587 ドラゴンファンタジー09
「それで? どうする?」
俺は左腕の機械の腕から引き出した刃で二人を縛っていた紐を切断し、自由にする。
俺は二人の選択を尊重する。それが自殺に近いものだろうと、だ。これで逃げるのなら、それはそれで構わない。
自由になった二人は顔を見合わせ、頷き合っている。
「はぁ、やっと動けた。あいたたた。うわ、跡がついてるよ。えーっと、ガム君って呼んだら不味いよね。師匠って呼んだら良いのかなー?」
「ふん、とりあえずは従いますわ」
そして、二人はそう言った。
「そうか。分かった。俺のことは好きに呼べば良いだろう」
俺は二人に手を伸ばし、二人を起き上がらせる。俺を利用し、力を得れば良い。それも二人の選択だ。
「ねー、壁に……痛くなかったの? すっごいバリア装置みたいなの隠し持ってるの? さっきの凄かったよね。ズバッとやってスパッとずばばばーんって感じだった? アレ、僕も出来るようになる?」
アイダ少年が手を振り回し、楽しそうに聞いてくる。質問攻めだ。
「それは、お前次第だろう」
俺はアイダ少年にそう言いながら右目に手を当てる。返答が面倒になった訳では無い。
「その力、その左腕……私たちを機械化するつもりですの?」
イイダ少女が不機嫌そうな顔でそう聞いてくる。どうやらイイダ少女は俺の力を機械によるものだと思ったようだ。そして、俺が二人に望んでいるのも同じようになることだと思ったのかもしれない。
「言ったろう。俺はお前たちを鍛え直すと」
俺は首を横に振る。機械化は手っ取り早く強くなれる。それも一つの選択だろう。お金はかかるが、掛けただけ強くなれる。実家が金持ちである、この二人の選択としては、それも有りだろう。だが、俺はそれを選ばせたくない。この二人は生身だ。この二人の実家なら、簡単に、最高級品を取りそろえて機械化も出来たはずだ。だが、生身だ。それはこの二人の祖父母が、両親が、そうして欲しくないと望み、この二人がそれを納得しているからだろう。
「俺はこの左腕以外、生身だ。機械化はコイルがあるなら出来る手軽な強化方法だろう。だが、俺がお前たち二人に教えるのは、生身での戦い方、生き方だ」
「ふーん。実家からいくら貰ったのか知りませんが、とりあえず! 師匠、あなたに従いますわ。おほほほほ」
イイダ少女がヤケクソのように笑っている。
そんな和やかな話し合いをしている中、大きな爆発が起こる。
そう爆発だ。
「何、なに、なーに? 大きな音がしたよー。って、火? 爆発?」
「な、な、な、なんなんですのー?」
アイダ少年が火の手が上がる方を興味津々といった顔で見ている。イイダ少女の方はヤケクソのように笑っていた顔を引き攣らせていた。
「何、か。今日、たった今、このレイクタウンから飲食店が一つ消えただけだ」
俺は善意には善意を、好意には好意を、悪意には悪意を返す。先ほどの爆発はそれを徹底した結果だ。
「ふーん。ねえねえ、師匠って何歳なの? 全身を機械化して若作りしてるのかと思ったけど、生身だって言うし、でも、同い年くらいにしか見えないし、うーん」
アイダ少年は首を傾げている。
「きっとアレですわ。若返り薬! アポトーシス抗体がどうのとか、そんな感じのことを聞いたことがありますわ。本家の取り扱っている商品にあったかしら? もしかして、それが報酬?」
わいわいと楽しそうに話している二人。俺はただ肩を竦める。
そして、そんな二人の会話を中断させるようにそれがやって来る。
「師匠、クルマだ! こっちにクルマが来てる! 不味い、不味いよ!」
「逃げるんですわ。早く逃げないと! いくら師匠が強くても! 生身ではクルマに勝てませんわ」
こちらに迫るクルマに気付いた二人が俺を引っ張る。
「大丈夫だ。アレは俺のクルマだ」
やって来たのは全身黒塗りの小ぶりなクルマ――ダークラットだ。かつてはオウカのクルマだったそれは――今は俺のクルマだ。
「え? 師匠のクルマ? 師匠ってクルマを持ってるの! 凄い! 格好いい!」
アイダ少年は飛び跳ねんばかりに大喜びだ。
「クルマ? クルマ……う、羨ましくなんてないんですわ。私だって、あの鬼婆のクルマを、私が鬼婆のクルマを引き継ぐんですもの!」
イイダ少女はそんなことを言っている。
俺は苦笑し、肩を竦める。
「急いで乗り込んでくれ。この騒ぎでレイクタウンの連中が、すぐにでもここにやって来るだろう」
「乗って良いの?」
「クルマですわ、クルマ!」
俺はダークラットのハッチを開け、二人を急がせる。
「少し狭いが我慢してくれよ」
アイダ少年とイイダ少女がダークラットに乗り込む。そして、俺も乗り込む。
「うわぁ、本当に狭いよ!」
「ふふん、私はここですわ」
ちゃっかりと運転席に座ろうとしていたイイダ少女の首根っこを捕まえ、そこから離し、俺は運転席に座る。
「行くぞ」
俺はダークラットを発進させる。
すぐにレイクタウンの守備隊がやって来るだろう。
戦うにはまだ早い。
今はとにかくマップヘッドへと向かうべきだ。
まずはそれからだ。




