599 ドラゴンファンタジー21
俺は目の前のクルマを見る。
目の前のクルマは大間抜けに主砲をこちらへと向けたままだ。その砲口が輝き、光りが照射される。俺は左腕の刃を振るい、その放たれたエネルギー弾を斬り分ける。
芸が無い。
先ほど、俺に効かなかったのがわからなかったのだろうか。それとも先ほど俺がエネルギー弾を斬り分けたのは何かの偶然か、見間違いだと思ったのだろうか。
再び、砲口が輝き、閃光とともにエネルギー弾が発射される。俺は大きくため息を吐きながら、放たれたエネルギー弾を斬る――いや、斬り終えていた。
「ん?」
目の前のクルマが風景に溶け込むように消えていく。どうやら先ほどの砲撃を目眩ましにして光学迷彩を発動させたようだ。
そして、クルマは消え、完全に見えなくなった。大きな戦車型のクルマ――その存在が消えている。
なるほど。少しは考えたようだ。
俺は目を閉じる。見えないのならば目に頼る必要は無い。
耳を澄ます。キュルキュルと無限軌道が動く音が聞こえる。だが、それは一ヶ所からだけではなかった。俺を取り囲むように至る所から音が聞こえている。
なるほど。少しは考えたようだ。
光学迷彩で姿は消せても音まで消すことは出来ない。それならば音は音で隠せば良い。木を隠すなら森の中、か。悪くない。悪くない作戦だろう。
閃光。
一瞬で放たれるエネルギーによる砲撃。光ったと思った瞬間にはエネルギー弾が放たれていた。
俺は見えないクルマから放たれたエネルギー弾を斬る。
……。
わかっていれば見えなくても斬ることくらいは可能だ。
どれだけ光学迷彩で姿を隠していても砲撃の瞬間だけは、その放たれる閃光が見える。だからといって、その閃光を見てから動いている訳では無い。さすがに、光の速さで飛んでくるものを――そんなものを見てから反応が出来るほど、俺は人間離れしていない。
では、どうやったのか。
答えの一つは音だ。
いくら、周囲から位置を誤魔化すような音が聞こえていたとしても、主砲の動作音までは隠しきれるものではない。そのために、静音性にすぐれるエネルギーを発射するタイプの主砲を搭載しているのだろう。だが、どれだけ静音性に優れていたとしても、そこに動きが加わる以上、完全な無音にすることは出来ない。聞こえるなら、ある程度は位置も攻撃の方向も、把握することが出来る。
そして、もう一つは勘だ。
勘というと、それを運任せのように考える者も居るようだが、それは大間違いだろう。勘は勘でも山勘ではない。経験から来る直感であり、考えるよりも早く反応するための無意識の識だ。第六感とも言われるものだ。それが俺に教えてくれる。俺を動かしてくれる。
そうやって、俺は反応し、放たれたエネルギー弾を斬った。
さて、姿を隠しての攻撃を防いだ訳だが、次はどうするつもりだろうか。大抵、こういう輩は、想定外の事態を、武器による性能や機械によるサポートだと自分の常識に当てはめて、何とかなるという根拠の無い希望で動いたりするものだが……。
そして、ノーフェイスのとった行動は……?
クルマによる突進だった。光学迷彩を解除し、こちらへと突っ込んでくる。俺をひき殺すつもりなのだろう。
なるほど。
俺は自身の体とノーフェイスのクルマを見比べる。生身の人の方が小回りは利く。だが、大きさで負け、速度でも負ける。一度や二度の突進は躱せるかもしれない。だが、何度もは無理だろう。
ならば、どうするか。
諦めてひき殺される? 確かに死なない体の俺なら、そうやってやり過ごすことも出来るだろう。
……。
このまま死んで、アイダ少年とイイダ少女に任せてみるのも一つの手だろうか。あの二人が何処までやれるか、成長を促す意味でも悪くないかもしれない。
……。
だが、だ。いくら死なない体だとは言え、そんな間抜けなことが出来るだろうか。俺は二人の師匠だ。情けない姿を見せるのはよろしくない。
であれば、やることは一つ。
クルマが突っ込んでくる。
俺は右腕と両足を部分的に人狼化させる。獣の腕と足。はち切れんばかりに太くなった両足で踏ん張り、毛深い豪腕でクルマの突進を待ち構える。
強い衝撃。
骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。
クルマの突進を止めることが出来ない。両足が地面を深く抉りながら後退させられる。
無理だ。
いくら人狼の爆発的な力を持ってしてもクルマを止めることは出来ない。
だが!
俺はクルマの排障器に手を入れる。そして、そのまま持ち上げる。突進を止めることは出来なくても、その力の方向を変えることは出来る。
ノーフェイスのクルマが俺を乗り越えるように持ち上がる。
……くっ。重い。
さすがに投げ飛ばすのは無理か。
だが、ここまで隣接すればクルマのシールドは役に立たない。刃を通すことが出来る。左腕の機械の腕に仕込んでいた刃をクルマの下から突き刺し、そのまま振り抜く。
このまま、クルマを斬るッ!




