569 オーガキラー41
「お嬢、独り?」
肩を竦めていたオリハが首を傾げながら、そんなことをゴズに聞いてくる。
「お嬢一人に戦わせてて良いのかと言いたいのか? それともお嬢の能力がお嬢を孤独にしていると言いたいのか?」
ゴズの言葉にオリハが先ほどとは逆方向に首を傾げる。それを見たゴズが肩を竦める。
「お嬢は一人じゃあないさ。俺が居る。そして、お前だって――そうだろう?」
ゴズはオリハを見る。その目を見る。オリハは何かを考えるように、一瞬だけ目を瞬かせ、そしてゆっくりと頷く。
「そうか」
オウカがトゲの生えた壁に突っ込み、その懐へと踏み込む。オウカの握る無骨な刀がきらめく。
「お嬢!」
ゴズが慌てて叫ぶ。
オウカが、振り切ろうとしていた無骨な刀を止める。巨大な砲身すれすれのところで無骨な刀が止まっている。後一瞬でもゴズの制止が遅れていたら、巨大な砲身は、オウカの無骨な刀によって斬り飛ばされていただろう。
オウカが無骨な刀を、振り切ろうとしていた力を逃すように身を捻る。回転しながら横に飛ぶ。そのままトゲの生えた壁を斬り飛ばし、巨大な砲身の下に並ぶ無数の機銃も斬り飛ばしていく。
オウカが無骨な刀を振るう度に、面白いように壁が、銃身が、バラバラになっていく。
[聞いていた以上の化け物だ。異常だ。狂ってる。狂っていた。だが、見えた。分かった。知っているか? 武器庫の名。その意味。教えてやる、分かった。分からせてやる。弱点は見えた。終わる、終われ]
バラバラになった壁の向こう側、そこには無数のミサイルポッドがあった。
[隙を生じぬ二段構え。ここから攻撃。ここから反撃。斬るなら斬れ。だが、斬る前に爆発。お前は爆風に飲まれて死ぬ。死んじまう]
無数のミサイルポッドからミサイルが放たれる。
オウカの足が止まる。
オウカが乱れ飛ぶミサイルの爆発と爆風に飲み込まれる――かと思われた時だった。
オウカを狙っていたミサイルがくるりと向きを変え、見当違いの方向へと飛んでいく。
[な、何をした! 狂ってる。計画が狂ってる。真っ直ぐ進まないミサイル、乱れる道ィ!]
武器庫が道化のように、歌うように叫ぶ。
ゴズが拡声器のスイッチを入れる。
「何をした? 言うと思うか? わざわざ攻撃をしますと相手に伝えてから攻撃をしてくるような間抜けに教えると思うか?」
[馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁ]
オウカが無骨な刀を振るう。並べられていた無数のミサイルポッドを斬り飛ばしていく。
「どうやったの? ううん、きっとそう。ナノマシーン?」
オリハがゴズに訪ねる。
「そうだ。まるで魔法だろう? この周囲に漂うナノマシーンに命令し、ミサイルを構成しているナノマシーンを制御し、爆発しないようにして飛ぶ方向を調整した。それだけだ。ナノマシーンで創られた――再生したこの世界だからこそ出来ることだ」
「魔法?」
「ナノマシーンの扱い方を教えてくれたのはお前だったろう?」
「お前?」
オリハが良く分からないと首を傾げる。
「まぁ、いいさ。なんでも無い、こちらのことだ」
「こちらのこと?」
オリハは良く分からないと首を傾げている。
「そうだな。どうでもいいってことさ」
ミサイルポッドだったものの向こう側にはブルドーザーのような作業機械と、その機械を動かす少年の姿があった。
「ふむ。お前の叙情詩、ここまで響かなかったよ」
オウカが無骨な刀を振るう。
ブルドーザーのような作業機械に斜めの線が入り、乗っていた少年だけを避けるようにして、そのままスライドするように作業機械の上半分がずり落ちていく。
「ひ、ひぃぃぃ」
乗っていた少年が情けない声で悲鳴を上げている。
オウカが得意気に胸を反らし、無骨な刀を自分の肩に乗せる。どうやら戦いは終わったようだ。
ゴズがダークラットを走らせ、膝を付いて命乞いをしている少年の前で止める。
「お嬢、どうするつもりですか?」
ゴズがオウカに確認する。オウカは大きなため息を吐き、眉間に手を当てる。
「む。賞金首でも無いのだろう? 必要なものが手に入ったら放置で良い」
ダークラットのハッチから顔を覗かせていたゴズは、無傷のまま残っている巨大な大砲を見る。ダークラットに取り付けて使えそうだ。
ゴズは次に少年を見る。そして大きなため息を吐く。
「お嬢、賞金首ですよ。賞金額は四十二万コイル、生死不問ですね。そこそこ大物ですよ」
「む」
オウカが困ったような顔でゴズを見る。
「ひ、助けてください。何でもします。何でもしますから!」
少年はぶるぶると震え、命乞いをしている。
「もう一度聞きますよ。お嬢、どうするつもりですか?」
「む。むうぅ」
オウカが腕を組み、悩ましげに唸る。
「どんな選択でもお嬢に従いますよ。お嬢、どうしますか?」
「ゴズ、この者は武器屋という技術集団の一人なのだろう?」
「ショーヘーの話からするとそのようですね」
「よし。決めた。ショーヘーの奴隷のような弟子という形でショーヘーに預けよう。うむ。これは別に子どもを殺すのが忍びないからではない。技術が惜しいと思ったからだ。うむうむ」
「ヨシじゃあないんだよなぁ。お嬢、本当にそれで良いのですね? はぁ、お嬢が決めたことなら従います。お前も分かったな」
ゴズの言葉に怯えていた少年がびくりと反応し、必死に何度も頷きを返していた。
ゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。
「お嬢は子どもに甘すぎる」




