605 ドラゴンファンタジー27
クルマの砲が火を吹く。誰が口火を切ったのか、それは誰の攻撃だったのだろうか、それはわからない。
十台以上のクルマによる砲撃だ。次々と砲撃の音が鳴り響く。
連携も何もあったものではない。通信が妨害されているからか? いや、通信が制限されていなかったとしても、連携なんて出来たものでは無かっただろう。彼らは軍隊ではない。だが、クルマを持ち、ビーストやマシーンと戦う熟練のクロウズたちだ。連携が出来なくても問題は無い。個人個人で上手く戦うだろう。
無数の砲撃を浴び、先頭のアースカーペンターが砕け散る。
やったか?
そう思った瞬間だった。
まるで時を逆戻ししているかのようにアースカーペンターの体が再生していく。元の巨大なサングラスをかけた赤ん坊のような姿に戻っていく。
……倒せなかったか。
無数の砲撃でも一匹倒すことすら出来なかった。だが、注意を引くことは出来たようだ。アースカーペンターたちの敵意がこちらへと向けられる。進路を変えるようにゆっくりとこちらへ動き出す。
クロウズのクルマが後退していく。後は目的のポイントまでこいつらを誘導すれば俺たちの仕事は終わりだ。
……。
だが、それで良いのだろうか?
こいつらは異常な再生能力を持っていた。それなりの腕を持つクロウズたちのクルマでも倒しきれなかった。それが目的地で待っている大口径の砲で倒せると? 倒しきれるのか?
不安が残る。
跡形もなく消滅させるような威力であれば可能かもしれない。倒せるかもしれない。だが、そんなものがあるだろうか? 用意されているだろうか? 中途半端な威力では、結局、再生し、再び動き出すだけだろう。
ハルカナの街へと向かうルートから変更させられただけで成功だと言えるのなら良いのだが、こいつらはビーストやマシーンではない謎の存在だ。もちろんバンディットたちでもない。何の思惑があって、いや、思惑すらないのかもしれないが、何故、こいつらがハルカナの街を目指しているのか俺たちは知らない。理解していない。
今はこちらに反応して、俺たちを追いかけている。だが、その後は? 再び、ハルカナの街を目指して動き出すかもしれない。こいつらは暴走し何もわからず突き進んでいる獣とは違う。
……指揮官はそこをわかっているのだろうか?
いや、それはさすがに指揮官に求めすぎか。こいつらのことは誰もわからないのだ。必ず成功する作戦なんてものは無い。勝率が高くなるように、成功するように持っていくだけだ。わからない相手に、成功率が高いと思われる作戦をぶつけているだけだろう。敵のことがわからない、時間が無い、街を守らなければならない。そんな状況下でやれることをやろうとしている。クロウズをまとめ、なんとかしようとしている。責任を持つ立場になり、前に立とうとしている。
ある意味、英雄的な行動だ。
そのことを評価すべきか。作戦が穴だらけで、わからないなりに、もう少しやりようがあったのではないだろうかと思うが……。
クロウズたちが後退しながら砲撃を続ける。アースカーペンターの敵意を適度に稼ぎ、目的地へと誘導していく。
アースカーペンターが手に持った泥の塊のようなものを投げつけてくる。クロウズのクルマの一台がシールド限界を迎え、吹き飛ぶ。アースカーペンターの連中は遠距離攻撃を持っている。連中の射程外から、敵意を稼いでらくらく誘導とはいかないようだ。アースカーペンターは数が多い。百体以上の数が放つ泥投げだ。全てを躱しきるのは難しいだろう。こちらも無傷という訳にはいかない。
アイダとイイダのクルマが群れからはぐれたアースカーペンターに接近し、その主砲から火炎を放射する。まるで竜の吐息だ。炎に炙られたはぐれアースカーペンターが、その炎を嫌がり、逃げるように群れへと戻る。
炎が有効なのかもしれない。だが、炎を浴びせるには近寄る必要がある。事前の準備がなければ、先ほどアイダたちがやったように群れからはぐれた個体を狙うくらいしか出来ないだろう。
もし、それがわかっていたなら、大量の油でも用意して焼き殺すことが出来たかもしれない。この情報を待機している連中に渡せれば良かったのだが、通信が制限されている状況ではそれも難しいだろう。
結局、俺たちに出来ることは指揮官の用意した大口径の砲とやらの威力を期待して、そこに誘導することだけだ。
アイダとイイダ。これが最後なんだから、あまり無茶はするなよ?
俺はそう願いながら、戦闘を続ける。
つかず離れず、アースカーペンターの群れに張り付き、攻撃を繰り返し、挑発し、誘導する。
何度も繰り返す。
数時間――4、5時間はそんな神経がすり減る作業を繰り返しただろうか。最初は十台以上あったクルマが、今は数えるだけに、俺とアイダ、イイダの二人のクルマを入れて四台しか残っていない。
アースカーペンターの群れに飲み込まれたもの、シールド限界を超え、動けなくなったもの、飛んできた泥の塊に潰されたもの、いくつもの犠牲をだしながらも、指定のポイントに到着する。
俺たちの決死の誘導によってアースカーペンターの群れが指定エリアに入る。
そして、俺はそこに用意されたものを見る。
見覚えがある。
「何故、アレがここにある?」
それは神の雷を積んだ真っ赤なクルマだった。
かつてのスピードマスターの愛車。そして、あの泥棒野郎が盗んでいったクルマ。そのクルマが何故、ここにある? そして、何故、トールハンマーを積んでいる?
トールハンマーがこちらを向いている。
アースカーペンターを狙っているのだろう。
トールハンマーが充填を始めている。クルマのパンドラを吸い尽くし、その強力な一撃を放つのだろう。確かにトールハンマーの一撃ならこいつらを倒せるかもしれない。連中を確実に倒せる作戦、か。これがそうか。
だが、そこに俺たちが逃げる時間は――考慮されていなかった。
「俺たちごと打ち抜くつもりかッ!」




