617 ドラゴンファンタジー39
俺はドラゴンになった王へと右手を突き付ける。ドラゴンになった王はその意味がわからないのか、竜の吐息を吐きかけようと首をもたげている。ドラゴンの口に真っ赤な炎のようなものが見えていた。
やれやれだ。これは人造人間ですらない。決められた行動をするだけの機械なのだろう。
――斬鋼拳。
俺の右拳が消え、そしてドラゴンになった王の上半身が消し飛ぶ。俺は元に戻った右腕を振り払い、大きくため息を吐く。
ファンタジー世界を体験するだけの施設ならこの程度の機械で充分なのだろう。知恵も知識も――自我も必要ない。決められた行動、反応をするだけで充分なのだろう。
しかし、困った。
ここならば管理側のシステムに接触することが出来るだろうと踏み込んだのだが……、と、そこまで考え、俺は気付く。
王の隣に居たはずのハルバードを持った全身金属鎧の男が消えている。
しまった。逃げられたか? あちらが本命か。
俺は後ろへ振り返る。ここまで俺を追いかけていた幽鬼のような連中も消えている。
……。
いや、こちらはドラゴンになった王との戦いが始まった時に気を利かせて去っていったのだろう。
全身金属鎧、こちらに逃げては居ないはずだ。
俺は何故かドラゴンに踏み潰されること無く、そのままの形で残っている玉座を見る。考えられるとしたらここしかないだろう。
玉座を調べる。だが、何も無い。俺は玉座の裏を見る。
……ここか。
玉座の後ろの床を軽く叩く。中に音が響く。この下に空間が広がっているのは間違いないだろう。さらに調べ、俺はそこに隠し通路を発見する。
俺は、無理矢理こじ開け、瓦礫が残る通路を歩く。
しばらく歩き続けると通路の雰囲気が変わった。周囲の壁が石で作られたものから金属の壁に変わっている。壁を叩く。硬い壁だ。
……。
砂に埋まっていた状態だったのに、中は何処も崩れていなかった。石壁でそんなことは可能だろうか? もしかすると俺の目が誤魔化されていただけで、石壁だったものも金属で作られた壁だったのかもしれない。尖塔を壊した時にもう少し調べておけば良かった。
俺は周囲を警戒しながら通路を歩き、そして辿り着く。
その部屋には、中央部に球体がくっついた砂時計のような機械とそれを守るように立つハルバードを持った全身金属鎧の男の姿があった。
あの砂時計のような機械が、ここの施設管理用の端末で間違いないだろう。見覚えのある形だ。もしかすると、セラフや各街の端末の原形? になった機械なのかもしれない。旧時代の代物で間違いないだろう。
自分が壊されると思ったからか、ハルバードを持った全身金属鎧を慌てて呼び戻したのだろう。なんとも間抜けな人工知能だ。性能も経験も足りていないのだろう。
セラフなら領域が小さい、と言っただろうな。
「それで? お前がここの施設を管理している端末か?」
俺の言葉に反応するように砂時計の中央にくっついた球体が点滅する。
[警告、警告。ここは立ち入り禁止区域になっています。ただちにこの場を離れてください]
室内に間抜けな警告音声が流れる。俺はため息を吐き、肩を竦める。
「迷子になってね。ここが何処か教えて欲しい」
[ここはハイドランド中央管理センターです。一般の方の立ち入りを禁止しています。関係者以外はすぐにこの場を離れてください]
先ほどと同じ声で警告音声が流れる。
「そうか。このハイドランドは地図で言うとどの辺りなんだ? 教えてくれ」
[警告、警告。ただちにこの場を離れてください。警告に従わない場合は強制的に排除いたします。お客様のご質問はランド内のサポートスタッフにご確認ください]
俺は大きくため息を吐く。
この人工知能は機械らしく融通が利かないらしい。
目の前の全身金属鎧が手に持ったハルバードの先端をこちらに向けている。警告通りに俺を強制排除しようとしているのだろう。
なるほど。
「それで?」
この端末を破壊し、そこから情報を手に入れた方が早いかもしれない。俺は眼帯を――布を巻いただけの右目に触る。この右目が使えていれば、こんな苦労をしなくて済んだのだが……今更、それを言っても仕方ないだろう。
俺は右へと飛ぶ。その俺の横をハルバードの先端から放たれた光弾が通り抜ける。
「その外見で銃なのか。ファンタジー世界で銃は反則だろう?」
俺は大きく踏み込み、全身金属鎧との距離を詰める。全身金属鎧がハルバードを叩きつけてくる。俺はそれを右腕で打ち払おうとする。
!
ハルバードと俺の右腕が触れた瞬間、衝撃が走る。体が痺れる。どうやら触れた相手に電流を流し、身動きを取れなくする機能もあるようだ。
俺の体が力なく、そのまま倒れる。
体が痺れている。動くのは機械の腕の左腕くらいだろうか。だが、問題無い。左腕を動かし、地面へと拳を叩きつける。その反動で体を強制的に起こし、俺を拘束しようと動いていた全身金属鎧の手から逃れる。そして、体内のナノマシーンを活性化させ元に戻す。
俺は一歩踏み込み、近寄ってきていた全身金属鎧の懐へと入る。そのまま右腕を突き上げ、全身金属鎧の頭を吹き飛ばす。
全身金属鎧のバケツのような兜が転がる。中は空っぽだ。胴体部分に機械が入っているようだ。頭なんて機械からすれば不要な飾りなのだろう。
[警告、警告。あなたは当施設に甚大な被害を与えています。拘束され懲役と罰金が科せられる可能性があります。ただちに破壊活動を止め……]
「そうか、それで?」
俺は全身金属鎧の胴体部分に掌打を浴びせ、凹ませる。全身金属鎧は無様な金属音を響かせ、膝から崩れ落ち、動かなくなる。俺の一撃が内部で反響し、機械を破壊し尽くしたのだろう。
俺は首を回し、肩を回し、体をほぐす。全身のしびれは消えている。
[警告、警告、警告!]
「それで?」
[警告、危険、危険、危険、危険]
俺は砂時計のような形をした管理端末へと歩いていく。




