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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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631 ラストガーデン02

「なんでやられたままにしているんだ?」

「僕は君みたいに強くないからだよ」

 少年の言葉に転入生は肩を竦める。

「強い? 俺がか? わからないな」

「君にはわからないよ」

 転入生は大きなため息を吐く。

「ああ、わからないぜ。俺にはわからない。だから、教えてくれよ。なんでやられたままにしているんだ? やり返されるのが怖いのか?」

「そうだよ! 僕が我慢すれば、耐えれば、それ以上は……やってこないんだ。ちょっと我慢するだけで終わるのに、逆らって……」

「もっと殴られるのが怖い?」

「そうだよ!」

 少年の言葉に転入生は肩を竦める。

「んー、いやさ、それなら連中にやられないほど強くなれば良いじゃあないか」

「それが出来たら! 僕のことを何も分からない癖に!」

 少年の言葉を聞いた転入生はくっくっくと含んだように笑う。

「だから、何度も言っているけどさ、わからないから聞いてるんだよ」

「何が可笑しいのさ! 僕は、僕は、君に分かる訳がないよ! 喧嘩も強くて頭も良い、君みたいな奴にはわかんないよ!」

 少年のそんな言葉を聞いた転入生は腹を抱えて笑い出す。

「何が可笑しいのさ」

「いや、連中には怯えていたのに、あいつらよりも強い俺には強気な態度に出ているからさ。俺は怖くないのか?」

 転入生が目を細め威圧するような眼光で少年を見る。少年は怯えるように一歩後退り、それでもそこで踏みとどまる。

「君はあいつらと違う。獣みたいに、野蛮に暴力は振るわないってわかってる」

「そうかな? そうだとしても、強気な態度に出る理由になるかなぁ」

 転入生は雰囲気を和らげ、ニヤニヤと笑う。

「君はなんで僕に構うんだよ。君みたいななんでも出来る人からしたら僕なんてどうでも良い存在だろ!」

 転入生は肩を竦める。

「ずいぶんと卑屈だなぁ。まぁいいさ。俺はさ、教えて貰いたいんだよ」

「なんでも出来る君が僕に教えて欲しい? 何を企んで……そんな風にからかって楽しい?」

「いや、本当に教えて貰いたいんだよ。確か、機械とか得意だったよな? 俺に教えてくれよ」

「はぁ?」

「いや、そのまんまの意味だぜ? その代わり俺は喧嘩のやり方を教える。悪くないだろう?」

「なんで僕がそんなことを……確かにプログラミングとか少しは出来るけど、ううん、そんな喧嘩のやり方なんて野蛮なこと教えて要らないよ」

「まぁ、そう言うなって」

 転入生は馴れ馴れしく少年の肩を叩く。少年は大きなため息を吐いていた。



 転入生はとても変わっていた。


「こんな時期に転入生だなんて、ずいぶんと特別待遇のようだけど君は何処の()なんだい?」

 そんなことを聞かれた転入生は何も答えず、ただ肩を竦めていた。

「僕はカタリナ商会の出でね。カタリナ商会は知っていると思うけど……君ね、僕を無視するなんてどういうつもりだい? この時期に転入してくるくらいだ。ずいぶんと優れた家門が――特別な後ろ盾があるのかもしれないが、特別なのは君だけじゃあないんだよ。この学園に居る皆が特別だ。エリートなんだ。そんな態度だと後で困ることになるよ。これは君を思って忠告をたね」

 転入生はキョロキョロと教室内を見回し、そして教室の隅っこで小さくなっている小柄な少年を見つける。

「ああ、あいつか。あいつは気にしなくていいよ。なんでここに居るかも分からない下民だからね」


 転入生は小柄な少年に興味を持ったのか、やっと口を開く。

「ふーん、そうか。だが、ここに居るってことは彼もエリートなんじゃあないか?」

「僕たちとあいつを一緒にしないでくれよ。まぁ、ちょっと機械いじりは得意なようだが、それだけの奴さ。ところでそろそろ君が何処の出か教えてくれても良いだろう? それともまさか、君もあいつと同じ下民だって言わないよな?」

 転入生は何も答えず肩を竦める。


 その日の放課後、転入生は三人の少年に囲まれていた。


「お前らは?」

「お前の先輩だよ。ちょっと後輩に常識って奴を教えてくれって頼まれてなぁ」

 そう言った少年が威嚇するように拳をポキポキと鳴らす。転入生はそんな威圧などなかったかのように大きなため息を吐く。

「えーっと、ここでは家門が、後ろ盾が重要なんだろう? 俺の家門がわからないうちから手を出して良いのか?」

 転入生を囲んで居た少年がニヤニヤと笑い出す。

「おー、怖い。確かにそうだな。だけどよぉ、ここは学園だぜ? 学園では生徒同士みな同じ立場なのさ。外での家門とか持ち出しちゃあ駄目なの、わかる?」

 転入生は大きなため息を吐く。

「そうか、そういう建前か。面白い話だ。笑えるよ」

「くくくひひひ、笑えるだろ? さあて、お楽しみの時間だ。俺らに逆らえないようにお前をボコボコにしてやるよ。体に憶えさせるってヤツさ。良かったなぁ。お前の後ろ盾が大きいなら、その力を俺たちのために差し出すんだな」

「そうだぜ。その方が、力の有効活用ってヤツだ」

「びびったか? 生意気なお前が悪いんだぜ」


 転入生は大きなため息を吐き、肩を竦める。

「ここはエリートが集まるという話だったよな? 低脳のエリートが集まっているのか?」

「は? ずいぶんと余裕だな! 俺らが手を出せないと思っているのか? 馬鹿がよ」

「三人に勝てる訳がないだろ」

「逆らう気が起きないほどボコボコにしてやるぜ」

 三人の少年が転入生に殴りかかってくる。転入生はそれを呆れた目で見ていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 特権意識だ! [一言] 建前だけ取り繕ってもなあ。頭バンディッドかよ……。 まあ、自分で言った通りに家門を持ち出さず体で憶えて帰ってねという話。有効利用はできそうにないけど。 ガキでこれ…
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