596 ドラゴンファンタジー18
「師匠、何処に行くつもりなの?」
「何処に行くつもりですの?」
不安そうな顔をした二人が聞いてくる。
「さて。武器は手に入った。次はどうするかわかるよな?」
「ご飯?」
「お昼ご飯ですわ!」
「……そうだな」
俺たちは簡単な昼食を終え、現場に向かう。
「さて。次はどうするかわかるよな?」
俺は改めて二人に確認する。
「えーっと、武器が使いこなせるように……練習?」
「またですの? いつものトレーニングなら朝にやりましたわ」
二人はうんざりといった顔で答える。
惜しい正解だ。
「こんなこともあろうかとオフィスで地竜の駆除という依頼を受けておいた」
俺がそう告げると、二人はますます、うんざりといった顔になった。
「えー、ビーストの駆除? 師匠、そういうのはもっと武器に慣れてからじゃないの? この弓は試してみたいけど、使い方だってまだ良く分かってないのに」
「そうですわ。いきなり実戦なんておかしいですわ。いくら天才の私でも限度がありますのよ」
「それに、師匠、僕、聞いたことがあるよ。クロウズって体のことを考えて依頼は週一回しかやらないんだって。まだ昨日の疲れが残ってるのに、無理をしたら危ないんだよ」
二人は頬を膨らませ、不満を口にする。
「百コイル稼いだだけでどうするつもりだ? たったなんだろう? しかも、その百コイルは昨日の宿代と昼食で消えた。次はどうするつもりだ? 依頼は週に一回? そういうところもあるというだけだろう? それに、そういうところは、大抵、事前の準備が必要になる大きな依頼を受けての話だ」
この二人は手持ちが無いことを分かっていない。お金に苦労をしたことがないのだろう。何処からか無限に湧き出ていると思っている節がある。
「むぅ。師匠、でも、そんな駆除の依頼なんていつ受けたの? ずっと一緒に居たよね? 昨日、オフィスでそんな依頼受けてなかったと思うけど?」
「報酬はいくらですの?」
俺は二人の言葉にため息を吐き、肩を竦め、首を横に振る。
「報酬は百コイルだ」
「えー、またー? さすがに少なすぎるよ」
「そうですわ。たった百コイルの依頼だから、毎日依頼を受けないと駄目なんですわ。それにどうせ依頼を受けるなら、駆除なんて地味なものより、もっと派手に活躍が出来て、たくさん稼げるものが良いですわ」
「駆け出しのクロウズが派手に活躍が出来て稼げるような依頼を受けられると思うか?」
「私たちを誰だと思っているんですの」
イイダ少女がそんなことを言っている。
誰?
誰、か。
「駆け出しのクロウズだろう? それとも商会のお嬢ちゃん扱いをした方が良かったのか? 気が利かなくて悪かったな。だが、そうなると依頼を受ける側では無く、出す方になるだろう?」
「むぅ。実家は関係ありませんわ」
イイダ少女が口を尖らせる。
この二人、実家の商会ではなく、自分たちを見て貰いたいと思っている節がある。そうでありながら、実家の力を当たり前にアテにしている。それがこの二人の今までの当たり前だったからなのだろう。ずいぶんと中途半端で、ずいぶんと甘ちゃんだ。
「依頼をいつ受けたか、だったな?」
俺はアイダ少年を見る。
「え? あ、はい」
「通信端末を知っているか? 今は通信端末を経由して依頼を受けることも出来る。良い時代になったな」
「え? ええー、師匠、通信端末とか使えたの?」
アイダ少年が驚いている。驚くのは、そこか? 俺が通信端末を使えるということが余程、意外だったらしい。
「それで?」
「あー、えー、うー、いや、だって、師匠、通信端末を持っているように見えないから」
俺は大きなため息を吐く。偽装のために腕輪型などの通信端末らしい通信端末を用意しても良いかもしれない。
「とりあえず今回の依頼を説明する。今回の依頼は地竜の駆除だ。地竜は、この防壁の中に棲息する唯一のビーストらしい。防壁の中で繁殖して住民は非常に迷惑しているということだ。形は甲羅のある蜥蜴……見ればすぐにわかるらしい。地中に住み、作物を荒らす害獣だ。この街のクロウズの殆どが、この地竜の駆除に駆り出されている。そして、報酬は百コイルだ」
俺が依頼内容を説明すると二人は顔を見合わせ、ため息を吐いた。
「だから、なんで百コイルですの!」
「師匠、さすがに少なすぎるよ」
俺は二人のそんな様子にため息を吐く。
「依頼の達成のためには最低十匹の駆除が必要だ。十匹以上になった場合、それ以降は一匹駆除するごとに十五コイルが追加で貰えるだろう。良かったな、たくさん駆除すればそれだけたくさんコイルが稼げるぞ」
二人は最初と同じうんざりといった顔になっている。
疲れることはしたくないのだろう。
「師匠、この弓の矢って一本十コイルだったよね?」
「そうだな。もっと高い矢にした方が良かったか?」
「師匠、わざと言ってる?」
「私がやりますわ!」
防壁の中にある畑に到着する。地竜が現れやすい場所の一つだ。その畑では青々とした野菜が育てられており、そこでは円筒形のボディに車輪がくっついたロボットのようなものたちが一心不乱に水やりをしていた。
「ここだな」
「ここなの?」
「やりますわ! やってやってやりますわ!」
とりあえずクロスボウに矢を番えたアイダ少年と、鼻息の荒いイイダ少女が、目を凝らし、キョロキョロと畑を見回す。
そんな二人の前で一本の苗がズボッと地面に吸い込まれ、消えた。どうやら、そこに地竜が居るようだ。水やりをしていた円筒形たちが、そこから離れるように――逃げるように距離をとる。
「なるほど」
俺は小さく頷く。
「行きますわ!」
イイダ少女がマチェーテを振り回し、駆け出す。
そして、苗が吸い込まれた地面にマチェーテを突き刺す。
「やりましたわ!」
イイダ少女が地面に突き刺したマチェーテを一気に引き抜くと、その先端にはキイキイと喚く、小さな蜥蜴が刺さっていた。
そう、蜥蜴だ。蜥蜴にはマチェーテが刺さり、貫通している。
「これで一匹ですわ」
「意外と楽勝かも? あ! でも数が大変なのかな」
二人はのんびりとしたことを言っている。
もし、前情報通りに甲羅があれば、今のイイダ少女のように上から突き刺して貫通させるなんてことは出来なかっただろう。
事前の情報通り?
俺はため息を吐く。
「来るぞ」
俺の言葉に反応するように周囲の地面がボコボコと盛り上がる。
さて、ここからが本番だ。




