615 ドラゴンファンタジー37
「何をするだよー!」
羽の生えた小さな人間が大きな声で叫ぶ。どうやらこの程度は想定内だったようだ。
まだ足りないか。
俺は吹き飛んだ大男に駆け寄り、その顎に拳を叩き込んで打ち上げる。
「これ以上やるなら衛兵を呼ぶよ! 牢に入ることになるよ!」
羽の生えた小さな人間が何か叫んでいるようだが、俺はそれを無視する。
ここが剣と魔法の異世界? 俺は異世界に迷い込んでしまった? そんな訳が無い。では、何かの幻覚を見ている? その可能性はゼロではない。可能性としてはあり得る。だから、確認しよう。
俺は打ち上がった大男よりも高く飛び上がり、その頭に握り合わせた拳を叩き込む。大男は地面に叩きつけられ、顔の一部が砕け散る。
「がが、ぴー、ぼうけん、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ……」
顔の一部が砕け、中身を晒した大男が意味のわからない言葉を繰り返している。どうやら壊れてしまったようだ。
やはり、そうか。
顔の砕けた部分から機械が見えている。なるほど。人造人間とは言えないお粗末な機械人形、それがこの大男の正体だった。
さて。
俺は周囲を見回す。周囲の機械人形達の動きが止まっている。酒を飲んでいた男は、グラスを傾けた状態のまま、食事をしていた男は一切れの肉を口に運ぼうとしたまま、まるで時が止まったかのように動きを止めている。
俺は酒場から外に出る。
通りに居た人々はうろうろと幽鬼のように歩いたままだった。酒場の中と管轄が違うのか、それとも単純な作業を繰り返す機械だから停止していないのか。
「衛兵ー、衛兵を呼んだからね! 衛兵が来るよ! 衛兵に捕まると、ぴー、がが、が時間拘束されるからね!」
羽の生えた小さな人間が叫んでいる。言葉の途中でノイズ音が乗っていたが、それは別にどうでも良いだろう。
俺はその場で少しだけ待つ。だが、衛兵とやらが現れる様子は無い。本来は暴れた人間を拘束し、反省室みたいなところに連れて行くのだろう。だが、何か異常が起きて、それが出来なくなっているのでは無いだろうか。そういった連中と接触すれば、もう少しまともな会話が出来るかと思ったのだが、どうやらあてが外れたようだ。
仕方ない。
俺は羽の生えた小さな人間を捕まえる。
「一つ聞きたい」
「放せ、放せ、放せよー」
「ここのトップは何処に居る?」
「警告、警告、警告します。このような行為を続ける場合、あなたは施設に損害を与えたとして……」
羽の生えた小さな人間は俺の質問に答えない。知らないのか、答えることが出来ないのか。どうやらこれ以上、この羽の生えた小さな人間に聞いても無駄のようだ。
俺は肩を竦める。そして、そのまま羽の生えた小さな人間を空へと投げ捨てる。何かぶちぶちと引き千切ったような感触とともに羽の生えた小さな人間が大きく空へと舞い上がり、そして、空にぶち当たった。空に見えない壁がある。
……。
天井か。予想通りだ。想定よりも天井が低いこと意外は俺が思っていた通りだった。竜が空を飛んでいたように見えたトリックの答えがこれだろう。
俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。
さて、どうする?
また砂漠に戻るよりは、ここを探索した方が良いだろう。出来るだけ早く管理システムに接触し、ここが何処なのか情報を手に入れたいのだが、俺の呼び寄せるという作戦は失敗してしまった。では、どうすれば良いのか?
羽の生えた小さな人間はここがハイドランドという国だと言っていた。そう、国だ。国であれば、国を治めるものが居るはず。そいつを探せば管理システムに繋がるかもしれない。国のトップなのだから、それらしい建物に居るはずだ。
「武器と防具は装備しないと意味が無いぞ」
幽鬼のようにふらふらと歩く人々を無視して、俺は砂の中に並ぶ建物を見る。どれも同じような建物だ。砂の大地に四角い民家のような建物が並んでいる。砂? 砂漠の中にこの施設を作った? いや、そうでは無いだろう。この施設が砂に飲み込まれた。その状態のまま稼働を続けている。そう考えた方が良いだろう。
「いらっしゃい、ここは道具屋だよ」
よく見れば通りの先に尖った円錐形の建物が見える。周りにある四角い民家とは少し雰囲気が違う。
……。
円錐形の建物? 俺は地面を見る。砂だ。
「徒競走かい? そっちは王宮だよ」
俺は円錐形の建物まで走る。
円錐形の建物に窓や入り口のようなものは見えない。一周が二十メートルほどだろうか。そこまで大きなものでは無い。
「不安だらけの毎日さ」
俺は円錐形の建物の壁を叩く。
……。
音が中に反響しているようだ。中が空洞になっているのだろう。
「王宮に用があるならそれなりの装備をしてください」
なるほど。これは尖塔か。
大きな建物が砂に埋まってしまった。そういうことなのだろう。ならばやることは一つしか無い。
「竜を倒すには聖剣の力が必要だ」
俺は右腕に力を入れる。腕だけを人狼化させ、大きくなった獣の腕で尖塔の壁を殴る。バラバラと壁が壊れる。尖塔の中には下へと降りる階段があった。階段は砂に埋まってなかったようだ。
砂に沈んだ王宮といったところか。
「仲間を探しているなら酒場に行ってみるんだな」
この奥に、この国のトップが待っているだろう。だが、そいつが、イコールこの施設のトップとはならない。それでも施設のトップに近い端末なのは間違いないだろう。その端末が話のわかる奴であれば良いのだが……。




