学園長になったイイダの安否の確認だった。アイダは自由に動けなくなっていた。今は軟禁に近い状態にある。イイダがどうなっているか知りたくてもそれが出来ない状況にあった。だから、俺に依頼するしかなかったのだろう。
俺は情報を集める。
そして、その中で知る。
その学園に俺の求めた、求めていた人物が居る。
パンドラの改造を得意とした七人の武器屋、ショーヘーの子孫だ。
パンドラの改造。
それで全てのパーツが揃う。
そう全てが揃うのだ。
やっと終わりが見えた。
好都合だ。
これで――




