568 オーガキラー40
オウカが無骨な刀を構え飛び出した――その瞬間を狙っていたかのようにトゲの生えた壁が動く。壁の中央部分が開き、そこから無数の銃身が現れる。
突っ込む態勢だったオウカが慌てて足を止める。
現れた銃身が一斉に火を吹く。次々と、雨あられと降り注ぐ銃弾。
「な、な、なにゃにゃにゃにゃーんなー」
オウカが奇声を発し、足を止め、一心不乱に無骨な刀を振るう。飛んでくる無数の銃弾を斬り潰していく。
[知ってる。知ってるぜ。聞いた。聞いたからな。何でも斬るんだろう? 斬ってしまうんだろう? シールドすら無効化するんだろ? 斬るんだろ? 聞いている。知っている。これだけの数、これだけの銃弾、斬れるか? これでも斬れるのか? 試せ、試してみろ]
目の前の壁からダークラットに向けて通信が入る。
ゴズは苦虫を噛み潰したような顔のままダークラットを急発進させる。
「お嬢、こちらのシールドの中に入ってください」
「ん!」
オウカは銃弾を斬り飛ばしながら、ゆっくりと、ジリジリと後退する。
「こんな豆鉄砲でクルマをどうにか出来ると思っているのか」
ゴズが拡声器のスイッチを入れ、オウカからダークラットに攻撃が移るように挑発する。
[豆鉄砲? 小さな銃弾? 生身を殺すには充分。数が増えればシールドを削るのに充分。お前らを殺すのに充分。報酬を貰ってハッピー。地位も上がってハッピー。お前ら礎、踏み台、お立ち台、登り詰める]
ダークラットが盾になるように走り、オウカを回収する。ダークラットのシールドに銃弾が降り注ぐ。じわりじわりとシールドが削られ、パンドラを消費していく。ダークラットの機銃を動かし、応戦するが数の暴力に撃ち負ける。弾幕が、シールドが、ダークラットの攻撃を防ぐ。届かない。
「ちっ」
ゴズが思わず舌打ちする。
無数の銃身が並ぶ壁が動こうとしていた。
トゲの生えた壁と壁の隙間から覗いていた無数の銃身――その上に何かが滑るようにして現れようとしていた。
それは大きく巨大な砲身だった。
現れた巨大な砲身は、一撃でダークラットをシールドごと吹き飛ばしてしまいそうな威圧感を放っている。
「お嬢」
「うむ」
「突っ込みますよ」
ダークラットを走らせる。
無数の銃弾がダークラットのシールドを削っていく。そのダークラットの砲塔の上でオウカは無骨な刀を構える。
[無駄。無駄だ。斬れるものなら斬ってみろ。斬った瞬間、爆発だ。もう終わりだ。お前は死ぬ。死んでしまう。そうだ、斬れ。斬らなきゃ爆発で死ぬ。斬ったら爆発して死ぬ。死ぬ、死ね、死ぬんだよ。終わりに追われ、終わって終わる]
ダークラットに通信が入ってくる。ゴズはその言葉をオウカに告げない。中継しない。
「あの砲身に込められた弾は、斬った瞬間、爆発するようになっているのだろう。あの巨大な砲身から銃弾が撃ち出される前に、あの壁を壊すしか……それしか生き残る道はない。だが、もう間に合わない」
ゴズはパンドラの残量を確認する。
「今のパンドラの残量ではシールドで防ぐのは難しい、か」
「お嬢、死んじゃう?」
オリハが心配そうな顔でゴズを見る。
「いいや、問題無い。お嬢がやってくれるさ。お嬢は斬っているが、斬ってはいないからな」
「斬ってない?」
オリハは不思議そうな顔で首を傾げる。
「そうだ。原理は分かるが、どうしてそんなことが出来るのか分からない。お嬢は何でも斬れるように見えるが、実際は斬れないものの方が多い。まぁ、普通に考えれば、あんな刀のようなもので斬れる訳がない。じゃあ、何故、斬れるのか? この時代、この世界だからお嬢は斬ることが出来る、とそう言えるだろう」
ゴズはちらりとオリハを見る。
「……ナノマシーン?」
オリハは少し考え、そう答える。
「オリハ、正解だ」
ダークラットが巨大な砲身を覗かせた壁へと突っ込む。その勢いのままオウカが飛ぶ。
巨大な砲身が激しく前後し、砲弾が撃ち出される。
オウカが撃ち出された砲弾へと飛び込みながら無骨な刀を振るう。
そして――砲弾が真っ二つになった。
砲弾を斬り飛ばしたオウカが着地する。そのままトゲの生えた壁へと走る。
[何故? 何故だ? 爆発しない? 不発だった? そんな偶然? 運を味方にした? ありえる? ありえない!]
滑らかな断面で真っ二つになった砲弾が地面に転がっている。
「斬った!」
オリハが大きな声で喜んでいる。
「そうだな。斬った」
「運が良かったの? 不発弾だったの?」
オリハの言葉にゴズは首を横に振る。
「違う。お嬢は斬ったのさ。斬った? 正確には違うな。ナノマシーンに左右に分かれて貰っただけなんだろう。だから爆発しなかったんだ。お嬢が、どうして、そんなことが出来るのか、俺にも分からない。もしかするとお嬢が小さい時に行なった処置の影響でナノマシーンとの親和性が生まれたことが要因なのかもしれないが、それだけでは説明が出来ない。結局、お嬢が天才だからだ、と、そんな言葉で逃げるしか出来ないのさ」
ゴズは肩を竦める。
オリハも真似をして肩を竦めていた。




