601 ドラゴンファンタジー23
「終わったってどういうことですの?」
「うーん、倒したってことじゃないかな?」
ハッチから顔を覗かせた二人は顔を見合わせ、そんなことを言っている。
俺はノーフェイスの死体を掴んだまま肩を竦め、ため息を吐く。
「やっぱり、私の一撃が決め手になったのですわ!」
「そうかなー? そうかな?」
二人は俺を無視して会話を続けている。俺は顔に手をあて首を横に振る。
「あれ? ねーちゃん、でもあれ見てよ」
「え? なに? 何かしら?」
二人がハッチから飛び降りて逆さ向きになって転がっているクルマの元へと駆け寄る。俺の存在や俺が引き摺っているノーフェイスはどうでも良いようだ。この二人、なかなかの大物だ。
「これ? 斬り裂かれてるよ」
「どういうことですの?」
「うーん、もしかして?」
アイダ少年がこちらを見る。
「わかりましたわ! クルマが手に入らないってことですわ!」
「いや、ねーちゃん、それもあるけどさー」
そこでイイダ少女は不機嫌そうに口を尖らせながらそっぽを向く。
「わかっていますわ。私たちがやったことが無駄だったってこと。それどころか、師匠の邪魔をしたかもしれないってことも……ですわ」
「あー、ねーちゃん、やっぱりわかってたんだ」
アイダ少年が楽しそうに笑っている。
俺はノーフェイスの死体を掴んだまま、二人が戻ってくるのを待つ。いつだって事態を最悪な方向へと変えるのは考え無し達の身勝手な行動だ。自分は違う、自分は正しい、自分なら許される。そういった思い込みが事態を悪い方向へと導く。そうだろう? だが、こいつらは違ったらしい。そういう奴らとは違ったらしい。
「師匠、どうするの?」
「師匠、どうするんですの?」
こちらへと駆け寄ってきた二人が聞いてくる。
さて、どうしようか。
オフィスに戻り、今回の不手際を問い詰めても良いが、ここのオフィスは信用が出来ない。どんな言い掛かりをつけられるかわかったものではないだろう。
……。
以前のオフィスの方が良かったかというと、それは違うだろう。難しいところだが、人を駒のようにしか見ていない人造人間や機械よりは、人として、人の立場からものを言う今の方が人には良いだろう。だが、それはそれで、自身を守ろうと平気で嘘を吐く身勝手な面倒さもあるのだが……。
今回はどうだろうな。
「師匠、怪我は大丈夫ですの?」
「あ! 再生薬? 師匠、副作用とか大丈夫系? 僕、アレ、苦手なんだよね」
二人は事態がわかっていないのか、それともわかった上でなのか、ずいぶんとのんきなものだ。
俺は二人を見る。
「そうだな」
「ん? どうしたの師匠?」
「どうしたんですの?」
二人はきょとんとした顔で首を傾げている。
この二人は俺の仲間だ。俺が一人で決めるのではなく、二人と相談するべきだろう。俺はこいつらの師匠で、保護者のようなものだ。だが、だからといって、俺が全てを決めて俺の思うとおりに進ませるのは違うだろう。
「さて、こいつは賞金首のノーフェイスだ」
俺は二人に見えるようにノーフェイスの死体を掲げる。
「え? ノーフェイス? 二人居たの?」
「これ、賞金が貰えるのかしら? どうなんですの?」
二人の反応は……のんきなものだ。
「オフィスに突き出した、このノーフェイスだったが、オフィスはまんまと取り逃がしてしまったようだ。オフィスから逃げだしたノーフェイスは俺たちに復讐するためにここで待ち構えていたらしい……それを踏まえて、二人はどうするべきだと思う? これは試験じゃあない。相談だ」
俺は二人に聞く。そう、これは二人に解答を求めている訳ではない。何かが正しい訳でもないだろう。ただ、どうするか決めたいだけだ。
「んー、逃がしたんですの? これはオフィスの怠慢ですわ。オフィスに文句を言うべきですわ」
イイダ少女は顎に人差し指をあて、そんなことを言っている。
「んー、僕は、あのクルマが直せないか興味があるかな。クルマがもう一台あったら便利だと思うんだよ」
アイダ少年はキラキラと目を輝かせて大破したクルマを見ている。
「クルマのエネルギー供給を絶つためにパンドラを斬った。再利用は無理だろう」
「ちぇ」
俺の言葉にアイダ少年はがっくりと肩を落としていた。出来ても部品取りくらいだろう。静音性に優れたエネルギータイプの砲はダークラットと相性が良いかもしれない。だが、ここでは、あまり目立たないようにダークラットを街の外に待機させていた。ダークラットの存在を表に出して砲の取り替え作業を依頼するのは……いや、今更か。
俺は二人が乗ってきたダークラットを見る。ここまで走ってきたのだ。街の住人にも見られているだろう。
……。
こうなるのであれば、最初からクルマ持ちだとオフィスに知らせておくべきだっただろうか。そうすれば、連中に舐められることはなかっただろう。
いや、今更か。今更だろう。
だが、信用が出来ないオフィスに手の内を見せるのはあまり気が進まない。
「オフィスに文句を言うのも良いが、取り合ってくれるかな?」
「なんでですの? オフィスが悪いのに、なんでですの?」
イイダ少女は納得が出来ないのか口を尖らせている。
「えーっと、それで師匠はどうするつもりなの?」
「そうですわ。師匠はどうするつもりなんですの?」
二人が聞いてくる。
「そうだな……とりあえず残り六匹。依頼を終わらせるのはどうだろうか?」
「えー」
「えー」
俺の言葉に二人はあからさまに不満そうな顔をしていた。




