572 オーガキラー44
ショーヘーが補助用のアームが取り付けられた台車のような機械を使って武器庫のブルドーザーのようなクルマから巨大な砲を取り外す。
「よし、運んでくれ」
「はぁ、なんで苦労して手に入れたコレクションを、こんな、こんなことに。おかしいだろ、おかしいぞ、おかしいよな」
「おいおい、手を止めるなよ。命があっただけ良いんじゃねーか。それとも死にたかったのか? 殺されるよりはマシだと思うぜ」
「そんなことにならない。きっと上手くいっていたはずなんだよ。ちょっとミスっただけでこんなのってありかよ。無いよ」
「自分は死なない、必ず成功する、なんとかなる、か。そのくらいの時はそう考えるよなー、思い込み、ああ、まぁ、良いんじゃあねえかなー。だけどよー、グチグチ言うのも良いが、作業の手は止めるなよ」
「やってるよ、やってるだろ! 見えないのかよ、見ろよ」
ショーヘーと武器庫がわぁわぁと騒ぎながら作業をしている。
「よし、砲の方は任せたぜ。俺はパンドラの方を見るからさ」
「誰に言っているんだよ。はぁ、せっかく手に入れたヒュージブルが……」
武器庫はブツブツと呟いている。
「ヒュージブル?」
その呟きに気になる言葉を見つけたゴズが武器庫に話しかける。
「この砲のことだ、ことだよ。420mm殲滅砲、通称ヒュージブルさ。なんでもでっかいとかそういう意味らしいけど、ぴったりだろ。ぴったりだよな?」
「殲滅とはおだやかじゃないな」
「それだけ強くて格好いいんだよ!」
ダークラットに巨大な砲が取り付けられる。
オウカとオリハはそんな作業を無視して、ショーヘーが作ったチャーハンのようなものを食べていた。
「むぅ、うむ」
オウカは片眉をしかめながらチャーハンのようなものを口に運んでいる。
「不味い」
オリハはぺっぺっと吐き出すような仕草をしながらも無理矢理食べている。
「お嬢とオリハは……、まぁ、仕方ないか。調味料無しで素材の味だけだろう? アレをチャーハンと呼ぶのはおこがましい、だな」
ゴズが肩を竦め、オウカたちからダークラットの方へ視線を戻す。
「この遺跡でダークラット用の砲を手に入れるつもりが、運が良かったな」
「こっちは運が悪かったよ、最悪だよ!」
ゴズの言葉に武器庫が反応する。
「そうか。それで?」
「はぁ、ここの遺跡は食料品ばかりで、きっと保存庫だったんだろうね。武器なんて殆ど無かったんだから、ホント、良かったね」
「ああ、感謝してるさ」
皮肉を意に介さないゴズに、武器庫が大きなため息を吐く。
「それはどうもさ。いつか見てろよ」
「にしても、デカいな。ヒュージと名前についているだけはあるのか? しかし、これだけ大きいと通路によっては引っ掛かりそうだ」
ゴズが420mm殲滅砲を見る。その砲身は20メートル近い。
「折りたたみ式だよ。分かるだろ、分かる? この砲身が上にスライドするんだよ。見てなかったのかよ」
「砲身が動くのか。確かに戦闘ではそんな動きをしていたな。それでも結構な大きさになるな。可動式だと強度の問題が気になる。そこは大丈夫なのか? ちゃんと動くのか?」
「そこそこだよ。そこ、気になる? 強度? 攻撃でどうにかなるとか考えている系? シールドを使えば良いじゃん。はぁ、素人はこれだから。動きだってさぁ、パンドラからの流れに問題が無ければ動くに決まってるでしょ」
武器庫の言葉を聞きながらゴズは肩を竦める。
そして、全ての作業が終わる。
「全て終わったぜ。主砲の取り付け、パンドラの改造、ともに完了だ。作業賃は、と言いたいところだが」
ショーヘーはそこまで言い、武器庫の方を見る。
「んだよ」
武器庫の言葉にショーヘーは肩を竦め、ゴズたちの方へと向き直る。
「それで、もう行くのか? 調味料も貰ったし、もう少し美味い料理を作ってやるぜ?」
「俺は遠慮をしておく」
ゴズが肩を竦める。
「うむ、む」
「不味いー!」
オウカは言葉を濁し、オリハは元気に断る。
「そうかよ」
ショーヘーがカウボーイハットを指で弾く。
「俺たちはもう行く。ショーヘー、助かった」
ゴズとオリハがダークラットに乗り込む。
「クロウズのお嬢さんたち、俺もしばらくしたら、ここを出るつもりだぜ」
「ああ」
ゴズがハッチから手を出し、その手を振る。
「お前は俺の知っている奴によく似てる。元気でやれよ」
ショーヘーの言葉を聞きながらゴズがハッチを閉める。
巨大な砲が新しく取り付けられたダークラットが動き出す。
その砲塔にオウカが乗る。
「む。これは、む。跨がれば良いのか? むぅ」
そのオウカは座る位置が決まらず、少し困っているようだった。
「お嬢、適当にお願いします」
「うむ、む」
ダークラットが遺跡を進む。
来た道を戻る。
……。
「……オリハ、主砲の制御は任せる」
「りょーかいです」
ゴズの命令にオリハが元気に答える。
そして、遺跡の外に出る。
そこには――
行きに追いかけられた赤ん坊のような体型の巨人の姿は無かった。
だが、その代わりに……
「はっはっはっは、雑魚が来たぞ。雑魚が!」
真っ黒な髪にタンクトップの男と無数の兵隊、装甲車がゴズたちを待ち構えていた。
「コックローチか」
ゴズが呟く。
「コックローチ?」
オリハが首を傾げる。
「名前の通り、しぶとい奴だ」
ゴズが舌打ちをする。
「さあて、雑魚を潰すぜ」
ゴズたちを待ち構えていたアクシード四天王のコックローチ。そのコックローチと兵隊が動き出す。




