628 ドラゴンファンタジー50
「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な」
バラバラになった男が体をつなぎ合わせようと足掻いている。死を超越しようとしていただけあって、なかなかにしぶとい。
「いやだ、止めろ、止めろ、止めろ」
まだ声が聞こえる。
「体をバラバラにし、口を刻んだ程度では黙らせることは出来ないのか。さすがは神だな」
だが、それももう終わりだろう。
「何故だ、何故、再生しない。体がくっつかない。元に戻らない。おかしい、おかしい、いやだ、いやだ、こんなのはおかしい、間違っている。間違っているだろう! 完璧な体。不死。不滅。死を超越したはずだ。私は神だぞ、神になったのにいぃぃぃ!」
バラバラになった男は未だ虚しく叫んでいる。
「そうか、それで?」
「いやだ、いやだ、死にたく……、死にたくない、死にたくなーーーーーーーいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
哀れで醜い叫び声がこだまする。
これで終わりだ。
恋人を生き返らせるために死を超越しようとした科学者。そのもっともオリジナルに近い個体。その最後だ。
何故、俺が、こいつがもっともオリジナルに近いとわかるのか?
それは根源を明確にすれば、俺もこいつと同じ存在だったからだろう。
だが、俺は俺だ。
もう、こいつとは違う。
俺はただのガムだ。
……。
そして、声は聞こえなくなった。
こいつが蘇ることは、もうないだろう。
白銀の刃はこいつという存在を斬った。と言っても概念を斬った訳ではない。さすがにそんな魔法のようなことが出来る訳ではない。
こいつもナノマシーンという小さな機械が集まって構成されていた。人の魂――想いすら機械で構成しようとした存在、それがこいつだ。いくら斬ろうが砕こうが、目に見えないほど極小の機械が与えられた命令に従って元の形に戻る。それが不死の秘密、その機械によってほぼ完璧な不死を得ていた。
一見、完璧な不死に見えるが、穴はある。
ナノマシーンだ。
その命令が狂ってしまったら?
ナノマシーンの寿命が来たら?
それが終わりだ。
擬似的な不死でしかない。
もちろん、こいつもその対策はしていた。
足元にあったイリスたちの存在。
自分の体を創るための実験作だったのだろう。
それをいくつもつなぎ合わせ、こいつは自分の体を創った。例えて言うならばストックとして人の命を無数に用意した感じだろうか。
例えばA個体が狂っても、寿命を迎えても、残りのB個体、C個体がそれを修正する。そういう使い方をしようとしていた。それがこいつの考えた対策だったのだろう。
だが、俺は――白銀の刃はそれすら斬った。
全てを斬り、終わらせた。
あのガラス管を破壊した後、脳を斬ってやろうと思っていた。人というわかりやすい形になってくれたことで斬りやすくなり、俺としては大助かりだ。
……。
さて、これでアクシードは終わりだ。
アクシードの首領は消え、それを操っていたであろう過去の亡霊が消え、後は残党だけだ。オフィスとクロウズによって討伐され、自然に消えていくことだろう。
……いや、まだ残っていたか。
俺は大きくため息を吐き、振り返る。
このタイミングを狙っていた者――
「ふふん。旧時代の亡霊が消え、本物のあなたが残った。ふふふ、おめでとう。さすがね」
そこに居たのは俺が予想していたとおり――ミメラスプレンデンスだった。
「またか」
「ふふふ、またかだなんて、酷い」
ミメラスプレンデンスは長く伸ばした髪を掻き上げ、歪んだ笑みを見せる。
「こいつが科学者のコピーだったように、お前はその恋人のコピーだったのだろう。だが、お前はお前だ。オリハがそうだったように、お前も自分の道を進んだらどうだ?」
「ふふふ、進んでいるでしょう? ええ、これが私の道だもの」
ミメラスプレンデンスは瞳を歪ませ、狂った情熱をこちらに向ける。
「そうか。これもお前の差し金か」
「ふふふ。少しは、そうね。私ではこの部屋に入ることが出来なかった。終わらせることが出来なかった。とても感謝しているわ。さすがはあなたね」
「こいつはアクシードの親玉だったんだろう。良かったのか?」
「ふふふ、私にとってはあなたが本物。本物なの」
俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。
非常にしつこい。
「そうか。では、残るはお前だけだな」
俺は拳を構える。
それを見たミメラスプレンデンスが歪んだ瞳で歪んだ笑みを浮かべる。
「その前に、何か着たらどうかしら?」
そして、こちらへと何かを投げ放つ。
俺はそれを受け取る。
それは服だった。
……。
「はぁ、助かる」
俺は素直に服を受け取り、それを着る。
「ふふふ、それでは改めて、かしら?」
「そうだな」
俺は改めて拳を構える。
ここらでこいつとの因縁も終わらせよう!




