表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

606/727

606 ドラゴンファンタジー28

 左右を壁に挟まれている一本道。


 俺たちは、アースカーペンターたちを一網打尽にするため、このポイントへと誘い込んだ。もう少し進めば、左右の壁が消える。俺たちが聞いていた当初の予定ではそこまで誘い込み、そこで左右に分かれ逃げる。そこで攻撃という作戦だったはずだ。だが、これはどういうことだ?


 ずいぶんと予定よりも早い。


 このタイミング、いくらクルマの機動力が高くてもトールハンマーの攻撃範囲から逃げられない。逃げるのは無理だ。時間が、速度が足りない。Uターンしてアースカーペンターたちに突っ込むか? 奴らの群れの中に突っ込んで無事で居られるとは思えない。それこそ、連中の群れごとトールハンマーの一撃で消し飛ばされるだろう。


 小回りが利くこのダークラットでも無理なのだ、他のクルマはどうやっても無理だろう。


 どうする?


 トールハンマーの一撃はクルマのシールドでは防げない。シールドごと破壊されるだろう。


 出来る可能性。


 クルマのシールド。それ一枚で防ぐのは無理だ。だが、数を重ねればどうだろうか?


 トールハンマー。パンドラを吸い上げ、強力な一撃を放つ。だが、そのパンドラは一台分だろう? それなら数台のクルマ、そのパンドラを重ね合わせた方が上になるはずだ。


 一台、二台、三台……それらを犠牲にすれば防ぎきることは出来るのではないだろうか。


 ……。


 俺はそこまで考え、首を横に振る。


 無理だ。


 アイダ、イイダはしぶしぶ協力してくれるかもしれない。だが、他の二台のクロウズたちは無理だろう。そのままではトールハンマーの一撃に潰されるのだとしても、自分のクルマを犠牲にするような案に乗ってくれるとは思えない。信じて貰えるとは思えない。そもそも、だ。通信が妨害されている状況でそれをどうやって伝える?


 トールハンマーのことを知らない他のクロウズは、そこまで危険だと思っていない可能性が高い。作戦の決行が少し早まったとしても、シールドで耐えれば良い、その後で少し文句でも言ってやろう、そう思っているかもしれない。


 俺はダークラットを走らせる。この場から逃げるためではない。生き残るために。


 そして……、


 トールハンマーのチャージが終わる。


 刹那の光。


 閃光が広がる。


 全てが消し飛んでいく。


 トールハンマーの射線上に居たアースカーペンターは消し飛んだだろう。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 トールハンマーを放った真っ赤なクルマのハッチが開く。そして、そこから老いた男が現れる。


「くくく、倒せたか」

 ハッチから現れた老いた男が笑っている。何が面白いのか笑っている。


 そして、その笑い声が止まる。


「これは……どういうことだ!」

 老いた男が叫ぶ。


 俺は左腕の機械の腕(マシーンアーム)に搭載していた白銀の刃をしまう。


 ……。


「師匠、斬ったの?」

 双頭のドラゴンのハッチを開け、アイダが顔を出す。


 そう、俺はトールハンマーの一撃を斬った。その一撃は白銀の刃を中心として左右に分かれ、左右の壁を穿った。


 俺がトールハンマーの一撃を斬り、防いだことによってアースカーペンターの多くが生き残っている。


 作戦は失敗だ。


 俺が邪魔したことによって作戦は失敗した。


「師匠、どういうことですの?」

 イイダも、もう一つのハッチから顔を出す。


 二人の呟いたような声は俺にまで届いている。二人は俺が何故、作戦を妨害したのかわからないのだろう。二人はクルマのシールドで耐えれば何とかなったと思っているのかもしれない。少し作戦が早まったとしても、アースカーペンターたちを殲滅する方が重要だと、それで納得していたのだろう。これがトールハンマーでなければ――トールハンマーを知らなければ、そう思うのも当然だ。


 俺は老いた男を見る。見覚えがある。そうか、そうだったのか。こいつがやりそうなことだ。自身の英雄としての立場を守るために、作戦を確実なものにするために、臆病な性格故に――俺たちを巻き込みながら攻撃した方が失敗がないと、そう判断したのだろう。


 あの指揮官の女ではなく、何故、こいつがこのクルマに乗っていたのか? こいつと指揮官の女の関係はどうなっているのか?


 気になるところは色々ある。


 だが、まずはやるべきことをやろう。そして、その後で、この因縁を終わらせよう。


 俺たちを追いかけていたアースカーペンターの殆どが健在だ。アースカーペンターが、こちらに追いつこうとしている。このままでは俺たちはアースカーペンターに蹂躙され、そして、ハルカナの街も終わるだろう。


 俺は右目に触り、通信を入れる。

「悪いが、ここに攻撃を頼めないか。座標は送った」

[ゴズ、突然の通信だなんて……ずいぶんと勝手じゃない。それを行なった後のこと、わかってるの?]

「ああ。それでも頼む」


 生き残った無数のアースカーペンターがこちらへと迫る。生き残ったクルマは反転し、アースカーペンターに攻撃をしようとしている。判断が早い。とにかく、なんとかしようとしているのだろう。


 ……。


 そして、空から無数の光が降り注ぐ。


 ここが地上で良かった。地上なら衛星経由で攻撃が届く。無数の光がアースカーペンターたちを消滅させていく。これでアースカーペンターは何とかなるだろう。だが、これを使ったことで俺の存在が知られてしまったはずだ。ある意味、このアースカーペンターよりも厄介な奴がやって来る。備えなければいけない。


 だが、その前に――


 俺は老いた男を見る。この因縁を終わらせよう。


 この老いた男との出会いは俺が初めてクロウズになった時にまで遡る。その出会いが、因縁が、ここまで続くとは思わなかった。

 だが、それもここで終わらせよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 悪縁だ! [一言] 盗人の何が嫌かって武器の性能頼りで実力ないくせに味方を囮にして自分だけ生き残って功績をかすめ取ったあげく志を受け継いだとか言いそうで、しかもそれが計算なのか本音なのかも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ