621 ドラゴンファンタジー43
「そうだ、俺だ」
目の前のロボットが自分はトビオだと自称する。
「ずいぶんと愉快な姿になったな」
目の前のロボットが骨格である鉄のパイプを折り曲げ肩を竦める。
「長く生きるためには仕方なかったのさ。まぁ、こうなったらもう俺がトビオと言えるかどうか分からない。声だけはわかるように以前のままだけどよぉ。はっ、今の俺は、トビオだったもの、トビオの為れ果て――アクシード四天王の一人、黄金のトビオさ」
「そうか」
「そうさ」
「それで? 今の俺は目覚めてからろくなものを食べていない。とても空腹だ。黄金のトビオ、お前が俺を歓待してくれるのか? 満たしてくれるのか? 俺は――アクシードの連中には個人的な借りがある。ここをたまたま見つけたが、見つけた以上、潰すつもりだ」
俺は目の前のロボットにそう告げる。
目の前のロボットはこちらを見て肩を竦めたままだ。
「どうした?」
俺は動かなくなった目の前のロボットに確認する。
「ガム、俺はお前が死んだと思った。思っていた。だから、餞別を入れてやった。知っているか? あれはお前と同じ名前なんだぜ。ガムって名前の食べ物だ」
「そうか。俺を埋めたのはお前か、黄金のトビオ」
「そうだぜ。もう食べたか? あれは貴重な食べ物だ。旧時代の遺産だ。残っているのは味のしなくなったようなものだけさ。それでも貴重だ」
「何が言いたい?」
「聞いてはいたが、本当に生き返るとは思わなかった。ガム、お前はよぉ、旧時代の遺物だ。異物だ。かみ続けてよぉ、味がなくなっても、それでもしぶとく残り続けて、くっちゃくっちゃとよぉ!」
「そうか、それで? 何が言いたい?」
俺はナインボールを動かし、先端を目の前のロボットへ向ける。
「ガム、お前をこの先に進ませるワケにはいかない。ここでもう一度、死ね」
目の前のトビオを名乗るロボットが手を振り上げる。それと同時に周囲から無数の砲塔が現れ、攻撃が放たれる。俺はナインボールのアクセルを全開にして突っ込む。無数の砲塔から放たれた銃弾をシールドで受け止め、そのままトビオを名乗るロボットにナインボールをぶち当てる。
……。
「ガム、舐めてるのか。お前は俺を舐めてるのか!」
ナインボールが目の前のトビオを名乗るロボットに止められる。トビオを名乗るロボットがナインボールのシャシーの下に両手を入れ、持ち上げる。俺はアクセルペダルを強く踏み込む。だが、ナインボールのタイヤは虚しく空回りしていた。
俺はナインボールが投げ捨てられる前に飛び降りる。着地し、そのまま拳を構え、トビオを名乗るロボットと対峙する。
「せっかくのクルマだったが、武装が無ければ駄目だな。移動くらいにしか使えなかった」
トビオを名乗るロボットがナインボールの前輪を持ち上げたまま、ひっくり返し、投げ捨てる。
「ガム、生身で今の俺と戦うつもりか? いや、お前はそういうヤツだった。そういうヤツだったぜ。だがよぉ、お前が、生身のお前が、今の俺に勝てると本当にそう思っているのか?」
トビオを名乗るロボットの言葉に、俺は拳を構えたまま肩を竦める。
「俺が、トビオ、お前と旅をした時のままだと思っているのか? 違うだろう?」
俺の言葉に反応するかのようにトビオを名乗るロボットが動く。早い。だが、動くことはわかっていた。俺は白銀の刃を抜き放ち、トビオを名乗るロボットと交差する。
「ガム、俺には俺のやることがある。やらなければならないんだよ! 全てはシーズカのため、それだけだぜ。ガム、お前はシーズカを知っているか? 憶えているか? 今も昔も俺は、そのためだけに生きてきた。こんな姿になってまでよぉ! それはもう昔の、今の俺には昔の頃の情熱も思いもありはしない。年月が、長い時が、それでもなぁ、残ってるんだよ、俺の中になぁ! これは俺の義務だ。俺が俺である証明。目的なのさ!」
「シーズカ? ゲンじいさんのところで住み込みで働いていた?」
確か……そうだったはずだ。
……。
トビオは……アクシードに連れ去られたシーズカを救うために奴らを追っていたはずだ。そのトビオがアクシードの手先になっていた。その理由はなんだ? なんだったんだ?
「ゲンジィだと! あのクソジジイが! あいつが生きてなければ! あいつが居なければ! シーズカは! クソ、クソ、クソがぁ」
トビオを名乗るロボットが叫ぶ。
そして、バラバラになる。
トビオを名乗るロボットは俺が振るった白銀の刃によってバラバラになった。ロボットが残骸となって転がる。
俺は小さく一つだけため息を吐き、ひっくり返っているナインボールの元まで歩く。車体に肩をあて、力を入れ、全身を使って起き上がらせる。運転席に座り、パンドラを動かす。
壊れていない。
問題無く動くようだ。
俺が再びナインボールを動かし、大きな扉を突き破ろうとした時だった。
「ガム! これで終わったと思ったのか? それは無いだろ、無いだろうがよぉ!」
聞こえてきた声に俺は振り返る。
バラバラになっていたロボット。その残骸が宙に浮いている。残骸と残骸を繋ぐように電気のようなものが走り、その状態で宙に浮いている。
「ガム、知っているか? 旧時代には1~37までの数字の、どれが来るかを7個書いて当てるクジがあったんだぜ。当たれば大量の金、コイルじゃあない、ゴールドだ。そうゴールドが手に入る。そういうクジってヤツだ」
「それが?」
俺はナインボールを旋回させ、宙に浮かぶ残骸と向き直る。
「そのクジの、当たり番号を覚えて過去に戻ってよぉ、それを書いたら大金持ちになれる、そう思わないか?」
「何が言いたい?」
「過去に戻って未来の当たり番号を書いて当たると思うか? 当たらねぇんだよ! わかるか? 当たるはずだった番号を書いたのに当たらねぇ」
「何が言いたい?」
「それが権力だ。それが運命だ」
電流のようなもので繋がっている残骸が、その体を鞭のようにしならせ、体全体を振り回す。
俺はナインボールを走らせ、振り回される残骸を回避する。
「運命、か」




