616 ドラゴンファンタジー38
俺は石畳の階段を降りる。
「おらは農夫をやっとります」
そんな俺の後を村人たちがうわごとのように同じ言葉を繰り返しながら幽鬼のような足取りでついてくる。この村人? 国民と言うべきだろうか? が、俺の後を追いかけているのは衛兵ユニットが動かせない中で、俺を監視するための苦肉の策なのだろう。そういった策が考えられる程度には、この施設を管理している管理端末は、それなりに、まともに機能しているようだ。
……。
俺は階段を降り、この国のトップが居そうな場所を目指す。それは、まず間違いなく玉座のはずだ。王の寝室や食堂、個室などではなく、玉座だろう。この施設が、剣と魔法のファンタジー世界で冒険を楽しむことを目的としたものであるなら、王は、玉座というわかりやすい場所に居るはずだ。
砂に沈んだ薄暗い王宮を、玉座を目指して探索する。
……。
もしかすると、俺が目覚めた場所――墓地と、この施設は別の管轄なのかもしれない。あまりにも距離が離れすぎている。墓地で目覚めた俺が適当に歩いた結果、この施設に迷い込んでしまった。そう考えるとしっくりくる。
では、あの墓地は何だったのか?
墓碑銘の書かれていない墓石が並んでいた。考えられるのは名前がわからないものを埋めたから、か?
玉座を目指し、王宮の探索を続ける。警備の機械や衛兵などは現れない。稼働命令が出せない状況なのだろうか?
ここがどの辺りなのか? 予想にはなるが、だいたいの場所はわかった。
ここはマップの左下に位置する場所だろう。
砂に沈んでしまってはいるが、それなりの広さがある。そんな場所が他に考えられるだろうか?
そして、この時に取り残されたような、砂に沈んでいながらも旧時代――当時のままの命令で稼働している状況。
これがおかしい。
地図の北側部分ならあり得ないことだ。セラフがナノマシーンの管理を行なっているはずなのに、こんな中途半端な状況で旧時代の施設が残っているのはおかしい。北と南を分断する壁に守られ、中途半端にしかセラフの支配が届かなかった南側。そのエリアだとしたら辻褄が合う。機械が運営する施設が未だ稼働しているのも納得だ。
大きな両開きの扉を押し開ける。
そこは俺が予想していた通り、玉座の間だった。
装飾にこだわった煌びやかな玉座に座る中年の男と、その男を守るように長すぎるハルバードを持った全身金属鎧の男が居た。王とその護衛だろう。
「よくぞ参った、旅の勇者よ!」
玉座に座る王がこちらを見る。
旅の勇者、か。酒場では冒険者、王に会えば勇者――残念ながら俺はそのどちらでもない。しいて言えば、この施設を破壊する破壊者だろうか。
「そうか、それで?」
「ドラゴンを倒した者には賞金一万ゴールドを与える。旅の支度金として百ゴールドを渡そう。旅の勇者よ、このゴールドを使い装備を整え、ドラゴンを倒すのだ」
玉座に座る王がそんなことを言っている。
俺は肩を竦め、大きくため息を吐く。
「この施設を管理している管理AIと会話がしたい。繋いでくれないか?」
俺は目の前の王にそう告げる。
「よくぞ参った、旅の勇者よ! ドラゴンを倒した者には賞金一万ゴールドを与える。旅の支度金として百ゴールドを渡そう。旅の勇者よ、このゴールドを使い装備を整え、ドラゴンを倒すのだ」
玉座に座る王が先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「管理権限を持っているのは誰だ? そいつと話がしたい」
「よくぞ参った、旅の勇者よ! ドラゴンを倒した者には賞金一万ゴールドを与える。旅の支度金として百ゴールドを渡そう。旅の勇者よ、このゴールドを使い装備を整え、ドラゴンを倒すのだ」
玉座に座る王は再び同じ言葉を繰り返す。
……。
俺はため息を吐く。どうやら壊すしかないようだ。
「そうか、それで?」
「誰か! この者に支度金を持って来てくれ。勇者の旅立ちだ!」
玉座に座る王はそんなことを言っている。
この王、もう少し上等な機械だと予想していたが、完全に見込み違いだったようだ。
俺は拳を握り、玉座に座る王を殴りつける。メキメキと機械が砕ける音とともに王の頭が砕け散る。結局、最後までハルバードを持った騎士は動かなかったな。
とにかく、これで衛兵なりがやって来るはずだ。そいつはもう少し会話が出来れば良いのだが……。
ん?
俺が頭を砕いたはずの王がゆらりと立ち上がる。
「ファファファ、よくぞ私が真のドラゴンだと見破った! だが、このことを知られた以上、生かしてはおけん! 死ねい!」
頭部の無い王の体がバキバキと体が中から砕けているような異音を立て、大きくなっていく。俺は慌てて大きく後方へと飛び退く。
王の姿が翼の生えた大きなものへと変わっていく。その姿はまさしく竜だった。
どうやら、王が本当の竜だったようだ――という展開なのだろう。この施設の隠しボスみたいなものだろうか。
「ファファファ、我の体に普通の武器は通じぬぞ。唯一聖剣のみが我に傷をつけることが出来るのだ!」
ドラゴンになった王が楽しそうに喚いている。
やれやれ、さすがにこれを倒せば、管理システムが出てくるだろう。
であれば、サクッと壊してしまうか。




