620 ドラゴンファンタジー42
黄色いお洒落なボディのナインボールを走らせ、絶壁に建つ城を目指す。
アクシード。
四天王を倒し、マザーノルンの本拠地で首領も倒した。壊滅したと思っていたが、しぶとく生き延びていた。ナノマシーンの力で不死に近いコックローチやミメラスプレンデンスが組織を継続させていたのだろう。
――と、俺はそう思っていた。
アクシードの首領は倒した。だが、本拠地は?
残っているはずだ。あのマザーノルンのあった施設がアクシードの本拠地だったとは思えない。あそこには首領の姿だけがあり、アクシードの兵隊は居なかった。
もしかすると、ここがアクシードの本拠地なのか?
連中は北と南が絶壁で隔てられていた時から、その隔離された南のエリアで力を蓄えていたのか?
……。
アクシード、目障りな連中だ。
ここで潰す。
俺はナインボールを絶壁に突っ込ませる。シールドを展開させ、それを絶壁へと楔のように撃ち込み、走らせる。
流線型のスポーティなクルマが絶壁を駆け上がっていく。絶壁を走っている途中でパンドラが切れればシールドは消え、ナインボールは地上に叩きつけられることになるだろう。俺はパンドラの残量を確認する。ほぼ満タンに近い状態だ。パンドラの残量は充分だろう。襲撃などを受けない限りは、パンドラ切れになることも無いだろう。
ナインボールを運転し、絶壁を駆け上がる。絶壁を走り続け、その流星のような勢いのまま城へと突っ込む。
そこで、城の前で荷物の運搬などを行なっていたアクシードの兵隊たちが、やっとこちらに気付く。
「しゅ、襲撃だー!」
「ど、どこのどいつだ!」
「防衛隊長を呼んでくれ!」
アクシードの兵隊たちが荷物を投げ出し、城の中へと駆け込む。俺は逃げ遅れたアクシードの兵隊をナインボールの体当たりではね飛ばし、逃げ惑うアクシードの兵隊たちを追いかけるように城の中へ突っ込む。
「襲撃だとぅ! こいつかッ! 死ね!」
アクシードの兵隊の一人が手に持った突撃銃を撃ち放つ。突撃銃から銃弾がばらまかれ、逃げてきたアクシードの兵隊ごとナインボールが攻撃を受ける。ナインボールのシールドが削られる。北のエリアで出会ったアクシードの兵隊たちが持っていた突撃銃よりも威力が高い。なかなか良い武器を使っているようだ。良い武器が配備されている――どうやら、ここがアクシードの連中の重要拠点であることは間違い無さそうだ。
俺は銃弾をばらまいている兵隊にナインボールを突っ込ませ、その眼前で前輪の下にシールドを発生させる。ナインボールの車体が浮き上がる。
「ぶべら」
アクシードの兵隊の情けない声。
ナインボールの車輪が兵隊の顔面を綺麗になぞり、跡をつける。俺はナインボールを急旋回させ、手を伸ばし、タイヤ跡のついた兵隊が握っていた突撃銃を奪う。
武器は現地調達に限る。武器を奪い続ければ残弾を気にする必要無く戦える。そして、武器を奪えば、奪うだけ相手を弱体化させることが出来るだろう。一石二鳥だ。
「た、隊長が! 防衛隊長がやられたー! 守備大隊長を呼んでくれ! 敵は手練れだ!」
俺は奪った突撃銃の引き金を引く。
カチッ、カチッと虚しく引き金を引く音だけが響く。どうやら使用者を制限する電子的なセキュリティーロックがかかっているようだ。
……。
武器の現地調達は難しそうだ。
俺は騒いでいるアクシードの兵隊に突撃銃を投げ当て、静かにさせ、城の中をナインボールで突っ走る。
大きな城門を抜け、城の入り口からエントランスへ。エントランスから謁見の間のような広間へ。
「来たな、襲撃者。ここを我々アクシードの本拠地アクシードパレスと知っての狼藉か!」
そこには作務衣のような服を身に纏った虎頭のミュータントが待ち構えていた。虎頭のミュータントの手には大きな刀のようなものがある。
大太刀か? これなら使えるかもしれない。
俺は待ち構えていた虎頭のミュータントへとナインボールを突っ込ませる。虎頭のミュータントが大きな刀を肩に乗せ、こちらへと飛びかかってくる。
「襲撃者、死ねぇぇ!」
頭上からの襲撃。
俺はナインボールの座席を蹴り、虎頭のミュータントを迎え撃つ。左腕に仕込んだ白銀の刃を引き出し、こちらに大きな刀を振り下ろそうとしていた虎頭のミュータントを斬る。
「そんな小さな刃で……ごぱぁ!」
白銀の刃が大きな刀を切断し、そのまま虎頭のミュータントを真っ二つにする。俺はナインボールに着地し、ハンドルを握り直す。
……。
しまった!
大太刀ごと斬ってしまった。
武器として使えそうだと思っていたのに……いや、この程度で簡単に折れてしまうような武器なんて無い方がマシだろう。
「大隊長がやられた! 守備大隊長が! どなたか、四天王をお呼びしてくれー!」
ナインボールを走らせる。わあわあと騒いでいるアクシードの兵隊をひき殺し、はね飛ばし、謁見の間のような広間にかかっているスロープを駆け上がり、二階へと進む。
二階の通路をナインボールで爆走する。
クルマでの移動も考えられているかのような大きさと広さの城だが、そろそろ探索も終わりだろう。
観音開きの大きな扉が見えてくる。いかにも大物が居ますといわんばかりの扉だ。そして、その扉の前に四角い部品と鉄パイプで組み上げたようなロボットが立っていた。
「来たか。生きているとは思わなかった」
ロボットが喋る。
……!
声。
俺はその声に聞き覚えがあった。
知っている声だ。
「トビオ、か」
俺はナインボールを急旋回させ、停車させる。
ロボットから聞こえてくる声――それはアクシード四天王の一人、黄金のトビオの声だった。




