582 ドラゴンファンタジー04
「さて、行くか」
俺は二人の方へ歩く。
「すごい! すごいよ! ガム君すごいよ! どうやったの?」
紐で縛られ自由に身動きが取れない少年が大喜びだ。
「ふん、少しはやるようですわね。おほほほ」
少女の方は驚きながらも、それを誤魔化すように高笑いをしている。
……。
俺は周囲に人が居ないことを分かっている。だが、この二人は分かっていないはずだ。そんな中で強がっているだけとはいえ、大きな声で騒ぐのはいただけない。この二人の評価をさらにマイナスにする。だが、まだ子どもだ。改善は出来るだろう。
俺はため息を吐き、
「早くこの紐を解いてよー」
「おほほほほ」
騒いでいる二人をひとまとめにして担ぐ。
「暴れたら投げ捨てる。助けてやるから静かにしていろ」
俺は威圧するように目に力を込め、二人を睨み付ける。二人はうっと小さく呻き静かになった。
二人を担いだまま部屋の外に出る。
すでにこの建物の構造は把握している。
廊下を駆け抜ける。ここに誰も居ないことは、すでに知っている。
廊下を駆け抜け、階段を上がる。
「な? 誰が……」
そこを見張っていた男に回し蹴りを放つ。見張りの男は、目が飛び出るほどの苦悶の表情を浮かべ、その場に崩れ落ちる。
「見えたか? これが回し蹴りだ」
俺は二人に説明する。
「かっこいいねー、すごいねー」
「それがなんなの?」
アイダ少年は先ほどの俺の威圧を忘れたかのように喜び、イイダ少女は威圧されていたことを根に持っているのか口を尖らせている。
「技だ。これから、お前たちに戦い方を教える」
俺は二人に話しかけながら、迫る光点を確認する。音を立てないように気を付けたつもりだったが、どうやら気付かれてしまったようだ。
「なんだ? 餓鬼が来たぞ」
「餓鬼だと?」
「例の奴か? 閉じ込めてたんじゃないのか?」
「身代金の方と賞金首の方、どっちだ?」
「どうやって抜け出したんだ? 下の奴らはどうしている」
それなりに高そうなパリッとした黒い服の男たちが、一つしかない扉からゾロゾロと現れる。数が多い。
「ちょっとちょっと、凄い現れたんですけどー。現れましたわ!」
「あわわわ、ガム君、どうするの?」
肩に担いだアイダ少年とイイダ少女が騒いでいる。
「少し黙っていろ。そして、よく見ろ」
俺は駆ける。
「わー」
「うー」
現れた黒服たちへと踏み込む。担いだ二人が騒いでいるが無視する。
身を屈めるように踏み込み、そのまま黒服たちの足を払う。黒服たちがすってんころりんと転がる。こちらを取り囲もうとしている黒服たちを、道を開けるように蹴り飛ばす。
「この餓鬼!」
「こいつ、やるぞ!」
「距離をとれ」
「この銃で」
「馬鹿、餓鬼を殺すつもりか」
黒服たちは混乱している。
「銃だよー! 銃で狙われてる!」
「あれを奪えば……」
担いだ二人は元気一杯だ。
にしても、上等そうな服を着た連中か。こいつらは雇われなのだろうが、だとしても、だ。その数が多い。貴族街にある大きな建物に、上等な服、人数。そんな連中の目的が俺の賞金と、この二人の身代金だと? 金に困っているのだろうか? そうは見えない。
ずいぶんとちぐはぐな連中だ。
こちらを囲もうとしている連中を蹴り飛ばし、駆け抜ける。
「こ、こいつッ!」
黒服の一人が銃を取り出す。そして、その引き金を引く。
ちっ。
俺は担いでいた二人を軽く上へと放り投げる。
「わ!」
「何するの!」
機械の腕で銃弾を弾く。
そのまま銃を持った相手へと駆け、踏み込み、掌打を叩き込む。適度に黒服を蹴散らし、落ちてきた二人を担ぎ直す。
出口を目指し、走る。
「ねぇ、なんで銃を奪わないの?」
イイダ少女が話しかけてくる。
「必要なら使う。奪わないのは不要だからだ。お前たちに戦い方を見せるためという理由もある」
「すごいよねー。技? びゅーっとなってばーんってすごいよ」
アイダ少年が劇でも見ている気分で楽しそうに喋っている。
俺はその言葉に、態度に、ため息を吐く。
「お前らに覚えて貰う技だ。しっかりと見ていろ」
「はぁ? ガムと言ったかしら。なんのつもりですの?」
イイダ少女は口を尖らせてキーキーと喚いている。
「お前らを自分の力で自分の身が守れるようになる程度には鍛え直してやると言っている。喜べ。その甘えきった根性も修正してやる」
「はぁ? 何様のつもりですの。私が誰だか分かっているのかしら」
「さあな。それで?」
「だいたい鍛え直すってどういうことですの」
「言葉通りだ」
「戦うなら強い武器を持てば良いのですわ。身を守るならシールドを使えば良いのですわ」
「だよねー。鍛えるって良く分かんない。機械化したら駄目なの?」
イイダ少女とアイダ少年がそんなことを言っている。俺はため息が出そうになる。
「それで? 二人はどうして捕まった? ご立派な武器とシールドは無かったのか?」
「そ、それは……仕方なかったのですわ」
「だよー。食事に毒を入れるとか卑怯だよね。ひきょーな手を使ったんだもん、仕方ないよー」
俺は我慢出来ず、大きなため息を吐く。
「そうか。それで? 卑怯? その卑怯な手とやらで命を落としてもそんな舐めたことが言えるのか? あー、死んだら喋れないか。死人に口なし、だな」
「はぁ? あんただって……あなたも同じように捕まっていたのでは? おほほほ」
「あー、そうだよねー。ガム君も引っ掛かってたじゃん。偉そうなこと言えないんだよー」
俺はもう一度、ため息を吐く。
「それで?」
あの二人が危惧するのも分かる。
ついでと引き受けた依頼だったが、少々、面倒なことになりそうだ。
これはやられたかもしれない。
あの二人、商人だけあって、抜け目ない。歳を取って、ますますずる賢くなったのではないだろうか。
あの二人――こういうのを老獪というのだろう。




