565 オーガキラー37
「ふむ」
オウカが砲塔に寄りかかり腕を組む。
「ええ、お嬢。クルマで通れる道幅に天井の高さ、この先にクルマ用品があるのは間違い無さそうです。それが武器なら良いのですが、こればっかりは運……でしょうね。そして、先行した奴が居るのもこの先で間違い無さそうですよ」
ダークラットを運転しながら、ゴズは一人、喋る。
「ゴズ、お嬢が何か言った? ゴズの独り言?」
オリハはゴズの独り言を聞き、不思議そうに首を傾げる。
「ああ、オリハは知らないか。これは伝音だ。伝音と言っても武功小説に出てくるような技術ではない。音の原理は知っているか? 音を伝えているのは空気の振動だ。漂うナノマシーンに命令を出し、お嬢の周りの音を拾い、そのままこちらへと流す。逆にこちらからの音を擬似的に振動させ話しかける。この方法なら通信機や外部スピーカーを使わずとも会話が出来る。問題はナノマシーンの密度が薄い場所では使えないということと、ナノマシーンに命令を出せるもので無ければ使えないということだ。だが、オリハならすぐに使えるようになるだろう」
ゴズの言葉にオリハは、少し考え込み、ゆっくりと頷く。
「そうだ、それで良い」
ゴズも頷く。
ゴズがダークラットを運転し、迷路のように広がった地下の通路を進んでいく。ゴズはまるで、迷路の構造を知っているかのように迷い無く、進む。
「ゴズ、後どれくらいだ?」
オウカが無骨な刀をハッチにコンコンと叩き付け、ゴズに聞いてくる。
「お嬢の声、聞こえた!」
それを聞いたオリハが喜びの声を上げる。
「もう聞こえるようになったのか。では、今度はオリハからお嬢に、もうすぐです、と話しかけてみてくれ。応用だ。外に居るお嬢の声を聞くことが出来たオリハなら出来るはずだ。そうだろう?」
ゴズの言葉にオリハが頷く。
「お嬢、ゴズがもうすぐって言ってます」
「ゴズのもうすぐは当てにならん」
オリハの声はオウカに届いたようだ。聞こえてきたオウカの言葉にゴズは肩を竦めていた。
「ゴズ、当てにならない?」
オリハがゴズに聞いてくる。
「お嬢と俺のものさしが違うだけさ」
しばらく迷路のような通路を進み、閉じられたシャッターがある場所に辿り着く。
「ふむ」
砲塔の上に座っていたオウカが無骨な刀を持ち、ゆらりと立ち上がる。
「お嬢、待ってください。今、こちらで操作してシャッターを開けます」
「む」
オウカは不満そうな顔で砲塔の上に座り直す。
そして――ゴズが何かをやったのか、シャッターが開いていく。
シャッターの先の部屋には――一台のバスが駐まっていた。緑の果物の絵が描かれた機銃付きのクルマだ。そのバスの横に一人の男が居た。
その男は、地下であるにもかかわらず火を焚き、のんきに鉄鍋を振るって料理をしている。
オウカが男を見る。カウボーイハットをかぶった初老の男だ。四、五十歳くらいだろうか、カウボーイハットから除く男の髪にうっすらと白いものが混じり始めていた。
「ん? あんたらはクロウズか。あんたらも遺物探しかい?」
「ら?」
男の言葉にオウカが無骨な刀を構える。
「おいおい、おっかない嬢ちゃんだな。あんたとクルマを運転している人、それで、あんたらだろ?」
初老の男が片目を閉じ、キザに笑う。
「お嬢、待ってください。そいつは敵じゃあないです」
ゴズが慌てたようにハッチから外に出る。
「ん? あんたがクルマの運転手か? 俺の知ってた奴に、みょーに、似ているが、んな訳がないか。もしかすると息子か? いやいや、あいつに息子が? ねえーなー。あいつは死んだはずだ。他人の空似か」
「あんたは七人の武器屋のショーヘーか?」
ゴズが男に話しかける。
「お? 懐かしい名前だね。その呼び名、久しぶりに聞いたぜ。そうさ、俺が伝説のショーヘーさ。こんなところまで何の用だい? 俺に武器を改造して欲しいのか? 俺は高いぜ?」
初老の男はそう言いながら鉄鍋を振るう。どうやら炒め物を作っているようだ。
「む。それはチャーハンか?」
オウカが構えを解き、初老の男が振るう鉄鍋を見る。
「カレー!?」
そのオウカの言葉に、ひょこっとハッチから顔を覗かせたオリハが反応する。
「おいおい、そんな小さい子も居るのかよ。いくらクルマがあるって言っても、こんな場所まで良く来たな。それと悪いがこれはカレーじゃねえ」
「おじいちゃん、違うの? カレーは?」
「お、おじいちゃん、だと。この俺が? この年の子からだと俺も年寄りに見えるのか? ショックだぜ。あー、カレーを作るには香辛料がねえんだよ。もし、香辛料があるならわけてくれ。それ次第で武器の改造料を格安にしてやるぜ?」
カウボーイハットの初老の男が片目を閉じる。
「悪いが、改造は結構だ。俺たちはここにクルマ用の武器を探しに来た」
「武器か。残ってたかもしれねぇが……だが、武器庫の奴を見かけたから、どうだろうな」
「武器庫?」
ゴズが聞き返す。
「通称、武器庫。七人の武器屋の一人だった奴さ。今じゃあ、情けないことにアクシードの使いっ走りだぜ」
「そいつが?」
「そいつがここを漁ってるのさ。奴は根こそぎ持って行くぜ」
「そうか」
ゴズはそう返し、オウカの方を見る。
オウカは強敵の予感に身を震わせ、楽しげに口角を上げ、ニヤリと笑っていた。
それを見てゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。




