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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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592 ドラゴンファンタジー14

 俺はテントを漁り、そこから適当な紐を見つける。


「んー、なぁにぃ?」

 俺がガサゴソと漁っていたからか、イイダ少女が目覚めたようだ。

「やっとお目覚めか」

「ん? へ? なんですの?」

 俺の言葉で完全に目が覚めたのかイイダ少女が跳ね起きる。

「襲撃があった」

 俺は目覚めたイイダ少女に告げる。

「あった? なんだ、もう終わりですの」

 イイダ少女はそう言うと再び寝ようと横になる。

「寝るな。仕事をしろ」

 俺は無理矢理イイダ少女を起こす。イイダ少女は獣のように自分の体の匂い嗅ぎ、顔をしかめていた。

「体を綺麗にしたいですわ」

「後だな」

「ふあぁ、それじゃあ、もう一眠りしますわ」

 イイダ少女はそのまま再び横になる。働く気は無いようだ。


 俺は大きくため息を吐き、テントから出る。


 俺は見つけた紐で転がっている男を縛る。身動きを封じるには心許ないが無いよりはマシだろう。


「お前は近寄るな」

 そして俺はアイダ少年にそう告げる。

「えー、なんで?」

 アイダ少年には近寄ったら駄目な理由がわからないようだ。俺は肩を竦める。


「それよりも今は少し休んだらどうだ?」

「え?」

 アイダ少年が首を傾げている。


「まだ仕事は終わっていないだろう? 休息も必要だ」

「あー、そう言えば、あのじーちゃんが戻って来るまでが仕事だったねー。でも、休んで良いの?」

 アイダ少年は俺の言葉に何か裏があるのではないだろうか、と疑っているようだ。


「自分の状態をよく見ろ。手が震えているだろう」

 俺の言葉にアイダ少年がハッとした様子で自身の手を見る。その手はぶるぶると震えていた。戦闘による緊張もあるのだろうが、それよりも貧弱なのが一番の原因だろう。

「えーっと、師匠、これ」

 アイダ少年はぷるぷると震えている手を俺に見せる。見なくてもわかる。


「振動する大型の機関銃を抑え、動かすには少し筋肉が足りなかったな。少しは体を鍛えた方が良いという意味がわかっただろう?」

「はぁ、わかりましたよー。でもでもだよー、師匠、その人、大丈夫なの?」

 アイダ少年の興味は未だ転がっている男にあるようだ。俺はアイダ少年を手で追い払う。


 そのまま紐で縛った男の横に座り、外壁の向こうを見る。ビーストや機械(マシーン)の死骸残骸が散らばっている。全て沈黙している。動いている影は無い。数は多かったが雑魚ばかりで助かった、というところだろうか。いや、追い立てられ、逃げていた程度の奴らなのだから、雑魚で当然か。


 俺は右のこめかみを軽く叩き、ダークラットを遠隔操作する。ダークラットを動かし、この場から逃がす。この場に無人のクルマが残っているのは悪目立ちするだけだろう。それこそ、奪って自分のものにしようという馬鹿が現れてもおかしくない。


 俺は何処までも続く砂の大地を眺める。


 そして、しばらくして老人が帰ってくる。

「ひぃ、おいおいおいおい、なんじゃこりゃあ」

 老人は外壁の向こう側の光景を見て驚いている。

「運が良かったな」

 俺は老人に話しかける。

「何を言うとる?」

 老人は俺の言っている言葉の意味がわからないようだ。


 俺たちが居なければ、老人が一人で対処しなければならなかったはずだ。備え付けられている機関銃だけではとても対処が出来たとは思えない。もしかすると、何か奥の手のようなものがあったのかもしれないが、それでもそれを使わずに済んだのだから、運が良かったことには間違いないだろう。


「いや、なんでも無い。ところで、あんたはこいつを知っているか?」

 俺は老人に紐で縛った男を見せる。

「おいおいおいおい、そいつは! ……誰だ。知り合いかー?」

 俺は老人の言葉に肩を竦める。

「まぁいいさ。テントの中のものはありがたく使わせて貰った。これで仕事は終わりだな? オフィスに依頼完了の報告に行ってくるよ」

 俺はテントで休んでいた二人をたたき起し、オフィスへと向かう。


「おー、なんか餓鬼が帰ってきたぞ」

「餓鬼が三人に見えるぞ。酔ったかな」

「なんか連れてるぞー」

 酔っ払い連中は好き勝手なことを言っている。俺たちはそんな酔っ払いを無視してカウンターに向かう。


「依頼を終えてきた。それとこいつだが」

 俺は紐で縛った男をカウンターに突っ込ませる。

「そ、その人は!」

 窓口の女がわざとらしく驚いている。

「クロウズの試験官を名乗っていた男だ」

「し、師匠、大丈夫なの? あ、これを」

 アイダ少年が恐る恐るという感じで男から奪い取ったドッグタグをカウンターに乗せる。


「精算を頼む。防壁を守る途中で襲ってきたビーストや機械(マシーン)を倒せばボーナスが出るんだろう?」

「えーっと、精算するには、少し時間がかかりまして……まずは確認が、必要で」

 窓口の女の言葉に俺は首を横に振る。

「それで?」

 俺はカウンターに肘をのせ、身を乗り出す。


「師匠、どうするんだよー」

「私は早く宿に行きたいですわ」

 俺はため息を吐き、後ろの二人の言葉を無視する。


「見ていたんだろう?」

 俺はこの窓口で受け取ったタグを指で弾く。

「ま、待ってください。すぐに確認します」

 窓口の女がカウンターの下にあるであろう、通信機を操作する。


「確認が出来ました。その男は賞金首のノーフェイス。賞金額は一万コイル。結構な大物ですよ! 臨時ボーナスの討伐数は……あれ? おかしいです。数が合いません」

 俺は大きくため息を吐く。このドッグタグを通じて情報を得ていたと思っていたが、はっきりとわかるほどの精度で得られた訳ではないようだ。ダークラットの倒した分が計上されていないのだろう。レーダーか何かで確認した襲撃してきた数、動かなくなった数、それらと討伐数が合わないのだろう。


「そいつの賞金額の一万コイルと百コイルで構わない。口座は……タグの方に入金してくれ」

「わ、わかりました」

 俺は大きくため息を吐きながら、コイルが入金されたのを確認する。


「師匠、師匠、今回、たまたまこのおっさんが悪い人だったけど、本当に試験官だったらどうするつもりだったの?」

 アイダ少年はまだのんきにそんなことを言っている。

「それはそれで構わないと言っただろう?」

「むぅ」

 アイダ少年は納得が出来ないのか口を尖らせている。何も言うことが無い俺は肩を竦める。


「師匠、報酬を独り占めなんてずるいですわ!」

 イイダ少女はそんなことを言っている。

「お前は寝ていただろう?」

「でもでも、仲間ですわ」

 俺は大きくため息を吐く。

「そうだな。今日の宿代はここから出してやるよ。それとこのコイルでお前たち二人の武器を買う」

「あ! それなら僕は超強力なのがいいなぁ。シュパッと光ってシュパッと敵を殲滅するようなの!」

「私は鬼婆が持っていたような拳銃が良いですわ。バンバン、撃ち殺しますわ」

 二人が俺に縋り付くような勢いで乗り出してくる。


 俺は何度目かになるかわからないため息を吐き、二人を連れてオフィスを後にする。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先は長い! [一言] マップヘッドのオフィスは全体に質が悪いなー。シツかタチかは置いといて。 なんにしても賞金で臨時ボーナスなのだった。儲けたぜ。 今のとこ姉よりは弟のほうが見込みがある…
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