575 オーガキラー47
真っ白な髪の角刈りの男が跪き、自分の手を、体を見て嘆いている。異様な光景だ。
ゴズが走る。
「現れたその姿――それがお前の真の姿か」
ゴズが真っ白な髪の角刈り男の目の前まで駆け、右の拳を放つ。そのゴズの右手が何者かによって掴み、止められる。
その何者かは――良く分からない言葉で嘆き続けている真っ白な髪の角刈り男と同じ姿をしていた。違いがあるとすれば髪の色が黒だということだろうか。
「おっと、やらせねぇよ!」
黒髪の角刈り男――コックローチが叫ぶ。
「一匹見たらと言うが、本当にしぶとい、非常にしつこい奴だ」
「あの女、まさか、俺様という殻を斬り、中の本体を取り出したのか? そんなことが出来るのか。なんでも斬るッてぇのは言葉通りかよ! 俺様がこんな醜態をッ! だが、やらせねぇ、やらせねぇぞ。その女もさっきの一撃で力を使い切ったようだな。惜しかったなぁ! 俺様たちを追い詰めたつもりかもしれんが無駄だ。雑魚のお前が消えれば全て元通りだッ!」
コックローチが叫ぶ。
「そうか、それで?」
ゴズがコックローチに握られた手を捻る。
「は! 逃がさねえよ! このまま死ね!」
コックローチが、ゴズの手を逃がさないように掴んだまま、もう片方の手で分銅を振り上げる。
「それで?」
ゴズが体を捻る。捻り、コックローチに蹴りを浴びせる。コックローチが、そのゴズの蹴りを振り下ろそうとしていた分銅で受け止める。
「雑魚の一撃だな。そんな攻撃が俺様に……」
「そうか、それで?」
ゴズが分銅によって受け止められた蹴り足に力を入れる。分銅にヒビが入り――そして、そのまま砕け散る。
「んだとッ!」
コックローチが驚きの声を上げる。
「十年前ならお前に苦戦したかもしれないが、今更、お前ごときに俺が苦戦すると思うか?」
ゴズがコックローチの顎を蹴り上げる。その一撃で掴んでいた右手が離れる。
「んだとッ!」
顎を蹴り上げられたコックローチが驚きの声を上げる。
「それはもう聞いた。潰れろ」
ゴズが蹴り上げた足を振り下ろす。その一撃によってコックローチの頭がぐしゃりと潰れる。
確実に命を奪う一撃。
コックローチは無残に散った。
ゴズが改めて真っ白な髪のコックローチとそっくりな男を見る。
「うそ、うそ、うそ。ここはゲームの世界でしょ。私は、その知識を活用して上手くやっていたじゃない。これも世界の強制力? でも、それだと、フラグが……おかしい。干渉しすぎたの? もう、なんで、どうなってるの? それにこの体、どういうこと? 何が起こったの? バグ? ゲームの世界だからバグったの? 現実になったはずなのに、でも、バグだとしたら、こんなの酷すぎる。こんな体になるなんて、おかしい。あり得ないよ」
真っ白な髪の角刈りの男がブツブツと呟いている。
「こいつがコックローチの本体? こいつは何を言っている? どういうことだ? いや、気にする必要は無いだろう。こいつを倒せば終わりだ」
ゴズが真っ白な髪の角刈り男――その顔面を殴り飛ばす。
「ん?」
だが、妙な感触にゴズが首を傾げる。
ゴズが吹き飛んでいく真っ白な髪の角刈り男を見る。男の顔面から、分裂するように同じ顔が生えていた。その顔がゴズの拳を、一撃を本体の代わりに受け止めていた。
「痛ぇ、痛ぇ、なんて力だ。お前は何者だ!」
顔から分裂するように増えたもう一つの顔が叫んでいる。
「俺が何者? そんなことはどうでも良いことだろう。ただの――お前を倒す者だ」
「俺様に、こんなことをして許されると思っているのか! 止めろ! 今すぐ止めろ! こいつが、ワカバがこれを現実だと認識してしまう。そうなると俺様たちは、ゆめまぼろしに……不味い、不味い、これ以上は不味い。止めろ、止めるんだ! 俺様たちが消える。これ以上は不味い。不味いって言ってるだろうがッ!」
分裂した黒髪の角刈り顔が叫んでいる。
「うるさい」
ゴズがそれを無視し、その分裂するように増えた顔ごと蹴り飛ばす。
「ぶべらっ! あー、くそがッ! 夢を見ているだけの本体が、どうやった! どうやって表に出したんだ! あの女! あの女、どうやって俺様たちという殻を斬ったんだ! 無限に生まれる俺様たちが守る限り、夢は続くはずだった。こ、こんなのはあり得ねぇっ!」
ブツブツと虚ろな瞳で呟いている真っ白な髪の男――そこから分裂した黒髪の顔が叫んでいる。
「本当にしつこい奴だよ、お前は」
ゴズが機械仕掛けの左腕を操作する。
「何をするつもりだ!」
コックローチが叫ぶ。
「お嬢を甘く見たこと、それがお前の敗因だ、コックローチ!」
ゴズが機械仕掛けの左腕を動かす。その左腕から刃が飛び出す。
「お前は、お前は何者だ! こんなのはあり得ねぇ!」
叫ぶコックローチ。
「まだ分からないのか、コックローチ。知っているぞ。分かっているぞ。お前たちがオリハを追っている理由は――」
そして、その刃を振り下ろす。
「なんで、それを知って……」
コックローチの方の顔が驚き、大きく目を見開いてゴズを見る。見ていた。
ゴズが振り下ろした機械仕掛けの刃によって真っ白な髪の男が真っ二つになった。




