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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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579 ドラゴンファンタジー01

「駄目だ! 駄目だ、駄目だ、駄目だッ!」

 店内に店主の大きな声が響き渡る。

「コイルなら支払う」

 一万コイルとなる単一乾電池を取り出し、店主に見せる。だが、店主の対応は変わらない。


「駄目だ、駄目だ、駄目だッ! うちはな、ゴールドしか扱ってない。コイルだと? 駄目だ、駄目だ、駄目だ」

「ゴールド?」

 思わず聞き返す。

「これだ! ゴールドマンさんのゴールドマン紙幣だ。見たこと無いのか?」

 店主が一枚の紙を取り出し、見せびらかすようにぴらぴらと振っている。その紙を見る。そこには何処か見覚えのある葉巻を咥えた小太りの男の横顔が描かれていた。


「とにかく、ここはゴールド専用だ。コイルが使いたいなら、何処かで両替してくるんだな。分かったか? まったくお前のような輩が……ん? ちょっと待て、お前、何処かで……」

 店主が何かに気付いたようにこちらを見る。そして、店内に貼られている紙を見る。そして、こちらを見る。何度か繰り返し、わなわなと震え出す。

「お、お、お、お、お、お前ッ!」

 そして大きな声で叫ぶ。店内の他の客が一斉にこちらへと振り返るほどの大きな声だった。


「お、お前、ま、ま、ま、まさか、まさか、そのフードをとれ!」

 店主がこちらを指差して叫ぶ中、フードを深くかぶり直し逃げるように、その店を出る。


「不味いな。指名手配でもされているのか?」

 そう呟きながら次の店へと向かう。


 だが、何処も同じ対応だった。


 コイルが使えない。ゴールドマン紙幣とやらが必要なようだった。


 しばらく逃げ隠れするように歩き回り、一つの寂れた店を見つける。ここならば、とその店に入る。


「すまない、何か食べるものを売ってくれ。ああ、そうだ。ここではコイルが使えるだろうか?」

「ん?」

 少し頭が薄くなり始めている中年の店主がこちらを見る。


「あ、ああ、コイルか。コイルだと……そうだな、ゴールドより少し割高になるぞ。で? 食べるものか……今の時間だと出来合いの汁物とか簡単なものになるが良いか?」

 時刻は昼を過ぎている。かき入れ時が終わり、後片付けの時間なのだろう。

「構わない。もう何日もろくに食事をしてないんでね。食べられれば、それで良いさ」

「ふーん、そうかい。先払いでコイルなら……そうだな、千コイルだ。支払えるか?」

「千コイルか。確かに割高だな」

「ふん、嫌なら良いぞ。他を当たってくれ」

 少し頭が薄くなり始めている中年の店主は不機嫌そうな顔を隠そうともせず、そう告げる。


「いや、構わない。千コイルだな」

 肩を竦め、ポケットに忍ばせていた単三乾電池十本を店主に渡す。

「ああ、確かに」

 コイルを受け取り薄ら笑いを浮かべた店主に案内され、テーブル席に着く。他に客は居ないようだ。これなら目立つことなく安心して食事をすることが出来るだろう。あえて寂れた店を選んだが、それが良かったようだ。


「待っててくれ。すぐに持ってくる。それとこの一杯はサービスだ」

 店主がテーブルにグラスを置く。水だ。だが、その中には、うっすらと泥のような塊が沈んでいるのが見えた。悪く言えば泥水だ。だが、これはこちらに悪意がある訳ではないだろう。この水、あまり汚染されていない。単純に、汚染水を浄水器でろ過する際の精度が低かっただけだろう。泥水だろうと汚染水よりはマシだ。


 沈殿した泥が浮かないように気を付けながら水を飲む。


 水だ。


 飲める。


 しばらく待っていると、店主がスープとパンを持ってくる。

「こんなものでも良いか?」

「ああ、助かる」


 用意されていた木さじを使いスープを飲む。


 ごくごく、ごく。


 普通の味だ。


 何かこだわりがあるような味でもなく、特別、美味しい訳でもない。


 だが、不味くはない。


 それだけで充分だ。


 木さじを使い、スープを飲む。


 何杯か掬って飲む……その手が止まる。


 自分の手が震えている。手が痺れて……いる?


 店主を見る。


 店主はこちらを見てニタリと笑っている。


 体が思うように動かない。


「ま……さ、か……」

 ニタリと嫌な顔で笑っている店主を見ながら、そのままスープへと顔を突っ込ませるように倒れ伏す。


 そして、そのまま意識が……。


 ……。


 ……。


 ……。


 気がつくと、そこは見知らぬ部屋だった。


 慌てて体を動かす。


 だが、動けない。


 体が縛られている。


 紐で縛られ、芋虫のように転がされている。


「ねーちゃん、新入りが目を覚ましたよ」

「ふーん」

 そこにはこちらを見る、同じように縛られた少年少女の姿があった。


 年は若そうだ。


 十二、三歳くらいだろうか。まだ子どもだ。


 姉弟と思われるその二人はよく似た姿をしている。もしかすると双子なのかもしれない。


「ここは?」

 その二人に聞く。

「知らない」

「あんたと同じように捕まったんだから知ってる訳ないじゃない。馬鹿なの?」

 こちらと同じように縛られた少年と少女がそんなことを言っている。


 そうか、この二人も同じように捕まっているのか。


「そうか」

「そうだよ」

「そうですわ」

 姉と思われる少女の方は何が面白いのか、おほほほと笑っている。


「これは困ったな」

 俺がそう言うと……、

「僕も困った」

「困りましたわ、おほほほ」

 二人はそう返す。


「あまり困ってないように見えるが?」

「困ってるに決まってるじゃない!」

 少女が叫ぶ。


 どうやら本当に困っているようだ。


 さあ、どうする?


 俺は……どうしようか?

本年もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] また油断している! それとも、水で安心させてからのという店主のテクニックなのかもー
[良い点] 見知らぬ部屋だ! [一言] ゴールド、めっちゃ浸透してる……世情の移り変わりが激しい。 定命の者がどんどん老いたり死んだりしていくし、なんかこう不老不死の超越者になった気分で読めますね。 …
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