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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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602 ドラゴンファンタジー24

「はーい、それじゃあ、これに名前を書いて」

 俺の前では、真ん中を剃り上げた逆モヒカンと呼べそうな特徴的な髪の男が名簿を広げ、俺たちに名前の記入を促していた。


 この世界、意外にも識字率は高い。読むだけではなく、書くことが出来る者たちが殆どだ。それはマザーノルンが、クローニングして創った(・・・)第一世代の人間に、記憶と合わせて知識を組み込み(インストール)していたからだろう。その第一世代が――その知識を、経験を、第二世代、第三世代に教え、伝えている。

 だが、それもいつまで続くかわからない。命が軽い世界だ。抱えていた知識を伝える前に死んでしまうことだってあるだろう。学校のようなものがある訳でもない。教養を学ぶよりも戦うことが優先になる場合もあるだろう。

 管理するものが消えたことで、文明は――、文化は――、変質しようとしている。


 ……。


「今時、手書きなのか?」

 俺は逆モヒカンの男に右腕に巻き付けた腕時計のような端末を見せる。端末を介してやり取りした方が、手書きよりもずっと早い。文字は文化だ。文字を書き、伝えていくことは大事だろう。それはそれとして、便利なものがあるなら、それを使うべきだろう。


「ここでは手書きだけだ。早く、書いて……ん? なんだ、坊主? お兄ちゃんたちの付き添いか?」

 俺の言葉を聞き、顔を上げて俺の姿を見た逆モヒカンの男がそんなことを言っている。


「ぷっ、師匠、付き添いですの? ぷっ」

「ねーちゃん、ぷっ、笑ったら、師匠に、ぷぷ」

 俺の後ろでは馬鹿弟子二人が笑っている。


「何がおかしい?」

 俺は振り返る。


「あ、いえ、何もおかしくないであります」

「いやだって、面白いでしょ。師匠が子ども扱いされてるんですもの」

 そこには、俺の言葉を聞いて取り繕うように真面目な顔をするアイダと、それでも腹を抱えて笑っているイイダの姿があった。


 二人がクロウズになった日――あれから三年の月日が流れた。もう三年だ。月日が流れるのは早い。


 俺と変わらない見た目だった二人は大きく背を伸ばし、少年から青年へ、少女から女性へと変わろうとしている。


 俺は大きく、わざとらしく、ため息を吐く。見た目は大きくなったが中身は、まだまだ子ども(ガキ)だ。教育が必要だろう。そう、教育だ。


 俺はため息を吐きながら、名簿に自分の名前を書く。

「……わかったから、二人も名前を書け」

「は、はいであります」

「ぷ、はーい。わかりましたわ」

 俺に続いてアイダとイイダの二人も名簿に名前を書く。


「こっちの少年が、ガムあ、と……お? あんたら、噂のダブルドラゴンか!」

 逆モヒカンの男が驚きの声を上げる。

「えー、はい。えーっと、その、ダブルドラゴンって言われてるようですね」

「ふふん。そう呼ばれているのは、ふふん、不本意ですけど、ふふん、なんでドラゴンなんですの、なんで二人あわせて一緒くたにしての扱いなんですの、でも、ふふん、まぁ、二つ名がつくのは、ふふん、私たちも有名になったと、ふふん」

 逆モヒカンの歓声を聞いたアイダとイイダの二人は得意気な顔で、にまにまと笑っている。


「クロウズランクの30越えを最速に近い形で達成した二人が参加か。こりゃあ、助かるな」

 逆モヒカンの男はアイダとイイダの二人を見て喜んでいる。そして、その逆モヒカンが俺の方を見る。

「坊主、お兄ちゃん、お姉ちゃんの足を引っ張らないようにしっかりとついていくんだぞ。これは遊びじゃあないからな」

 そして、そんなことを言いだした。


 俺の後ろではアイダが吹き出しそうになるのを賢明に我慢し、イイダが歯を見せながら腹を抱えて笑っていた。


 俺は小さくため息を吐く。

「笑ってないで行くぞ」

「あ、はい」

「ええ」


 俺たちは会場に入る。


 ここはハルカナのオフィスにある普段はオークションが行なわれている場所だ。俺たちはお行儀良く、そこに用意された席に座り、待つ。


 俺たちの他にも多くのクロウズが座り、その時を待っている。


「師匠、お姉ちゃんの足を引っ張らないようにですわ」

 イイダは、こちらを見てまだゲラゲラと笑っていた。俺はその顔面に裏拳を叩きつける。

「もう! 危ないですわ」

 その俺の拳をイイダはしっかりと受け止め、防いでいた。

「はぁ、それで? 少しは静かにしていろ」

 俺の拳を防ぎ得意気なイイダを見てため息を吐く。

「そうだよ、ねーっちゃん。恥ずかしいから少し静かにしててよ」

「ふふん」

 アイダは大人しく席に座り、イイダは腕を組み、周囲を威圧するように座っている。


 ……。


 これはわざとだろう。


 二人の役割分担だ。


 姉であるイイダが舐められないように周囲を威圧する役だ。弟のアイダはそれで本当に争いが起きないよう抑える役をする。二人で決めて、そういう役をやっているのだろう。


「あ、師匠、説明が始まるみたいだよ」

「そのようだな」


 オークション会場に用意された舞台(ステージ)に一人の女が現れる。ずいぶんと若い女だ。クロウズたちの視線が、その若い女に集まる。


 威圧するような目、探るような目、(いぶか)しむ目――様々な目が女を見ている。心の弱い者であれば萎縮してしまいそうな雰囲気だ。


 だが、その若い女は、そんな視線なぞ無いかのように自信あふれる足取りで歩き、ステージの中央――壇上に立つ。


「お集まり頂きましたクロウズの皆様。お待たせしました。これからアースカーペンター討伐戦の作戦を説明します。その前に私の自己紹介を。私は今回の作戦を指揮させていただくことになりました、ロボと言います」

 そして、その妙に自信にあふれた女が口を開いた。

当初、章タイトルはダブルドラゴンの予定でした。ただ、そうするとダブルクロスでダブルドラゴン、ダブルダブルと似たような章題になるため、ドラゴンファンタジーという名前に変更しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 教育の成果! [一言] ドラゴンは姉弟の称号だったのか! ここまで成長するとは感慨深い。 もう商人の道には戻らないのかな? ダミー端末は腕時計型にしたんですね。分かりやすい。 そして恒例…
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