619 ドラゴンファンタジー41
俺は地図にあった場所へと向かう。
ここか?
ここで間違いないだろう。
辿り着いた建物の中を、良いものが――目的のものが無いかと物色しながら歩く。
これか?
これか?
これか?
こっちの方が良いか?
「いや、これか」
そして、見つける。
そこにあったのは展示物として並ぶ車達。地図の情報から乗り物がある場所を探し、見つけたのがこの建物だ。俺は、てっきり当時の駐車場か何かだと思っていたのだが、この並び……どうやら、ここは展示会場のようだ。このファンタジー世界には似つかわしくないが、もしかするとファンタジー体験施設に博物館のようなものが併設されていたのかもしれない。
並んでいる車の殆どが化石燃料をエネルギーとした車だったが、その中に一台だけパンドラを搭載したクルマが置かれていた。
「唯一のパンドラ搭載車か。これは、わざとそうしたのか、それとも後から置いたのか」
だが、それはどうでも良いことだろう。
今、重要なのはパンドラを搭載したクルマが、ここにあるということだ。
黄色く塗られた流線型のようなボディ、その中央には尖った先端から伸びるように黒のラインが引かれている。速く走ることに特化しているのか武装のようなものは取り付けられていない。助手席すら無く、荷物を載せることも出来ない、硬派な一人乗りのクルマ――砂漠を走るには不安が残るスポーティな四輪車だ。
念願のクルマだが、このクルマで端末を運ぶのは難しいだろう。無理にこのクルマで運ぶよりは、戦車や装甲車などのパワーがあり、マシーンやビースト、バンディットどもの襲撃に対抗することが出来、悪路や登坂に優れた――そういったクルマを手に入れ、そちらで牽引した方が良いだろう。
俺は黄色い流線型のクルマに飛び乗る。運転席に座り、ハンドルを握る。鍵は……かかっていない。展示品だったからなのか、所有者の登録はされてないようだ。これなら、このまま動かせる。
さて、このクルマの名前は何にしようか?
俺は並んでいるクルマを見る。1、2、3……9番目、か。
このクルマは化石燃料で動く車に混じり、その最後――九番目に置かれていた。
「このクルマの登録名はナインボールだ」
パンドラに火を入れ、クルマを動かす。武装が無いのはもちろん、レーダーすら取り付けられていない。クルマを動かすための演算制御装置もシンプルで必要最低限のものになっている。つまり、クルマというよりも、パンドラを搭載しただけの車だ。
クルマの歴史を彩る試作車のようなものなのかもしれない。
ナインボールを動かし、展示場から外に出る。そのまま砂に沈むハイドランドを走る。幽鬼のようにうろうろと蠢いていた住民たちは、全てが倒れ、動かなくなっている。端末がスリープ状態になったことで活動を停止したのかもしれない。
建物が並ぶエリアを出て、砂漠に入る。目的地は俺が目覚めた墓場だ。
何故、俺はあそこに埋められていたのか?
俺に、この施設を楽しませるために、体感させるために埋めた? そんな訳が無い。俺は本当に埋められていた。俺でなければ脱出することは出来なかっただろう。そんな墓場からの復活が、このファンタジー施設の正規の入り口では無いだろう。では、あの墓場は? 位置的には施設の外れに当たる。あの墓場も施設の一部だと考えるよりは、墓場が施設にかぶってしまったと考えるべきでは無いだろうか?
何故、あの墓場に俺が埋められていたのか? 今ならそのヒントが見つかるかもしれない。
あの時は周囲が偽りの映像で囲まれ、方向感覚すら狂わされていた。だが、その施設管理を行なっていた端末は停止している。今なら、本来の姿を見ることが出来るだろう。
俺は墓場を目指しクルマを走らせる。
砂漠を走り続け、そして、墓場に辿り着く。
「なるほど」
思わずそんな言葉が口に出ていた。
このファンタジー施設によって隠されていたもの。隠していたもの。それが露わになっている。
これを隠すためにファンタジー施設があったのか、それともファンタジー施設を利用して隠していたのか。アレすらファンタジー施設の一部なのか。
それは城だった。
北と南を隔てる絶壁、その中腹に城が建っている。
城か。ぱっと見は、ファンタジー施設の延長にしか見えない。だが――
俺は目を凝らし、城を見る。そして、その城で蠢く存在を見つける。
見知った――俺の良く知る連中だ。
四角い板を貼り付けた防護服を身につけ、管の伸びたゴーグルをつけた格好の連中だ。暇なのか大きな欠伸をするもの、何かの荷物を運搬するもの、装甲車の誘導をしているもの――絶壁の中腹にある城の周りでは、そんな奴らの姿があった。
「アクシードの兵隊か。ここはアクシードの施設なのか?」
俺を回収したのはアクシードの連中か。そして、死んでいると思って、墓に埋めたのか。
……。
いや、それはどうなんだ?
連中に死体を墓に埋めるような知能や教養、慈悲などがあるだろうか。無さそうだ。
連中がやったのか、そうではないのか――あの城に攻め込めば、その答えは見つかるだろう。




