608 ドラゴンファンタジー30
空から降ってきたミメラスプレンデンスは何も身につけていない。一糸まとわぬ姿だった。
ダークラットの操縦桿を握り、砲塔を動かす。狙い、放つ。だが、そのダークラットから放たれた一撃は黄金色に輝く障壁によって防がれていた。
やはり、効かないか。
「ふふん。いきなり攻撃だなんて、なんて酷い」
ミメラスプレンデンスが指をパチンと鳴らす。その動作をトリガーとしてミメラスプレンデンスの体を覆い隠すように黒いライダースーツが形成されていく。
『ああ、そうね。チャンネルはこれで良かったかしら? ふふん、どうかしら? 聞こえている?』
ミメラスプレンデンスからのナノマシーンを介した通信が直接脳内に響く。
『その鬱陶しい笑い方を止めろ』
俺は苦虫を噛み潰した気分で言葉を返す。
『あらあら、何がお気に召さなかったのかしら』
ダークラットのスクリーンに映し出されたミメラスプレンデンスは病んだ瞳に狂気を浮かべ、楽しそうに笑っている。
『お前の存在が、お前の全てが俺を苛立たせる』
『ふふふ、ふふふ、ふふふ、私はこんなにもあなたを求め、愛しているというのに、酷いわ。ふふん、酷い話だわ』
病んだ瞳の女――ミメラスプレンデンスがこちらへと歩いてくる。
俺はミメラスプレンデンスを狙い、砲撃を繰り返す。その攻撃、全てが黄金色に輝く障壁によって防がれる。一見無駄にしか思えない攻撃――だが、それでも俺は砲撃を繰り返す。
『私の笑い方? ああ、これね。ふふん。これがなんで駄目なのかしら? あなたがやっきになって目覚めさせようとしている端末と似ているからかしら?』
「……ちっ」
俺は思わず舌打ちする。
『あらあら、急に声が聞こえなくなったけれど、どうしたのかしら? ふふふ、何故、知っていると、そう思ったのかしら? ふふん、あの島は私が拠点として使っている島だもの。当然、端末のことは知っているわ』
『……そうか、それで?』
俺は砲撃を繰り返す。その爆炎がミメラスプレンデンスの視界を覆い隠す。
『ふふん、無駄』
爆炎に隠れて砲撃を放つ。だが、その一撃も全方位を守る黄金色の障壁によって防がれる。見えていなかったとしても関係ないのだろう。ミメラスプレンデンスはナノマシーンを操れる。奴自身がナノマシーンで構成されたナノマシーン人間と呼ぶべき存在だ。周囲にナノマシーンを散布し、それを目の代わりにしているのだろう。この程度の目眩ましでは奴の視界を奪うことは出来ない。だが、そんなことはわかっている。
『あなたは私があの端末と似ているのが気にくわないようだけれど、ふふふ、それは仕方の無いことでしょう? だって、元は同じなのだから。マザーノルンがあの男のために、気に入られようと造った端末、そして、素体。その失敗作が私たちなのだから。本質は同じもの。似ているのは仕方ないでしょう?』
ミメラスプレンデンスは病んだ瞳で笑っている。
『今日はずいぶんと饒舌だな』
似ている?
お前とセラフが似ている?
馬鹿を言うな。
もし元が同じなのだとしても、セラフはセラフという個性を得ていた。同じ訳がないだろう。同じだなんて言うな。そして、自分のことを失敗作だなんて言うな。
『あらあら。ふふふ、だって久しぶりにあなたに会えたのだから、饒舌にもなるでしょう? どうやって隠れていたのかしら? 同じ私であるあの子に聞いても教えてくれないんですもの。ふふふ、やっと居場所がわかったのだから、それこそ本当に飛んできてしまったわ』
ミメラスプレンデンスは笑っている。
俺は右のこめかみをとんとんと叩き、そのまま砲撃を続ける。
『あなたと同じように永遠を生きられるのは私だけ』
俺は砲撃を続ける。
『ふふん、そう、私だけ。わかっているんでしょう?』
俺は砲撃を続ける。
『同じように永遠を生きる者同士、戦いましょう』
俺は砲撃を続ける。
『ふふん、これが私たちの会話でしょう?』
ミメラスプレンデンスからのナノマシーンを介した通信が次々と届く。だが、俺はそれを無視して砲撃を繰り返す。
ミメラスプレンデンスは一歩一歩、何かを確かめるように、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
黄金色に輝く障壁は傷一つ無い。全ての攻撃を防ぐ無敵の障壁にしか見えない。パンドラというエネルギーを使ったクルマのシールドと違い、何かを消費しているようには見えない。いくら、攻撃を続けても無駄なようにしか見えない。
俺は小さくため息を吐く。
……周囲のナノマシーンを吸収して障壁としているのだから、ナノマシーンがある限り、削りきることは出来ないだろう。攻撃し、ナノマシーンの一部を散らしたとしても、すぐに集まり再結合し、再生する。全てを蹴散らすほどの一撃の威力が必要だ。ノアマテリアル弾を使った砲撃クラスの威力が出せれば貫通出来るだろう。だが、残念ながらここには無い。
さて、と。
俺は砲撃を止める。
これ以上は邪魔になる。
ミメラスプレンデンス、お前は勘違いしている。ここには俺とお前しか居ないと思っているようだが、そうじゃあない。お前からすれば、取るに足らない存在なのだろう。考える必要も無い存在だと思っているのだろう。
だが、お前は人を舐めすぎだ。
俺の弟子を見くびるな。
俺の砲撃による合図を受け取ったイイダがマチェーテを持ち、ミメラスプレンデンスに飛びかかっていた。
お前のその障壁、クルマのシールドと同じく、接近戦に弱いようだな。
さあ、ここから反撃に移らせて貰うぞ!




