表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/727

058 クロウズ試験25――手段

 再び大きな揺れが起こり、天井の照明が明滅する。急いだ方が良い。


 周囲を見回し、警戒しながら走る。マシーンやビーストの姿はない。地面が揺れ、今にも天井が崩れ落ちそうなことを除けば静かなものだ。静寂に包まれている訳ではないが、うるさく面倒な敵が居ないのは助かる。


 走る。


 向かうのは蟹もどきたちが逃げていった先だ。この振動の原因、それが起こっているのはモグラたちが現れた場所ではないだろう。あちらは行き止まりだ。爆発する竹が生えてはいる……だが、この規模――あの竹が建物を揺らすほどの爆発が起こせるとは思えない。


 俺は走りながら天井を見る。天井に取り付けられた照明が点灯している。そうだ、点灯している。ここは廃工場(・・・)だろう? そう、棄てられた工場だ。なのに電気が来ている? 工場(・・)? なんの工場だ? 何を作っていた工場だ?


 また大きく揺れる。何か大きなものが動いている。


 ここは工場だ。そうだ。未だ動いている工場だった。何を作っている? いや、何を作った?


 走る。


 揺れる。また大きく揺れた。


 そして、その大きな揺れによって道を塞いでいた砂の壁が崩れ、その奥に隠されていた搬入用と思われるエレベーターが姿を見せた。


 エレベーター?


 資材などを運ぶ用のエレベーターだ。こちらのエレベーターは新人(ニュービー)殺し(キラー)が壊した(であろう)ものと違い、まだ動いているようだ。


 さて、どうする?


 このエレベーターは砂に埋もれ隠れていた。蟹もどきや観音戦車が使っているルートではないだろう。だが、そいつらが集まっている場所、生産されている場所に繋がっているかもしれない。今の俺は武器を持っていない。この階層に武器が転がっていないか走りながら確認していたが、見つけることは出来なかった。何処かに隠されているのだろう。だが、それを探している余裕はない。武器がない状況で正面から殴り込むのは危険だ。裏から回り込めれば、敵との接触を減らせるかもしれない。しかし、このエレベーターがそこに繋がっている保証は無い。もし見当違いの場所に繋がっていたら……?


 砂に隠されていたエレベーター。


 どうする?


 俺が考え、迷っていたのは一瞬だったはずだ。だが、それが命運を分けた。


 目の前のエレベーターがはじけ飛び、床が崩れた。そう、崩れた。一瞬だった。


 エレベーターに乗っていたら危なかった、このまま進んでいたら危なかっただろう。


 そして、その崩れた場所からそれが現れる。


 まず姿を見せたのは逆さ向きになった観音像だった。その観音像に何かが繋がっている。その繋がっているものも観音像だった。そう、観音像。あの戦車の上部分、土台の上に乗っていたものだ。


 それが繋がっている。


 観音像……だと?


 再び、大きく揺れ、その巨体が、上半身が迫り上がってくる。それは観音像を部品として無理矢理巨大な人型に押し込めたような存在だった。


 顔部分になっている観音像と観音像の継ぎ目が口のように開き、大きな咆哮を発する。空気が震える。


 こいつが振動の原因。


 馬鹿げたシロモノだ。


 その巨体が、崩れた床から這い上がろうとしているのか、腕のように連なった観音像を振り回す。それだけで建物が大きく揺れ、天井が崩れる。

 俺は慌てて後退する。


 武器は持っていないようだ。だが、この巨体が動いているだけで今の俺には脅威だ。


 ……。


 俺は奥の手である人狼化を使って何とかするつもりだった。だが……そう、だが、だ。この観音像が連なって作られた巨大な人型機械を見て、その考えを捨てる。無理だ。人狼化による筋力の増加でどうにかなるようなレベルじゃない。爪も金属ボディの前には弾かれてしまうだろう。


 打つ手がない。


 ただ馬鹿みたいに大きい。それだけで手が出せない。


 こいつは無理だ。


 今回の試験はリタイアするか? それも有りだろう。今回の試験、フールーの言葉が確かなら通常よりも難易度が高いものになっている。それが意味するのは……仕組まれた、か。俺を狙って仕組まれたもののような気がする。自意識過剰なうぬぼれなのかもしれないが、接触した、あのオフィスのマスター――オーツーの話しぶりだと間違いないような気がする。


 となれば、今回を逃げたところで、次も似たような難易度になっている可能性は高い。


『ふふん』

 セラフの得意気な笑い声が頭の中に響く。

『セラフ、か』

 こいつならどうなのだろう。セラフに頼ろうした訳ではない。だが、少し考えてしまう。あの衛星からの一撃なら、なんとか出来るのではないだろうか。


『ふん、建物内ではグングニルは使えないから』

 グングニル。衛星からの攻撃――しかし、そのためにはこいつを地上まで引っ張り出す必要がある、か。


『セラフでもお手上げということか』

『ふふん。私なら支配を奪って……って、何、こいつ! 命令が……スタンドアローン? 違う、ただ動いているだけって』

 セラフが頭の中で喚いている。どうやら、こいつでもどうにか出来ないようだ。


『はぁ? これが原始的過ぎるだけだから』

 分かった。セラフが役に立たないことが分かった。ああ、期待していなかったから大丈夫だ。

『はぁ!』


 さて、どうする。


 単純なものが一番恐ろしい。


 本当に打つ手がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こいつぁ難敵だぜ! [一言] うわあキング観音だあー……レイドボス来ちゃった感。 デカくて硬いのは厳しい。 ただでさえ火力足りてないし、セラフは(いつも通り)使えないのに。 ていうか、こ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ