表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

627/727

627 ドラゴンファンタジー49

 砕け散ったガラス管からムクリと男が起き上がる。


 俺は自分の右手を見る。


 再生し、治っていたはずの右手がボロボロになっている。拳骨が肉を突き破り、砕けている。俺は血だらけの右手を軽く振り、大きなため息を吐く。この男……ずいぶんと硬い。もしかするとガラス管よりも硬いのではないだろうか。


「無駄だ。無駄だということに気付いたか」

 全裸の男がその体を見せびらかすようにこちらへと歩いてくる。


 俺は何度目になるかわからないため息を吐く。

「恥ずかしい奴だな。何か服を着たらどうだ?」


 男はこちらを見て口角を上げ、醜く笑う。

「ふぁふぁふぁ、これが、これこそが、人を超越し、神へと至った至高の姿だ。そんな私の何処が恥ずかしいというのかね」

 俺は顔に手をあて、首を振る。

「その神様気取りも聞いてて恥ずかしくなる」

 そのまま右拳を、俺は大きく踏み込み、こちらへと歩いてきていた男の顔面に叩きつける。


 ……。


「なんのつもりだね」

 だが、ビクともしない。先ほどは殴り飛ばすことが出来たが、今回はピクリとも動かない。男が歪んだ顔のままこちらを見る。


 次の瞬間、男の左腕が消えていた。


 不味い。


 男の左拳が俺の顔面へと飛んできている。


 このまま踏ん張り耐えるべきか?


 いや……!


 俺は飛ぶ。


 全身の力を抜き、殴られ、その勢いのまま吹き飛ばされる。


 俺は馬鹿みたいに地面を転がり、壁にぶち当たり、そこで止まる。頭を振りながら上半身を起こす。


 ……顎が外れている。


 もし、殴られた時に踏ん張り耐えようとしていたら、頭を吹き飛ばされていたかもしれない。その程度で俺が終わることはないだろう。だが、体の再生に使う時間を考えると――それは非常に不味い。俺が再生している間に、この神気取りの愚者が何処かに行ってしまうかもしれない。


 それは不味いだろう。


 こんな恥ずかしい奴を地上に出すのは間違いだ。ここでこいつを止めなければならない。


 俺は肩をほぐし、首を回しながら起き上がる。そのまま軽くポンポンと飛び跳ね体の動きを確認する。


「なんのつもり? お前を潰す、それだけだ」

 俺は走る。


 その勢いのまま男に右拳を叩きつける。ビクともしない。男はニヤニヤと笑い、棒立ちのまま俺の拳を受け止めている。


 俺はすぐに身を屈め、男の振り回しただけの拳を回避する。それは、ただ振り回しただけの一撃のように見える。だが、喰らってしまえば、先ほどと同じように簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。当たり所が悪ければそれは致命的な一撃になってしまう。


 俺は身を屈めたまま、両手を地面につけ、体を回転させ、男の足を払う。


 ……。


 動かない。


 ビクともしない。


 勢いよく蹴りすぎたからか、こちらの足が折れたかもしれない。


「この体。完成された完璧な体。不老、不死、不壊! 無敵の完全なる存在! 私こそが神」

 男が片足をあげる。


 こちらを踏み潰すように、その足を落とす。


 俺は地面につけた両手を勢いよく離し、飛び、退ける。


 自分の足を確認する。折れている。


 大きくため息を吐き、体のナノマシーンを活性化させ、折れた足を再生させる。完全に再生させる時間は無い。だが、立ち上がるのに問題が無い程度に回復すれば良い。


 俺はよろよろと起き上がる。

「まるで金剛。お前の体……確かに完璧な体なのかもしれない。だが、完璧な知性、知恵までは獲得出来なかったようだな」

 俺は自身の頭を軽くトントンと叩き笑う。


「愚かな。くくく、ふぁふぁふぁ、神を愚弄する愚かさをその身に刻め。死ぬが良い」

 男の体が光る。


 金色に輝き、その光りが広がる。


 俺は右手を盾にして光りを受ける。


 体が焼ける。


 体が溶ける。


 このままでは死ぬ。


 死ぬのは不味い。


 これだけはやりたくなかったが、仕方ない。


 俺は全身を人狼化させる。体が再構成され、溶け始めていた体が人狼の姿へと変化していく。着ていた服が弾け、毛深く、太い、大きな体が現れる。


 獣の咆哮。


 心の奥底から破壊衝動が沸き起こる。


 このまま目の前の男を叩き潰せ。


 破壊しろ。


 飛びかかれ。


 潰せ!


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……くだらない。


 俺は犬歯を噛み潰すように強く食いしばり、耐える。


 沸き起こる破壊衝動を抑え込み、踏ん張る。


 光りが俺を通り過ぎる。


 息を吐き出し、元の自分へと体を再構成させる。


 俺の体が元の体に戻る。


「そうか、それで?」

 俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。


「なんだ、と」

 目の前の男がギリギリと歯ぎしりしている。先ほどの一撃に俺を殺しきる――それだけの自信が有ったのだろう。だが、俺は、人狼化による体の再構成を使い、その一撃を無効化した。死ぬこと無く、乗り越えた。


 俺は走る。


 左腕は無事だ。


「くくく、無駄だ。何度も繰り返すつもりか。この完全な体を手に入れた今、それをさせると思うかね」

 俺の動きに余裕を取り戻したのか、男が口角を歪め醜く笑う。


 なるほど。


 水の滴が石を穿つように――ガラス管を砕いた時と同じように、俺が同じことをしようと思っているのだろう。


 俺は駆けながら、左腕に仕込んでいた白銀の刃を引き出す。


 一閃。


 そのまま駆け抜ける。


「それで?」

 俺は左腕を振り払い、白銀の刃を収納する。


「なんのつもりだ。そのような刃が……が、が、が」

 男の体に線が入る。


 男の体がずれていく。


 そして、バラバラになった。

全裸vs全裸

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 無駄に硬い! [一言] 器だけよくても中身がこれじゃあなー。 せめて全裸スタイルは恥じろよ……こんなのがオリジナルなの改めて厭ですね。 安易に放ったエレクトロンライフルみたいな攻撃は連発…
[良い点] あー全裸のガムになってしまったぜー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ