061 クロウズ試験28――起承転結
「お、おい、何の光だ。やったのか? おい、アノン、もう一発、それを撃てないのか」
ネシベと名乗っていたおっさんがドレッドへアーの女に詰め寄っている。
「ちっ、発射口が駄目になってるとか。改良の余地が……って、何、何がどうなったんだよ!」
そのドレッドへアーの女は先端がはじけ飛んだ長い棒の確認で大忙しだ。
そして、衛星グングニルによって放たれた光が消える。
そこには体に大きな穴を開けた巨人の姿があった。巨人がのけぞった姿のまま、ゆっくりと崩れ落ちる。大きな地響きが起こり、そしてバラバラになった。観音像をつなぎ合わせ無理矢理、巨人の姿にしていた力のようなものが消えたようだ。
勝ったか。
セラフが行動してくれたおかげでの勝利だ。
『ふふん、当然でしょ』
この巨人の制御を乗っ取ることが出来なかったセラフの、こいつをどうしても倒したいという思いと俺の利害が一致したから、か。
『はぁ!? 制御できなかった訳じゃないのが分からないの?』
まぁ、それはどうでも良い。
「倒したのか、倒したのかよ! やったじゃねえか!」
「倒せた? やっぱり、そうだ。科学の勝利だよ」
おっさんとドレッドへアーの女が喜び合っている。どうやら自分の力で倒せたと勘違いしているようだ。
まぁ、それは良いだろう。
『はぁ? 良くないんだけど』
この長い棒――ロッドの力は恐るべきものだった。どういう仕組みになっているのか正確なところは分からないが、この女は『粒子』と言っていた――その言葉で思い浮かぶものがある。荷電粒子砲だ。こんなただの棒から荷電粒子を加速させて発射させたとは思えないので、それそのものではないのだろう。だが、もしかすると、それに近いものなのかもしれない。
その発射したエネルギーだけで建物の一階と二階をぶち抜くほど巨大な体をのけぞらせたのだ。普通では考えられないような力だ。だが、それでも、この巨人の本体に傷を負わすことは出来なかった。
シールド。
この巨人はそれに守られていた。
厄介だ。
マシーンと呼んでいる機械連中の全てが持っている訳ではないようだが、何か対策を考えないと何も出来ず負けてしまう。俺が用意していたサブマシンガンも、このシールドがあるがために武器として活用することが出来なかった。
確か、セラフはコードと言っていたはずだ。シールドを突破するコード、か。あの最初に貸し出ししていた近未来的な狙撃銃や卵形のハンドガンなどなら、攻撃が通ったのだろう。あれらが残っていれば、この巨人ももう少し楽に勝てたのかもしれない。
……。
そこまで考えて思うのは、そんな厄介な相手を一撃で沈めたセラフの力だろうか。
『ふふふふふん。当然』
いや、衛星の力が凄いだけか。地上――開けた場所でしか使えないが、それでもお釣りが来るくらいの威力と性能だ。
『はぁ? 何度も言うけど、あまり使えば誤魔化しきれなくなるから。こちらを探知されれば終わるから』
ふぅ、色々と考えたが、これでひとまずの脅威は消えたか。建物の崩壊も止まっている。この様子なら今すぐに建物が倒壊することはないだろう。
……体を回復させる時間は作れた。
「お、おい、これで終わったんだよな? な? おっしゃ、生き延びたぞ。もう危ないことは起きないだろ! これで俺もクロウズだ!」
「改良の余地ありかよ。ま、クロウズになればもっと試せるか」
二人は全てが終わったかのように安心して緩んでいる。
「小僧、やったな。お前は本当にすげぇヤツだよ」
おっさんが俺の肩をバンバンと叩く。俺はおっさんの言葉に答えず、体を動かさないようにして体の回復に努める。俺の体は異常な再生能力を持っている。動かない肩も足も時間が経てば治るはずだ。
俺はじっと巨人が崩れ落ちた先を見る。見つめ続ける。巨人が動き出すかどうかを不安に思っての行動ではない。
「お、おい、まだ何かあるのかよ」
俺のその様子を不安に思ったのか、おっさんがキョロキョロと周囲を見回していた。
終わっていない。
そう、まだ終わっていない。
「この工場は生きている」
「ん、あ? おい、まさか」
俺の言葉に反応したのはドレッドへアーの女だった。こいつは、こんななりだが科学者だ。いや、科学を使った発明家か? だから気付いたのだろう。
このままだと次が来る。
さすがにこれだけの大物が連続で来ることはないだろうが、それでも時間をかければ、同じようなものがやって来る可能性はある。
俺は、次も勝てる、何とか出来る、と無策で思えるほど楽天家ではない。
生産場をぶっ壊す必要がある。
それはこの巨人が歩いてきた先にあるのだろう。
だから、俺は体の回復を急いでいる。なるべく力を使わないように全力で体を回復させている。
もう武器はない。残ったのは俺の体だけだ。
……そろそろ大丈夫か。
足は動く。肩の方は、まだ時間がかかりそうだ……いや、足が動けば充分か。
「行ってくる」
俺はゆっくりと立ち上がり歩く。
「あ? ……おい、分かるのかよ」
ドレッドへアーの女が迷うような、何処か躊躇いがちに話しかけてくる。
「多分、何とかなる」
なるほど。多分、このドレッドへアーの女は生産装置を止めるのに、自分の科学知識が必要になるかもしれないと考えたのか。農家のおっさんと少年にしか見えない俺……普通は、そう考えるか。
だから、行きたくないが、力を貸す、と提案してくれたのだろう。
だが、必要無い。
俺は歩く。
崩れ落ちた床の縁に片手掴まり、そこから飛び降りる。
観音像の残骸に着地し、そこからさらに飛び降りる。
この先に、コイツらを作った生産場があるはずだ。




