566 オーガキラー38
「それで? 七人の武器屋だったショーヘーはここで何をしているんだ?」
ゴズが訝しむように七人の武器屋のショーヘーを見る。
「ホント、見れば見るほど似てるヤツだ。その小生意気な態度までそっくりだぜ」
「そうか、それで?」
ゴズの言葉にショーヘーは肩を竦める。
「俺はここに隠れ住んでいるのさ」
「そうか。出られなくなったのか?」
「ちげーしー」
ゴズの言葉に、ショーヘーがカウボーイハットの端を指で弾き、違うと言い張る。
「外の巨人どもに追いかけられて逃げ込んだ。そして出られなくなった。そうではないのか?」
「ん? そうか。アレがまた起動しているのか。誰かが、いや、もしかすると武器庫の奴がわざと起動させたのかもしれねぇな」
「あの巨人たちは……普段は居ないのか」
「そうだぜ。遺跡を破壊しようと、例えば入り口を無理矢理開けようとぶっ放すとかしない限りは出てこねぇ。遺跡を壊そうとするとどこからともなくやって来て、しばらくしたら勝手に消えるって感じだな」
「そうか」
ゴズが腕を組み、少しだけ考え込む。
「お嬢、こちらを狙った待ち伏せかと思いましたが、たまたまだったのかもしれませんね」
「ふむ」
オウカは話に興味がないのか、頷くだけで会話に加わろうとしなかった。
「まぁ、アレだぜ。住めば都と言うが、ここも悪くないぜ。地下には湧き水がたまった地底湖があるし、遺跡の守護者も起動していないから危険も少ない。たまに野生の肉もやって来るし、保存食も残ってる」
「野生の肉? まさか俺たちを襲うつもりじゃないだろうな?」
「ば、バッカやろー、誰が襲うか。そっちの大きなお嬢ちゃんなんて見るからにヤバいだろーが。ここにはなぁ、長い爪で目がない良く分からん野生動物が居るんだよ。そいつの肉を捌いて調理してるのさ。ここで足りないのはスパイスくらいさ。ということで調味料があったら分けてくれ!」
「良く分からん野生動物をよく食べる気になるな」
ゴズの言葉にショーヘーは歯を見せ、笑う。
「人間食おうと思えば何でも食えるもんだぜ」
「そうか、それは凄いな。生きようとする意思が人の可能性を高めているのだろうな。太陽の光も届かない、いつ遺跡の電源が落ちるか、いつ電気が消えるか分からないような――そんな不安定な場所で生活するなんてな」
ゴズは全然凄いと思っていない口調でそんなことを言っていた。
「……ま、仕方ねえ。仕方ないって奴だぜ。アクシードの奴らは俺を勧誘した。そして、俺は断った。それだけで追われることになった。たったそれだけだぜ。自由をアイする俺を束縛しようとするなんてよぉ! そうなったら、俺は逃げるしか、隠れ住むしかねぇ。そうだろ?」
「逃げて隠れて? そんなことを俺に言って良いのか? 俺があんたがここに居るという情報を連中に売るかもしれないぞ?」
「武器庫に俺がここに居ることがバレたからな。今更さ。それに俺はもう疲れた。ここから新しい場所に移動するのも、逃げるのも……俺ももう若くねぇんだよ。思い切ったことが出来ねぇ」
「そうか」
「そうなのさ」
ゴズとショーヘーがお互いに肩を竦め合う。
「それで、ショーヘーは武器屋だろう? このクルマに取り付けられそうな主砲を持っていないか?」
「ん? そのクルマ、それはワザとじゃないんだな? あいにく今、売れるようなのは俺の腕くらいでね。俺のクルマ――新グルーペアー号の武装を譲っても良いが、俺のクルマの武装は機関銃くらいしかないからなぁ。良ければ、そっちのクルマのパンドラの改造くらいはしてやるぜ。そっちのパンドラ、まだまだ余裕がありそうだからな。別物になるくらい出力をあげてやるぜ?」
ゴズは腕を組み考え込む。
「それはどれくらいかかる?」
「それはコイルが、か? それとも時間か?」
「両方だが、重要なのは時間の方だ。」
「一日あればやるぜ? コイルは、さっきも言ったが香辛料の方が欲しい」
ショーヘーの言葉にゴズが頷く。
「分かった。お願いしたい。香辛料もある分は渡そう」
「そうか。助かるぜ。これで味気ない食事とおさらばだ。ひゃっほーい」
ゴズは肩を竦め、話を続ける。
「だが、お願いするのは後だ。ここを漁っている武器庫とやらを倒し、主砲を手に入れてからだ」
「分かった。俺はここで待ってるさ。それで……」
「香辛料はその時に、だな」
ゴズの言葉にショーヘーががっくりと大きく肩を落とす。
「これに入れようと思ったんだがなぁ。まぁ、分かった。端末は持っているよな? こいつは先行投資って名のサービスだ」
ショーヘーからゴズに情報データーが送られてくる。それは周辺の地図と武器庫の予想位置だった。
「助かる」
「ああ。お前は俺が知ってた奴によく似てるからな。思わずサービスしたくなったのさ」
酷く疲れた顔のショーヘーが寂しそうに笑う。
「似ている、か。どんな奴だったんだ?」
「生意気なクソ餓鬼さ。だが、それが許されるだけの力を持った凄腕のクロウズでもあった。トップレベルのクルマ、武装、どれも凄腕と呼ぶに値するものだったよ。アレは俺の改造の中でも最高の出来だったな」
「値するのはクルマと武装だけなのか?」
ゴズの言葉にショーヘーは肩を竦める。
「もちろん腕前も、さ。生身でも化け物みてぇに強い餓鬼だったぜ。だが、そいつも、そんな奴も最前線の戦いで死んじまったと聞いた。どんな凄腕も死ぬ時はあっさりだ。……お前は死ぬんじゃねえぞ」
ショーヘーの言葉に今度はゴズが肩を竦める。
ゴズはショーヘーに背を向け、ダークラットへと戻る。そんなゴズをオウカが見ていた。
「お嬢、どうしました?」
「む。なんでもない」
オウカは慌てたように、それだけを口に出す。それを見てゴズは小さく笑い、肩を竦める。
「さあ、この遺跡の地図も、とりあえずの敵の情報も手に入りました。お嬢、ささっと片付けて戻りましょう」
「うむ」
ゴズがダークラットに乗り込み、物珍しそうにショーヘーを見ていたオリハも続く。




