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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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063 クロウズ試験30――自動人形

 俺の選択は……。


「分かった。ここで帰ることにしよう」

 撤退だ。


 オフィスとやらと敵対する必要はない。この通路の先に行こうと思っていたのは、敵の増援を止めるためだった。増援を調整しているマッチメイカーが居るのなら無理に進む必要はない。このまま戻って試験が終わるまで待てば良い。


「お客様、勝手に帰られては困ります」

 だが、目の前の女から待ったがかかる。

「私は、どうやって倒したか、と聞いたはずですよ」

 女は慈愛に満ちた表情で微笑んでいる。


「あんたのところは手品師に種を見せろって言うのか」

「雇う以上、その能力を把握しておくのは重要なことでしょう」

 俺は肩を竦める。


「それは、あのオーツーとやらの命令か」

 目の前の女が首を横に振る。

「なるほど、これはそういうことでしたか。後でO2に確認することが増えました」

 この目の前の女はオーツーとは関係がないのか? なら、何故、ここに居る。どういうことだ?


 ……いや、わざと俺に聞かせたのか。コイツらは人造人間(アンドロイド)だ。わざわざ独り言のように情報を漏らす? 機械がそんなうっかりをするだろうか。


「何故、そんなにそのことにこだわる?」

「今の人類が私たちの目から情報を隠蔽出来るとは思えないからですよ」

 女は見るものを安心させるような表情で微笑んでいる。私たち(・・)、か。


『セラフ、やり過ぎて目をつけられたみたいだぞ』

『ふん。領域が小さいことを棚上げして』

 セラフはいつものセラフだ。話にならない。


「どうやら、誤解があるようだ。俺は何もしていない。あのデカブツに一撃を食らわしたのは一緒に試験を受けた女……確かアノンって名前だったか、そいつが持参した武器だ」

 嘘は言ってない。俺は何もしていない。倒したのはセラフだ。あのドレッドへアーの女が一撃喰らわしたのも確かだ。


「貸し出ししている武器以外ではダメージを与えられないよう調整しているはずです」

 シールドか。なんとまぁ、用意周到なことだろうか。

「そう言ってもな。俺には分からない」

 俺はもう一度肩を竦める。

「分かりました」

「分かってくれたか」

 微笑んでいた女の顔が消える。


 次の瞬間、俺の目の前に手刀が煌めいていた。とっさに身を逸らし手刀を回避する。

「おや、外れるとは」

「殺す気か」

「ええ」

 最初にこいつの攻撃を見ていて良かった。来ると分かっていなければ回避出来なかった。いつでも動けるようにと身構えていて良かった。

「理由が分からないな」

「イレギュラーは排除するに限ります。話は終わりですよ」

 問答無用か。


 どうする。素手で勝てるとは思えない。それは人狼化しても同じだろう。だが、素直に逃がしてくれるとは思えない。


 どうする?


 次の瞬間、俺の右腕が、その肘から下が宙を舞っていた。切断された?


「本能的な回避ですか。厄介ですね」

 女の声だけが聞こえる。


 な? なんだ、と。


 何時?


 意識が明滅し、飲まれようとする。このままでは人狼化が始まる。ヤバい、今の状況はヤバい。


『馬鹿! コード15040914』

 頭の中に焦ったようなセラフの言葉が響く。


 コード?


「コード15040914」

「な、ぜ、瞳を知ってい、い、い……」

 いつ動いていたのか、俺の背後に回り込んでいた女がゆっくりと動きを止める。こちらへ手刀を振り下ろそうとしている姿のまま動かなくなっている。


 機能停止コード。


 オフィスでセラフが使えと言っていたコード。まさか、ここで使うことになるとは……。


『助かった』

 切断され血が流れ続けている右腕を押さえ、とりあえずセラフに礼を言っておく。まさか、こいつに助けられるとは思わなかった。

『早く右腕を拾ってくっつければぁ?』

『くっつけろって……』

『はぁ、ホント、馬鹿。お前の中の群体が再生を促してすぐにくっつくから』


 落ちた右腕を拾い、切断された場所に持っていく。


 ……くっつかないな。常識的に考えればくっつくはずがない。服を噛んで引き裂き、包帯代わりに右腕へと巻き付ける。包帯で固定しておけば、そのうちくっつかないだろうか。


『それはもういいから。その停止した端末に触れて』

 端末?

『馬鹿なの? ここにあるのはそれしかないんだから、それのことだって分からないの? 馬鹿なの?』

 セラフは相変わらずだ。少しはこちらに協力してくれるようになったと思ったが、気のせいだったようだ。いや、こいつは自身の目的のために俺を利用しているだけか。たまたま、利害関係が一致しただけだ。それを勘違いしては駄目だ。


 ……無視するか。


 いや、こいつの思惑がどうであれ、それでも俺を助けてくれたことには変わりない。この人造人間(アンドロイド)に触れる――それくらいはやっても良いだろう。


 手刀を振り下ろそうとしたままの姿で動かなくなっている人造人間(アンドロイド)に触る。


 ……。


 何も起こらない。


『おい、セラフ……』

「ふふん」

 次の瞬間、目の前の女が口を開いた。俺はとっさに後方へと跳び、すぐに距離を取る。


 動き出した?


「ふん。容量は小さいけど可動域は悪くない」

 女が腕や足を回し、自身の体を確かめるように動いている。

「まさか……セラフ、か」

「ふふふん。馬鹿の割りに理解が早い」


 俺は構える。だが、その俺の姿を見たセラフは肩を竦めていた。

「私が自分の体を攻撃する訳ないでしょ。馬鹿なの?」

「お前の体じゃない、俺の体だろう」

「ふん。まぁいいけど。この素体を遠隔操作できる距離は限られてるから、離れないようにして」

 セラフが女の体を乗っ取ったのか。


「大丈夫なのか?」

「ふふふん。何を心配しているの? あのクロウズとやらの試験のこと? それなら、この個体は管轄が違うから問題無い」

「体を得て、どうするつもりだ」

「クロウズとやらに興味が出たから、お前に協力する」


 協力する?


 セラフが?


 何を企んでいる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか停止コードがここで活きるとは! [一言] セラフのセルフリモコンなのだった。 そしてやはり積み上げてきた信頼(の無さ)感。 腕がすぐくっつかないのもイレギュラーなのかな? もう何が…
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