574 オーガキラー46
ゴズが走る。
オウカとコックローチの戦いは続いている。コックローチが振り回す分銅をオウカが無骨な刀で弾く。オウカが無骨な刀を振るい、それをコックローチが分銅で弾く。無骨な刀と分銅がぶつかり合い、弾かれる。二人は何度も何度もそれを繰り返している。
アクシードの兵隊たちは、その激しいぶつかり合いに巻き込まれないように距離をとっている。それほど二人の戦いは激しいものだった。
両者の力、技量は拮抗しているように見える。
だが……、
「あー、こんなものかよ! どうやって身につけたか知らねぇが、ナノマシーンを操作しているようだからよぉ、もう少しやるかと思ったが、所詮は雑魚か」
コックローチがオウカとの打ち合いを止め、手に持った分銅を肩に乗せる。
オウカが無骨な刀を杖のように地面に突き立て、荒く肩で息をする。
オウカが空を見る。
そして大きく息を吸い、吐き出す。
「あ? 死ぬ覚悟は出来たか? ナノマシーンを操作して切れ味を良くしていたようだが、限界だな。そこが雑魚の限界だ。雑魚はなぁ、俺様に届かねぇんだよ」
コックローチがオウカを煽る。
オウカが無骨な刀を強く握り直す。
「なんでも斬れて気持ちよかったか? だがなぁ、同じ力を持った相手には通じねぇ。その程度なんだよ、お前は!」
コックローチが笑い、分銅を振り回す。
「お嬢!」
ゴズが叫ぶ。
オウカが迫る分銅を無骨な刀で受け止める。
だが、その無骨な刀が弾かれる。
「俺様のこいつにヒビを入れて得意気になっていたよなぁ。だが、結果はどうだ!」
コックローチが笑う。
コックローチの分銅に弾かれた、まるで棍棒にしか見えない無骨な刀にヒビが入る。
コックローチが再び分銅を振るう。オウカがヒビの入った無骨な刀で受け止める。分銅と無骨な刀、その力が再び拮抗する。しかし、それも長く続かない。無骨な刀に入ったヒビが徐々に大きくなっていく。コックローチがニヤニヤと笑い、分銅に力を込める度に、無骨な刀のヒビが大きくなっていく。
オウカは気合いを入れるように大きく息を吸い、吐き出す。
「弱い者ほどよく吠える!」
そして、そう告げる。
「あ? それがお前の遺言か? 雑魚らしく潰れちまいな!」
コックローチがとどめとばかりに大きく力を入れる。
「くっ」
オウカが小さく呻き、そして後方へと飛び退く。
「逃げたな! 雑魚がっ……ッ!」
コックローチが追い打ちをかけようと動き、その足が止まる。
「んだとッ!」
コックローチが立っていた場所に爆発が起きる。
それは、ダークラットの放った一撃だった。
パンドラの残量が足りず撃てないはずの一撃がダークラットから放たれていた。420mm殲滅砲による一撃がコックローチを飲み込む。
……。
「雑魚が邪魔してんじゃねえッ!」
だが、その一撃すら分銅を盾にしてコックローチは防ぎきっていた。
コックローチと距離をとったオウカが覚悟を決め、大きく息を吸い込む。
「確かに強敵だ。よかろう、うちの本気を見せよう」
オウカの額にある角が強く輝く。何かに呼応するように光り輝いていく。
オウカが、ヒビが入り今にも折れそうな無骨な刀を正眼に構える。そしてその構えた無骨な刀に、左手を――指を這わす。
「お嬢、駄目だ! それは駄目だ。俺に任せろ。任せるんだ!」
ゴズが叫ぶ。
オウカの髪が白く銀色に輝いていく。
そして、無骨な刀が光の粒子となって霧散していく。無骨な殻が剥がれ落ちる。
棍棒の形をしていた殻の中から現れたのは透き通るような刀身を持った玲瓏たる刃だった。
「なんだ、そいつは? そんなものになったからって何が変わる。そんなこけおどしが俺様に通じると思っているのかよぉッ!」
コックローチがオウカを馬鹿にするように叫ぶ。
オウカが現れた白銀の刀を腰だめに構える。
「参る」
そして、オウカが踏み込む。
オウカが一筋の閃光となって駆け抜ける。
一瞬にしてコックローチを抜けたオウカが白銀の刀を振るい、腰だめに構え直す。
「な、んだと……まさか、まさかッ!」
コックローチが駆け抜けたオウカの方へと振り返る。
その手に持った分銅に線が入る。
その体に線が入る。
コックローチの手にある分銅がバラバラに砕け散る。
「切れ、斬れ、斬れちゃうーッ!」
コックローチの体がずれる。
コックローチの体がバラバラになって砕け散る。
オウカが空を見るように顔を上げ、ゆっくりと目を閉じる。その手から白銀の刀がこぼれ落ちる。オウカが膝を付き、倒れる。
「お嬢っ!」
そのオウカをゴズが受け止める。
「お嬢、無茶をし過ぎです」
オウカは何も答えない。意識を失っているようだ。
ゴズがオウカを地面に優しく横たえる。
「お嬢、後は任せてください」
ゴズが大きく息を吐き出す。
「おい、まだ生きているんだろ? その名前と同じくらいしぶとい生命力だろうからな」
ゴズがバラバラになったコックローチの肉片が散らばる辺りを見る。
そこに人が居た。
「なんで、なんで、どうなってるの? え? うそ? なんで、これが私? うそ? どういうこと?」
それはそんなことを呟いていた。
「後始末だ」
ゴズが機械仕掛けの左腕を鳴らし、右手を前へと突き出す。




