595 ドラゴンファンタジー17
さて、武器が決まった訳だが……。
俺は二人の方を見る。二人は店員の少年と仲良く話している。二人も商売人の家系だから話が合うのかもしれない。
だが、ここには友人を探しに来た訳ではない。武器を買いに来たのだろう?
俺は小さくため息を吐く。
「二人とも、これらの……武器の扱い方はわかるだろうか?」
雑談をしていた二人がこちらに振り返る。
「僕がこのナイフでズバッと切れば良いのかなー」
「ふふん。銃ではないようですけれど、飛び道具の扱いは任せて欲しいですわ。おほほほほ」
二人がこちらへと振り返り、そんなことを言っている。俺はとりあえず肩を竦めておく。
「逆だ。色々と逆だ」
俺の言葉に二人は驚いた顔をする。
「僕が飛び道具?」
「私が刃物ですの!」
俺は頷きを返す。
アイダ少年がクロスボウ、イイダ少女がマチェーテだ。二人の適性を考えれば、これがベストだろう。もちろん、相性や好みもあるだろうから、適性に合った武器が一概に良いとは言い切れない。だが、それでも試してみる価値はあるだろう。
アイダ少年がクロスボウを持ち、使い勝手を確認している。イイダ少女がマチェーテを握り、軽く振っている。とりあえず素直に俺の言葉に従ってはくれるようだ。
アイダ少年は店員の少年に使い方を聞き、レバーを握り、弦を引いている。そこに矢弾を装填し……、
「あ」
そして、アイダ少年の間抜けな声とともに矢弾が発射される。
こちらへと矢が飛んでくる。俺はその矢を掴む。
「はぁ、要練習だな。それともわざと狙ったのか?」
俺はアイダ少年に聞く。アイダ少年は怯えた表情で必死に首を横に振っている。俺は何度目になるかわからないため息を吐く。この二人の面倒を見始めてからため息が増えたような気がする。
「わかりましたわ! 矢で牽制して、私が突っ込んで斬るってことですわ」
マチェーテを振り回していたイイダ少女は何か秘訣のようなものを掴んだかのような顔でそんなことを言っている。
なるほど、素晴らしい作戦だ。牽制し、隙を突いて大きな一撃を叩き込む。戦術として正しいだろう。
だが、全て間違っている。
「そのマチェーテ程度でどうやって敵を斬るつもりだ?」
俺はイイダ少女が振り回していたマチェーテを二本の指で挟んで止める。
「な! どうやって? で、で、で、ででしたら、どうするつもりですの?」
イイダ少女は振り回していたマチェーテが止められたことに驚いている。筋力も技術も無い、ただ振り回しただけの刃物なんて、止められて当たり前だろう? 俺だけでなく、目や脳を強化しているヤツらならこの程度の芸当は簡単にやってのけるだろう。
「まずイイダ少女が突っ込み、牽制する。そのための技は俺が教える」
戦闘が始まっていようが、お構いなく寝ているような――そんな度胸がある少女なら適任だろう。次に俺はアイダ少年を見る。
「そして、アイダ少年が、そのクロスボウを使って敵の急所に致命的な一撃を与えろ」
クロスボウなら非力でも充分な威力が出せる。機関銃で器用に機械やビーストの急所を狙っていたアイダ少年なら使いこなせることだろう。さらに静音性の優れたクロスボウなら相手に気付かれず、一撃を叩き込めるはずだ。
「むー。言いたいことは分りましたわ。でも、その飛び道具だって威力が足りないのは同じですわ! 急所をガチガチに、こうガチガチと! 全て守っているような相手だったら? どうしますの? その矢程度では傷一つつけられないような相手ならどうするつもりですの?」
イイダ少女は自分が攻撃の主役では無く、サポート役に回されたことが不満なようだ。俺は肩を竦める。
「その時は逃げろ。勝てそうもない相手と戦う必要は無い。知恵と策でなんとか出来るのは物語の中だけだと思え」
「でも!」
イイダ少女はまだ不満なようだ。
「その逃げるための技術も教える。クルマでしか倒せないような相手に生身で戦いを挑めるのは――そんなのは一部の飛び抜けた達人か狂人だけだ」
そう、そんなことが出来るのは……限られた人間だけだ。
普通の人は刀一本でなんでも斬ってしまうようなことは出来ない。
たった一つしか無い限られた命を無駄にすることは無い。
「僕が、僕が倒すんだよね?」
アイダ少年がクロスボウを握り、俺を見る。
「そうだ」
「そして、倒せないようなら逃げる。逃げるだけの時間を稼ぐのも僕の役目?」
「そうだ」
俺は店員の少年を見る。
「追加の矢を頼む。それとこれも。後は矢を入れる矢筒だな」
俺は机の上に浮かび上がっていたカタログから矢を選ぶ。
「わかりました。全部で九千とんで百二十コイル……と言いたいところですが、今回は色々ありましたのでお詫びも含めましてご予算通りのぴったり八千コイルにいたします」
店員の少年がこちらを見てニコリと微笑む。
約一割引か。
まぁ、こんなものだろう。
「わかった」
俺は右目を操作して、入金を済ませる。
さて。
俺は真新しい武器を持った二人を見る。
次は実戦だな。
実戦こそが一番の学びだろう。




