584 ドラゴンファンタジー06
俺は担いでいる二人を見る。
この二人……今は悪いところしか見えない。ぬくぬくと育ったであろうことからくる甘え、無意識、無自覚だろう自己中心的な考え、借り物の力への依存――悪いところばかりだろう。だが、可能性の塊でもある。この二人には、これから先、無限の可能性が待っている。俺が関わればどんどんと変わっていくだろう。プラスにせよ、マイナスにせよ、だ。それが、こいつらにとって良いことなのか、悪いことなのか……。
これから先、こいつらがどうなるか? 少し楽しみではある。
「なーにー?」
「なんですの?」
俺がじーっと見ていることに気付いたのか、二人は縛られた状態でのんきにそんなことを言っている。
さて、と。
黒服たちを蹴散らし、俺たちは屋敷の外に出る。通りに出てしまえば、後は、なんとでもなる。
屋敷の外へ。
そして、誰も居ない前庭を抜け、通りに出る。
「……」
と、そこで俺は思わず足を止める。そこには先ほどと同じ黒いスーツに身を包み、サングラスをかけた奴らが居た。男か女かも分からない無個性な三人だ。
反応が――無かった?
俺がこの三人を見逃していた? 俺は周囲をスキャンし、動くものを光点として感知していた。確かに屋敷の外、通りに人は居た。だが、この三人は居なかった。今、この俺自身の目で見て、初めて感知することが出来た。
屋敷の中に居た格好だけの連中とはレベルが違う。
「何? こいつら?」
「なんですの? なんで止まりますの?」
俺が急に足を止めた理由が分からないのか、担いだ二人が不安そうな顔で俺を見ている。
不味いな。
この二人を担いだままやり過ごせるような奴らでは無さそうだ。
俺は右目に手を伸ばす。
「おーっと、それは待って欲しい」
そう言いながら、三人の黒服の後ろから現れたのは、上等な服を着た小太りな男だった。
こいつ、突如、そこに現れたかのような――またしても感知が出来なかった。俺はこの小太りな男が居ることに気付けなかった。
何者か。
何者か、か。
この男が何者かは分かっている。
俺は知っている。
「久しぶりだな」
俺は突如、存在を表した小太りな男に声をかける。
小太りな男がニヤリと笑う。それに反応するように黒服の一人が懐に手を入れる。
「ひ」
「あ」
それに気付いた担いでる二人が小さな悲鳴を上げる。銃でも取り出すと思ったのだろう。
黒服が取りだしたのは一本の葉巻だった。黒服は葉巻の先端をカットし、火を点ける。小太りな男は黒服が取りだしたその葉巻を口に咥え、ゆっくりと煙を燻らせる。
「天然物は良い。この、体に悪いところが実に最高だ。依存性の少ないものも、体に残らない電子系のものもあるが、この天然のものが一番だ。これこそが贅沢だ」
「そうか、それで? そんなことを言いに出てきたのか? お前は、あの金ピカ屋敷の中で震えているかと思ったが、どんな心境の変化だ?」
小太りな男は葉巻を燻らせながら肩を竦める。
「久しぶりに会った友に酷いことを言う」
「そうか、それで?」
俺は小太りな男と話しながら周囲の状況を確認する。屋敷の方から追っ手が来ることは無さそうだ。ここには、この小太りな男と三人の黒服の姿しか見えない。
「あわわわ、この人、煙を食ってるよ」
「食べ物? 不味そうですわ」
担いだ二人は状況が分からないのかのんきなものだ。
俺は小さくため息を吐きながら通りを見る。
こいつら四人だけ?
貴族街の通りに人の姿が無い?
いつの間にか人の気配が消えている。
普通ではあり得ない。
こいつが人払いをしたのだろう。
どんな手を使ったのか――俺が屋敷を出るまでの短期間でやってのけたのだ。強引で手段を選ばないやり方だろう。
「誤解だ。そう、誤解だ。ささいな誤解だよ」
「そうか、それで?」
俺の言葉に小太りな男は首を横に振り、大きなため息を吐く。
「ガム、お前とのことは、俺は悲しいすれ違いだと思っている。あれはワルイーネが勝手に始めたことだ。あー、そうだな。部下のせいにだけするのは良くない。俺の管理の問題もあるだろうからな。だがな、ガム、もう満足しただろ? 一人で都市と戦い続けるつもりか? そろそろ手打ちにしようじゃあないか」
「トビオ……」
俺は改めて小太りな男を見る。
懐かしい顔だ。
俺はこいつが餓鬼の頃から知っている。
この街でブマットを売っていた少年だった。
そして、シーズカを助け出すためにアクシードと戦った男でもある。
「おっと、その名前は止めてくれ。もう捨てた名だ。今はゴールドマンと呼ばれている」
小太りな男はそう名乗る。
「そうか、ゴールドマン。お前は俺の性格を知っているだろう?」
「ああ、よく知ってるさ。まさか、その二人を助けるために正義感に目覚めたワケじゃあないだろ?」
「それで? ここのお粗末な連中はお前の仕業か?」
俺は先ほどまで囚われていた屋敷の方へ顎をしゃくる。
「すまんなぁ。それで怒っているのか? 小遣い稼ぎを任せたつもりが、どうも良くない。下のヤツらは勝手なことばかりしてな。俺も困っている。ガワを良くしても中身が腐ったままじゃあ駄目だな。高い装備を揃えてやったのに、それでやることが餓鬼の誘拐だ。その高い装備があれば簡単にできると思ったんだろうが、こいつらは分かってねぇ。その誘拐の身代金とやらでせびる金よりも、こいつらの装備の方が高いってことにな! まぁ、お詫びじゃあないが、後始末は任せてくれ。俺のところの問題でもある」
「そうか、それで?」
俺の言葉に小太りな男が片方の目を細める。
「ガム、まだ何かあるのか?」
「ゴールドマン、俺をよく知っていると言ったな。俺もそう思っていた。お前は俺を知っている? だが、どうやらそれは俺の勘違いだったようだ」
「ガム、何が言いたい?」
俺は肩を竦める。
どうやら徹底的にやる必要があるようだ。




