571 オーガキラー43
「おう、もう戻ってきたのか?」
ショーヘーがカウボーイハットを指でパチンと弾き、鉄鍋を振るう。
「さっきも料理をしていなかったか?」
ゴズがその鉄鍋を見て、訝しむ。
「最近の俺の趣味は料理なんだぜ? 戻ってきたら振舞ってやろうと思って準備をしていたのさ。どーだ、嬉しいだろ?」
「そうか、それで?」
「それで? じゃねーだろー。喜べよ」
ゴズの言葉にショーヘーが肩を竦め、呆れたように大きなため息を吐く。
「んで? 隣に居るのは武器庫か。そいつをどうするつもりなんだ? そのクルマ、そいつのだよな?」
今度はゴズが肩を竦める。
「こいつが賞金首だというのは知っているか?」
「ふん。このアクシードの幹部である自分が……」
ゴズの隣に座っていた少年が何か喋ろうと口を開いたが、そのゴズに小突かれ、威圧され、慌てて口を閉じる。
ゴズは無言でショーヘーを見る。ショーヘーはかぶっていたカウボーイハットを脱ぎ、指でくるくると回す。
「知ってるぜ。だが、わかんねーなー。賞金首になったそいつを連れてきた理由がわかんねーぜ。あんたらはクロウズだろう? 賞金首をぶち殺して終わりなんじゃねーかー?」
「ショーヘー、俺がお前のところに来た理由が本当に分からないのか?」
ショーヘーがゴズを見る。ゴズとショーヘーの視線が交差する。
「わかんねーなー。俺の知っている奴なら、こんな面倒なことはしないはずだ。どういうつもりだぜ。地上のオフィスに向かう……帰る前に立ち寄ったってことか?」
ゴズは肩を竦め、大きくため息を吐き、横に座った少年を見る。
「俺がこいつを連れてきた理由を分かっているんだろう?」
「確信が持てなかったのさ。そう言うってことはそうなんだろうな。あんたら客人が連れてきた理由は分かったぜ。だがよ、俺に返せるものが無い。俺はコイルなんて殆ど持ってないぜ」
ゴズがショーヘーを見る。ショーヘーはくるくるとカウボーイハットを回している。
「うちのお嬢が、こいつを助けたいと仰せでね。賞金首のこいつを殺さずに処理するには――それしかない。オフィスに生きたまま渡しても実験動物か炭鉱送りだろう? ただ生きているだけでは、お嬢の意志が無駄になる」
ゴズが少年を見る。少年は実験動物か炭鉱送りと聞いてぶるりと震えていた。
「だがよー、賞金は貰えるぜ? そいつの賞金、それなりの額だったはずだ」
ショーヘーの言葉にゴズは肩を竦める。
「あんたに恩を売れる。こいつは、あんたと同じ七人の武器屋の一人だろう? 腕は確かなはずだ。助手が居て困ることはないんじゃあないか? そして、だ。あんたに改造を頼みたい。こいつの主砲を、あっちのクルマ――ダークラットに付け替えて欲しい」
「お、おい。俺のクルマの武装を勝手に……」
ショーヘーがくるくると回していたカウボーイハットを指でピンと弾き、かぶり直す。
「なるほどな。その馬鹿デカい主砲をつけるなら、あっちのクルマのパンドラを、出力を上げる改造をする必要がありそうだ。わーた、わーったぜ。そいつのことは引き受けた」
「良いのか?」
「ああ。元々は中立であるべき俺たち武器屋が、その禁を破った、しかもお尋ね者に肩入れをしたっていう、身内の問題だったといえば、そうだからな。引き受けるぜ。俺が性根をたたき直してやるさ」
「おい、勝手なことを言うなよ、言うんじゃねーよ。古くさいしきたりだとか、そんなものに縛られねー。なんで俺より腕の落ちる奴にこき使われ……ひっ」
ゴズが少年を威圧し、それ以上、喋らないように黙らせる。
「こいつはこんな感じだが? 首輪でもするか?」
ゴズの言葉にショーヘーが肩を竦める。
「隷属電子契約書で縛るさ。契約内容は雇用主の言うことを良く聞き、逆らわず、そのサポートをすること……くらいか。細かいことは後で決めるとして、まぁ、これで良いだろうさ」
「それで?」
「ふ、ざけんなよ。誰が従うか。そんな契約、誰がよ!」
「これを破れば、地上のありとあやゆる商会、施設、諸々が利用することが出来なくなる。表も裏も、だ。子々孫々続く、かなり重い契約だからな。あんたらに逆恨みしても何も出来ないぜ。これならあんたらも安心だろ? んで、だ。賞金額分、いや、それ以上の改造をしてやるさ。悪くないだろ?」
「なるほど」
少年は反抗し、騒ぎ続けたが、最終的に賞金首として殺されるよりはマシということでショーヘーと契約を交わす。
「それじゃあ、あんたらのクルマ、改造しますか。さっそくだが、働いて貰うぜ」
「あー、くそー、あんな化け物に手を出すんじゃなかった」
ショーヘーが腕をくるくると回し、少年がブツブツと呟く。
「お、そうだ。俺が作った料理は遠慮無く食べてくれ」
ショーヘーと武器庫がダークラットの改造を始める。




